二人の顔が近づく。
「たかふじく…」
遼子が眼を見開くが、逃げようとはしなかった。
「眼、閉じて…」
車内にまき散らされたチョコビスケットの甘い香りに包まれながら二人の影が近づいていく。
鷹藤が顔に遼子の体温を感じる程顔を近づけた時だった。
誰かが運転席のウインドウをノックした。
「うわっ」
密着しかけた二人は、反発する磁石同士のようにさっと離れた。
二人が驚いて運転席側のサイドウインドウを見ると、遼子の兄、鳴海洸至が立っている。
「お、お兄ちゃん!」
ネクタイを軽く緩め、黒いスーツを着た洸至が威嚇するような強面で二人を見下ろしていた。
鷹藤が恐る恐るウインドウを下ろす。
ガラス越しでは不機嫌に見えたが、助手席の遼子を目にして洸至は笑顔を作った。
だがその笑顔を見た鷹藤の背筋に冷気が走り抜けた。
「お兄ちゃん、どうしてここに…?」
蛇に睨まれた蛙のように凍りつく鷹藤をよそに、遼子がおずおずと聞いた。
「遼子忘れたのか?今日一緒に晩飯食う約束してただろ。それで福梅書房に向かっていたら、道端に停車して
車内で写真を撮っている不審な車が見えたんで様子を窺ってたんだ。まさかお前たちとはなあ。
…で、お前ら何してたんだ」
洸至の最後の一言は刑事らしい威圧感に満ちていた。
「な、何って…あ、新しいカメラのテストよ」
「そうです!」
遼子と鷹藤が必死に取り繕う。
「そうか…じゃあ俺がノックした時に、二人が近づいていたのは…」
洸至の眼が細くなる。
窓から入る寒風からだけではない冷気が鷹藤に押し寄せる。
「ビ、ビスケットをこぼしたの。わたしそそっかしいから。だから拾ってたのよ」
「そうか…。遼子、鷹藤君の車汚しちゃ駄目だろ。すまないな、鷹藤君」
洸至が遼子をたしなめた。
「あんたさ、今日の張りこみは空振りだったって俺が編集長に報告しておくからさ、兄さんとこのままご飯食べに行ったらどうだ?
車の中は俺が片つけておくよ」
鷹藤はこのまま3人でいるのは何となくまずいような気がした。
「そ、そうね。そうしようかな」
兄に顔が近づいた瞬間を見られた遼子もかなり動揺しているようだった。
遼子はぎくしゃくとカメラを回収すると、鷹藤の車から降りた。
「君も一緒にどうだ。うまいシーフードカレーを出す店を見つけたんだ」
洸至が鷹藤を誘った。
だがこれ以上今の洸至と一緒に居たら、鷹藤の心臓が凍りついてしまいそうだ。
「い、いえ…俺はこれで。じゃあまた明日な」
鷹藤は鳴海兄妹にぎこちなく会釈すると、アクセルを踏んだ。
しばらく走った後、鷹藤の車は赤信号で停車した。
遼子の写真を撮りながら完全に舞い上がっていた自分を思い出し、鷹藤は頭をかきむしっていた。
―――あんなことしいたら、告白したも同然じゃないか。キスまでしそうになるなんて…。
「しかも食べちゃうもん、って何だよ俺」
舞い上がりすぎた中で放った言葉を思い出し、鷹藤はハンドルに頭を打ち付けた。
「馬鹿か俺は」
眼を閉じた鷹藤の瞼の裏に、『食べちゃうもん』といった時の遼子の姿が鮮明に浮かぶ。
「でもかわいかった。すげえかわいかったんだよ~!」
青信号になっても動かない鷹藤の車に後続の車から激しくクラクションが鳴らされるまで、鷹藤は遼子への
思いと自分の行為への恥ずかしさに身悶えし、ハンドルに頭を打ちつけ続けていた。
おまけ
その夜、鳴海家では―――。
ジャージ姿の洸至が模型ではなくパソコンの前に陣取っていた。
風呂上がりで半乾きの髪もそのままで、真剣な面持ちでモニターを見つめている。
パソコンのモニターに映し出されているのは遼子が缶コーヒーに唇をつけ、飲もうとしている写真だった。
遼子が風呂に入っているその間に、洸至は遼子の新しいカメラからメモリーカードを抜き出し、コピーしていた。
マウスをクリックする。
遼子の困った顔が映し出される。
次の写真も、その次の写真も遼子のものばかりだ。
どの写真も怒った顔やむくれた顔なのだが、カメラマンはその中にある可憐さもきちんと映していた。
遼子は不本意かもしれないが、遼子の場合、少し困った表情を浮かべると凛とした色気が濃く出るのだ。
少し顰められた眉、すぼめられた唇…。
微妙な表情の変化の中に美を見出せるのはかなりの腕の写真家か、その女のことを始終見つめている男かのどちらかだ。
そんな腕のある写真家がアンタッチャブル編集部でくすぶっているはずがない。
つまり奴も遼子のことを――。
「いい趣味をしてるじゃないか。梨野俊一君」
洸至は冷たい笑みを浮かべると、パソコンの電源を落とした。
お目汚し失礼しました。
メイド遼子のカメラネタのはずが、気付けは鷹藤不憫ネタになってましたw
メイド遼子の凌辱verと兄の人肌プレイ投下、楽しみに待ってます!
規制解除、バンザイ!
そして、鷹遼×カメラ×「食べちゃうもん」お待ちしてました!
ぐっしょぶです!
良いですよね~、遼子の「食べちゃうもん」
兄で無くても、全力で保存しますよww
最終更新:2012年01月04日 15:07