気を失った遼子の秘裂から遠山の精が溢れ静かに流れ落ちている。
まだ半裸の遼子に対して、身支度を終えた遠山がその光景を昏い表情を顔に浮かべ見つめていた。
突然、何かの発作のように笑い始めると遠山は顔を手で覆った。
この結果はわかっていたはずだ。
満足などできないことを。ただ心の飢えや渇きが酷くなるだけだということを。
鳴海洸至と関わった時から始まった永い夜の日々から逃れられない。
汚れの無いものを引き摺り下ろしても、以前いた場所へは還れはしないのだ。
…ならば、この音の無い部屋で遼子の魂が黒くなるまで自分の身中にある汚濁を塗り籠めてやるまでだ。
穢れた決意を胸に遠山が遼子の元へ歩き出した時だった。
リビングのドアが大きな音を立てて開いた。
遠山が振り返りそこを見ると、男が立っていた。
男が着る黒い貫頭型レインコートからは雨が滴り落ちている。
濡れたレインコートが鴉の羽根のように蛍光灯の光をうけ鈍く光っていた。
「意外と早かったね。あなたを待っていたんだ。待つ間、少々楽しませてもらったよ」
遠山が突如入ってきた男に驚きもせずに言った。
レインコートのフードをかぶる男の鼻から上は影になっており表情は窺えない。
だが、微かに顎が震えている所を見ると男は奥歯を軋む程噛みしめているようだった。
「主賓の登場だ。鳴海君に何かがあればきっとあなたは現れると思っていました。
連絡先がわからないので、不本意ながらこの方法をとるしかなかった」
遠山はベルトの背中側に挟んでいたベレッタを取り出した。
爽やかな微笑みを口元に湛えながら撃鉄を上げると、遼子に向けた。
麻薬を密売している男たちから買ったものだ。今の暴力団は銃よりも携帯電話で金を稼ぐ。
携帯電話で稼げないような知恵のないヤクザたちは銃を売り、廃業するか薬に溺れるかだ。
そのせいで銃は闇の市場でダブついていた。だから遠山のような素人でも簡単に手に入れられる。
「持っているんだろう銃を?下に置いてもらおう」
遠山に命じられた男が銃を取り出すと、抵抗もせず床に置いた。
「いくら防音でも銃の発射音なら漏れるんじゃないか」
銃口を向けられているというのに、男は意に介する様子もない。
世間話をするような調子で遠山と話していた。
「漏れてもいいさ、目的さえ果たせれば。手を上げて動かないで。もし動けばあなたの大事な妹から撃つ」
「…慣れないことは止めておけ。遠山」
男は素直に両手を上げた。
「僕は全てを失ったんだ。あなたのせいで。あの事件以来、僕はずっと夜の闇の中をはいずり回るような日々だ。
自信も、信念も誇りも仕事も肉親も全て失った…。あなたを撃って、僕の夜を終わりにしたい。」
「できるならな」
その言葉を合図に、遠山は男に銃口を向け躊躇わず引き金を引いた。
発射音が部屋に響く。音のあまりの大きさで遠山の世界から音が消える。
何度か屋外で練習したのでその音に慣れているはずだった。
しかし閉め切った屋内、それも機密性が高く、音を閉じ込める構造の部屋での銃の発射音は全く違うものだった。
轟音となって押し寄せたそれに、遠山は鼓膜を打たれ反射的に眼を閉じていた。
次に眼を開けた時、銃口の先には誰もいなかった。ほんの一瞬で視界から男が消えた。
遠山が恐慌をきたし首を巡らせた時だった。
音の無い世界に漆黒の羽根が翻る。
そう思えるほど優雅に素早くレインコートの男の腕が動いていた。
右手に耐えがたい痛みが走り、遠山は思わず銃を落としていた。
次に鳩尾に衝撃。
遠山の息が止まる。胃の中のものがせりあがる。喉奥に不快な酸味と苦みが拡がる。
反射的に身をかがめた遠山の後頭部に男の肘が叩きこまれ、遠山は床に勢いよく崩れ落ちた。
遠山は、今自分を襲った衝撃よりも叩きつけられたフローリングの床の冷たさに驚いていた。
その後に全身を襲う痛みと吐き気がやってきた。
床に落ちた銃をレインコートの男がすかさず蹴り、部屋の隅に飛ばしたのを遠山はぼんやりと見ていた。
躰は動かなかった。今遠山を支配しているのは恐怖と痛みだけだ。
それが遠山を凍らせた。
男は伸縮式の特殊警棒手にして立っていた。
袖口に隠し持っていたのだろう。
遠山に飛びかかると同時に袖から出し、瞬時に警棒を伸ばすと長さを活かして遠山の手首を打ったのだ。
「さすがは元警官だ…。それにしても慣れないことはするもんじゃないな」
だらりと垂れた手首を押さえながら遠山が立ちあがろうとしたが、片膝をつくのがせいいっぱいだった。
徐々に遠山の耳も機能を取り戻したのか、雨水を滴らせながら歩く男の濡れた足音が聞える。
男は遼子の足元にあった毛布を手に取ると、汗と体液に塗れた妹の躰にそっとかけた。
最後に男は、遠山の銃を手に取ると傍にやってきた。
「…僕を殺すのか」
遠山が男を見上げると、静かな怒りを湛えた瞳が遠山を見ていた。
「殺さないさ。お前のような男でも殺したら遼子が泣く」
「殺せよ。その方が楽だ。あんたのせいで僕の人生は滅茶苦茶だ」
遠山の人生を破壊した男――鳴海洸至が口元を歪ませた。
「俺のせいで…?そうじゃないさ、お前の中に元々あったものだ。遼子を餌に俺をおびき出すつもりなら、
さらうだけでいいだろう?道具まで使って遼子をいたぶる必要が何処にある?お前が言う夜の闇ってのは
お前がずっと抱えていて、お前はそれを知らない振りをしていただけだ。やりたかったんだろ、女相手にこんなことを」
「そんな訳はない。僕は…そんな人間じゃない」
「俺に関わったのに自分を失わなかった鷹藤といまのお前と何が違うかわかるか?
あの時、銃を手にした鷹藤にも復讐という選択肢があったはずだ。しかしあいつは俺に復讐することなく
遼子を信じて全てを託し終わらせた。その上、新党設立パーティーで警官に撃たれそうになっても、
自分の命を掛けて他人の命を救おうとした。とことん追い詰められても踏みとどまって、自分よりも
他人のことを思って行動したんだよ。今だって、この雨の中遼子を探して街中を走り回っている。
どうしようもない馬鹿とも言えるが…」
洸至の全てを見通すような眼が遠山を捉えた。
「だがな、お前は俺に秘密を握られあっさり信念を捻じ曲げ手を汚した。保身のためだけに。そうだろ?」
「僕には守るべき父がいた…だから仕方なく」
「仕方がないなんて言いながら、悪事に手を染める人間は結局は悪党なんだよ」
右手の打たれた部分が赤黒く腫れあがり、遠山を痛みで苛む。
それよりも、洸至の言葉の方が遠山の心を責め立てていた。
「いましたことは欲望からじゃない、純粋な復讐だ。僕はただ穢してやりたかっただけだ。あなたの大事なものを」
洸至が口元を微かに歪ませた。
「穢す…?こんなことをしても遼子に憐れまれているお前が、あいつを穢せるわけがないだろ」
遼子の方から啜り泣く声が聞こえてきていた。
ベッドの上で鎖が擦れる音がした。先ほどの発砲音で遼子が意識を戻したのだろう。
「ごめんね、史郎ちゃん…辛い想いさせてごめんね…私たちのせいで…ごめん…」
啜り泣きに混じって、遼子が呟いた。
あれだけ凌辱されたにも関わらず遼子は遠山のために泣いていた。
死んだはずの兄に、自分を助けに来た兄に声を掛けるよりも先に、遠山に謝っていた。
本当は遼子が遠山に謝ることなどない。
遼子を快楽の底に落として、汚濁の中に叩きこんだつもりが―――結局は自分が更なる闇に堕ちたことを自覚
させられただけだった。
「俺やお前が手にできる女じゃないんだ」
洸至が自分に言い聞かせるように呟いた。
「運命の女、か…」
自嘲気味に笑いながら遠山が洸至を見た。
洸至が特殊警棒を振りあげる。
首筋を強く打たれ、遠山の眼の前が暗転した。
床に崩れ落ちる遠山のところに馴染み深いいつもの闇がやってくる。
冷たく昏いそれを恐れていた遠山はもういない。羨むように見上げた光も今は眩しいだけだ。
しばらくは光など目にしないでいたかった。
闇に抗うことを止めたいま…それは心地よく遠山を包んだ。
本当に長すぎてすいません。お兄ちゃん、いつも微妙に間に合わないのがデフォルトにw
遠山×遼子エロ、こんなのしか書けなかった…orz
遠山×遼子、GJです!!
遠山さん、SS初登場にして超ダーク!
イイヨイイヨーーーw
新スレ、乙です!
そして、新作もありがとうございます!
ダークサイドに堕ちた史郎ちゃん…ドキドキ(*´∀`*)
いつのまにか新スレが!!
スレ立て、ありがとうございます☆
遠山×遼子も新鮮で良いですね!!
でもこの2人は、ラブラブエロは難しいのかな?
遠山×遼子でラブラブエロとなると、鷹藤が可哀想なことにw
鷹藤好きな自分としてはそんなこと…あれ?
ラブラブ遠山×遼子&不幸な鷹藤、面白そうじゃないか!
ということにいま気付いたw
鷹藤は悲惨な境遇でこそ輝くからなあw
最終更新:2011年10月05日 20:10