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男が腰を淫らにグラインドさせながら言う。そのたびに女が嬌声をあげた。
鷹藤は笑顔を見せて会釈した。
話しかけてきた男は、また相手の女との行為に没頭し始めた。男が女の尻にローションを垂らし、アナル用の
ディルドをつきたてたところで鷹藤は視線を外した。

「…大丈夫か」
「うん…」
二人のボックスの前で、激しく腰を使い相方の女を責めまくっているボブスタイルの美女が、遼子に流し目を送っていた。
「あいつだけじゃない。そこでレズってる女も、あんたのこと狙ってる」
「うん…」
女の視線を感じた遼子が、鷹藤の胸元に顔を強くよせ隠した。
遼子が返事をするたび、鷹藤の胸に熱い吐息があたる。
それが鷹藤の心をせつなくうずかせる。
「な…帰ろう…。もう…十分だろ…」
遼子が鷹藤の腕の中で顔を上げた。まるで恋人同士のような顔の距離。
濡れてきらめく遼子の唇がすぐそこにある。
鷹藤は吸い寄せられるように顔を近づけた。

―――鷹藤と鳴海くんじゃ変なことになりっこない。そうだろ?

編集長、あんたは何も知らないんだ。
こうして俺を見あげた時の相棒の眼がどんなに美しいかを。
無防備な表情を見せた時の相棒がどんなに艶めかしいかを。
…俺がどんな思いで見守り続けているかを。

遼子の鼻先まで顔を近づけて鷹藤は止めた。
キスしようとした瞬間から周囲の人間の視線を痛いくらいに感じていた。

「帰るぞ」
鷹藤は理性を何とか保った。見世物になる気はなかった。
鷹藤に強い口調で言われ、遼子も夢から醒めたような顔をして立ち上がった。
ホールにいるほかの男たちの名残惜しげな視線が遼子に集中するのを感じながら、鷹藤は遼子の手を引き店から出た。



淫蕩な空気に満ちた店から外に出た。頬に当たる風は清らかで心地よく肌を冷やす。
夜気の中、鷹藤は遼子の手を引き早足で歩き続けていた。
「痛いって!鷹藤君!もうお店から離れたんだからそんなに早足じゃなくても良いでしょ」
遼子の悲鳴で鷹藤がようやく足を止めた。
ハプニングバーは繁華街から少し離れた場所にあった。人通りもまばらな道路で、鷹藤は遼子に向き合った。
「いったい何に怒ってるのよ」
「怒ってる…?あんた自分がどういう状況にあったか全然わかってねえのな。あんただって躰が熱いだの
変だの言ってたし、周りの客があんたを見る目はやばかったんだからな。あのままいたら、空気に飲まれて
客と変なことしてたかもしれないんだぜ」
遼子に危機が迫ったことへの怒りというより、遼子が女として見られたことに対する焦りだということはわかっていた。
そしてその鷹藤の気持ちに遼子が全く気づいていないことで、むなしい怒りがこみ上げていることも。

「しないわよ。おかしなことに巻き込まれそうになっても相棒が守ってくれるから安心してたもの。ただ…」
遼子が取材を続けようとしたのは、意地のせいではなかった。
鷹藤を信頼していたからこそ続けられると確信していたのだ。
「ああいうところに鷹藤君と行くのは恥ずかしかったけど…。わたし、鷹藤君が相棒でいるおかげで、
 安心して取材できるの。だから大丈夫だって思ってた」
遼子がそこまでの信頼を抱いていてくれたことが嬉しかった。
ただ、相棒としての信頼しか抱いていないことはなんとなく悲しかった。
「そっか…悪いことしたな。でも十分取材したろ。送ってやるから帰ろう」
歩き出した鷹藤の背に遼子の凛とした声が飛んだ。

「ねえ、鷹藤君。…相棒だから、それだけじゃないのよ…鷹藤君と一緒にいると安心していられるのは」
鷹藤が立ち止まって振り返る。

「鷹藤君だから。…言いたいこと、わかる?」
遼子が近づいてくる。体温が感じられるほどの近さで足を止めた。

「さっき…どうして止めたの」
「…何が」
夜気の中に、清潔な香りが舞う。相棒の柔らかな匂い。
遼子の匂い。

「…キスしようとしたじゃない」
相棒らしからぬ小さな声。
遼子の顔が間近にある。まるであの時の再現のような距離感だ。
「違う?」
遼子の眼がすがめられ、鷹藤を見上げていた。
茶と漆黒が文様を描く虹彩とその奥にある透き通った瞳。
街灯の薄暗がりの下でも美しかった。
それに捉えられ、鷹藤は心の枷を外した。

「違わない…」

キスをした。遼子も鷹藤の首に手を廻しそれにこたえる。
鷹藤は思いのたけをこめて、ゆっくりキスをした。
どちらからともなく、口の中に舌を差し込み貪りあった。
柔らかな舌を夢中で吸い、その感触と唾液を味わった。
口内を舌で探り、遼子が漏らした熱い息を胸いっぱいに吸う。
遼子の膝から力がぬけそうになる。鷹藤は遼子を抱きしめ支えた。
しばらくの後、鷹藤は唇を離した。

遼子の躰が小さく震えていた。
それは怖れからの震えではなく、理性で抑えつけていた思いが溢れ出たためのように思われた。
鷹藤だって、躰の中で遼子への思いと欲望が混ざり合い震えるほどに興奮していた。
外に出て、一度は冷めかけた下半身の熱がまたも息を吹き返し遼子の腰にあたっていた。
「なあ…こうなったら止まれないから、俺、あそこでキスしなかったんだぜ」
「わかってる…」
「なんだかんだ言って編集長に感謝しないとな。取材のおかげでこうなったんだから…」
遼子が鷹藤の首筋に顔を埋めた。首に当たる吐息が燃えるように熱い。
「…今日はもう帰さない。あんたのことを寝かせないからな」
遼子の髪をいとおしげに撫で、鷹藤がまたキスを落とそうとした時だった。
「…あ」
間抜けな声が、それまでの甘い空気を霧散させた。

「何だよ」
鷹藤もつられて、恋人への柔らかな口調から普段のがさつな口調変わってしまった。
「編集長があしたの朝一番で記事あげろってメール寄越してたのよ」
「はぁ?今それ言うか?」
遼子が腕時計を見た。表情が一気に険しくなる。
「あと…6時間…今から書かないと!」
「何だよそれ!どういうタイトなスケジュールなんだよ!」
「編集部行って記事書くわよ!」
遼子が大またで歩き出した。
鷹藤もそれを追うが足を踏み出した瞬間、猛りきった鷹藤自身がデニムにあたり痛みで眼に涙が浮かんだ。
「何でこうなるんだよ…」
大またで歩く遼子の後ろを、前かがみの鷹藤がついていく。
「ちゃっちゃと歩いてよ!もう。いい加減元に戻したらどう?」
先を行く遼子が檄を飛ばす。


「簡単に戻るわけねえだろ!…それにこれ、あんたのせいだろうが。元に戻せっていうんなら、原稿が終わったら
あんたに戻してもらうからな。経験豊富なあんたならできるだろ。戻すって…意味わかるよな。男は全部した
後じゃないとおさまりつかないんだぜ。できないなんて言わないよな?」
鷹藤の挑戦的な口調に遼子が足を止めた。
「できないわけないじゃない!全部してあげた上でちゃんと戻してあげるわよ!」
「忘れんなよ」
その言葉を聞いて、鷹藤がにやついた。
売り言葉に買い言葉、反射的に口に出した言葉の意味に気づいて遼子の顔色が変わる。
一瞬蒼くなってから、今度は街灯の明かりでもわかるほど赤くなった。
「ほんと、乗せられやすいな、あんた」
「…だから鷹藤君フォローしてよね」
早足で歩き出した遼子が前を行きながら言う。

「当たり前だろ。相棒だし、これからはあんたの…彼氏…だし」
最後の小声で言った言葉が遼子に届いたかどうかはわからなかった。
ただ遼子は無言で、それは了承を示す沈黙のように感じられた。
遼子が足を速める。
遼子らしい不器用な照れ隠しを見て、鷹藤は微笑を浮かべると歩き始めた。




こちらも長くてすいません。


続けての投下、ありがとうございます!
初々しい鷹遼もすごく良いです!

是非とも「戻す」云々もよろしくお願いしますww
最終更新:2012年10月20日 23:55