訪問者 by57さn 投稿日 2011/10/25(火)
超ダーク…じゃないかも(汗)
期待させてしまってすいません。
※「
燈火」の続き
マンションの上層階にある遠山の部屋は日当たりが良い。
朝早く日も高くならないうちから、リビングには陽光が満ち溢れ遠山のセンスであろうデザイナーズ家具を照らしていた。
遼子がリビングに続くアイランドキッチンの中で忙しそうに立ち働いていた。
遠山と交際する前はどこか野暮ったい服装をしていた遼子だが、今は躰のラインを美しく見える上品な仕立ての
シャツとスカートを身につけ大人の女性らしい落ちついた雰囲気が漂っている。
コーヒーメーカーはコポコポと音を立ててコーヒーを抽出し、部屋に芳しいコーヒーの香りが立ち込めている。
遼子が熱したフライパンに卵を二つ落とした。
兄と暮らしていた頃には全く上達しなかった料理も、遠山の指導により今ではチキンラーメンとレトルトカレー以外に、
簡単な料理くらいは出来るようになっている。
ダイニングテーブルにランチョンマットを敷きマグカップや皿を並べようとした時、手を滑らせた遼子が
マグカップをひとつ落とした。
「あーあ、やっちゃった」
大分手際よく出来るようになったと自負していたのに、ときどきうっかりしてこんな失敗をしてしまう自分に遼子は
ため息を吐いた。
かがんでカップの欠片を拾い集めていた遼子が人の気配に気づいた。
「史郎ちゃん?ごめんね、いま綺麗にするから」
欠片をいくつか集めた遼子が立ちあがり振り返った。
遼子の細く長い指から拾い集めた欠片が落ち、床の上に音を立てて散らばった。
「おにいちゃん…!」
眼の前に遼子の兄、鳴海洸至が立っていた。
少し乱れた漆黒の髪、意思の強さを感じさせる目元からは射抜く様な視線を放ち、スーツと同じ色の黒のネクタイが
いつものように少し緩んでいる。
一緒に暮らしていたころのままの兄がそこに居た。
死を偽装して遼子の前から姿を消したが、遼子が危機に直面すると必ず助けに来てくれる優しくも恐ろしい兄。
「どうして…」
いつも夜の闇から浮かび上がるようにして現れる兄が、陽光ふりそそぐ朝のリビングにいることがしっくりこない。
それも安全な遠山の家にどうして来る必要がある?
闇の世界で生きることを止め、全ての罪を償う決意でも固めたのだろうか。
しかし口元に笑みを浮かべているが能面のように強張った兄の表情、その奥で光る視線の冷たさがそうではないことを
物語っていた。
「幸せそうだな」
再会を喜ぶ声音ではなかった。
太陽の恩恵を受け陽光がふりそそぐ部屋なのに、遼子は寒気がした。
それ程兄の声は冷たかった。
洸至がコンロへと足を向けた。
「朝食が台無しだ」
洸至は焦げかけていた卵が入ったフライパンを覗きこみ、火を止めた。
「コーヒーもらうぜ」
遼子は後ろから投げかけられたその声に驚き小さな悲鳴を上げ、振り返った。
自分の背後に鷹藤がいた。
「鷹藤くんも…!いったいどうしたの?」
鷹藤はそれに答えずコーヒーメーカーが置いてあるカウンターへ向い、カウンターにあったマグカップに
コーヒーを注ぐと、遼子の正面のダイニングチェアに座った。
「二人とも、どうして…どういうことなの?」
混乱した遼子が悲鳴にも似た声で二人に問いかけた。
「お前が幸せそうで嬉しいよ」
兄がネクタイを緩めながら遼子の元へ歩いてくる。
凶器など手にしていない。なのに兄が恐ろしくてたまらない。
兄の歩みにあわせて遼子が後ずさる。
「史郎ちゃん…起きて、史郎ちゃ…!」
叫び声をあげようとした遼子の口を、洸至の大きな手が抑えつけた。
そしてそのまま遼子を抱きしめる。
洸至は泣き喚く子供をあやすように、シーッと耳元で囁いた。
「遠山さんなら来ないぜ」
コーヒーを飲みながら鷹藤が言った。
「あいつなら俺が縛っておいたよ」
洸至が囁く。
「んっ…」
遼子が洸至の手の中で暴れ、遠山の元へ行こうとするが洸至が抱きしめ離さない。
この抵抗ですら楽しんでいるのか、笑みを浮かべている。
鷹藤に助けを求めようと、躰をひねり遼子は相棒の方を見た。
鷹藤と遼子の眼が合う。
その瞳の奥には普段の彼にはない澱みがあった。
「安心しろって。遠山さんならベッド上に転がしておいたから。暴れて床に落ちなきゃ怪我もしないさ」
鷹藤はそういうとキッチンの収納扉を開け、何か探しはじめた。
いまの状況は遼子の理解を越えていた。優しかった兄が、そしていつも自分とともに危機を乗り越えてきた
かけがえのない同僚が遼子と遠山の住まいで傍若無人にふるまっている。
ありえないことだ。信じたくなかった。
ただ現実には対処しなければならない。
何か事情があるに違いないが、この状況は打開しなければならない。
―――兄と鷹藤から遠山を助け出さなければ。
遼子は自分の口を覆う兄の手に噛みついた。
「くっ」
洸至が一瞬怯んだ。その隙を見逃さずに遼子は叫んだ。
「助けて!…誰…」
言い終わらないうちに、力強い手が遼子の首筋を抑えつけダイニングテーブルに押し付けた。
「いやっ!」
「あったぜ」
鷹藤が目当てのものを見つけたらしく、洸至に投げた。
それが遼子の眼の前に落ちる。
遠山と遼子が二人で選んだ、欧州製のキッチンクロスだった。端には二人のイニシャルが入れてある。
「まるで新婚気取りだな」
受け取った洸至がそれを見て冷やかした。
身をよじり振り返る。兄が遼子を見下ろしていた。
兄の眼に宿る昏い熱。
これから起こることを直感した遼子が、ダイニングテーブルの上で暴れるが洸至に首を抑えつけられそれも
空しい抵抗に終わる。
洸至が遼子をダイニングテーブルの上で仰向けにし、遼子の腰の上に馬乗りになった。
「誰か…助けて助け!」
「別にあんたに変なことしようって訳じゃないんだからさ」
ダイニングテーブルに押し付けられた遼子に鷹藤が顔を近づけ囁いた。
遼子を落ち着かせるように髪を梳く。
「ただあんたが遠山さんとしてることを俺達もするだけだから」
その言葉で遼子が眼を見開いた。
理解できない。
兄や鷹藤のすることじゃない。こんなことがあっていい訳がない。
怒りと失望からの涙で遼子の視界が潤む。
「泣くなって。俺達はお前を傷つけにきた訳じゃない」
そう言うと洸至は遼子の手首を一方は解いたネクタイでもう一方はキッチンクロスで縛り、それを鷹藤が
ダイニングテーブルの支柱に括りつけた。
これから磔刑されるように両手を伸ばし横たわる遼子を二人の男が見つめていた。
兄は優しげに微笑み、鷹藤は全くの無表情だ。
「嘘よ…こんなの嘘…助けて…史郎ちゃん…誰か!」
遼子の眼からとめどなく涙が溢れ出る。
それを洸至の親指が優しく拭った。
「叫んだって無駄だよ。ここには誰も来ない」
洸至の顔が近づく。唇をかわそうと遼子が顔を背けた時、兄の手が遼子の顎を掴んだ。
叫び声をあげようとした遼子の口に洸至が唇を重ねた。
それまでの暴力的な行為に反してあまりにも優しく甘美な口づけだった。
固く閉ざされた唇の上を洸至の唇が優しく撫で、頬に首筋に触れるか触れないかの口づけを落とす。
「駄目…そんな風にしないで…」
荒い吐息の合間に、遼子が切れ切れに言った。
「こんな風にされると?」
「あっ」
「いつも遠山にこんな風にされてるんだろ?」
「違うの…あっ」
遼子の両手を拘束しダイニングテーブルの上で兄が無理やりに始めた行為だったが、兄の唇の繊細な
動きは凌辱と言うより愛の行為そのものだった。
「傷つけに来たんじゃないって言ったろ…」
「兄妹なのよ…お兄ちゃん、眼を醒まして…」
「眼を醒ますのはお前だよ。俺達はその為に来たんだ」
遼子の首筋に口づけを落としながら洸至が囁き、その指は遼子の胸の上を滑る。
「やっ…」
乳房の先端の敏感な場所で指先を震わせる。
それ以上の行為をやめさせようと暴れる遼子の腕を鷹藤が掴んだ。
馬乗りになった洸至に抑えつけられ、手はネクタイと鷹藤に拘束され動きようのない遼子の躰を、洸至の指が
愛おしげに撫でまわす。
「駄目駄目!やめて!あ…」
拒絶の声の合間に遂に甘い声が漏れ出てしまった。
血を分けた兄との暴力的に始まった行為。心は拒絶しているのに、余りに優しい愛撫に躰がほどけていく。
恐ろしかった。
この行為に許される要素など一切ないのに、自分の躰は―――もしかしたら心も―――それを受け入れようとしている。
兄が恐ろしいのか、鷹藤が恐ろしいのか、それとも遠山以外の男を求める自分の心と躰が恐ろしいのかもうわからない。
ただただ恐ろしくて遼子の眼から涙が溢れ出た。
最終更新:2011年10月28日 10:26