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金属質の悲鳴をあげ、ハイエースがガードレールに押しつけられる。
ハイエースのスピードが落ちるが、運転手はアクセルをベタ踏みしているらしく、断末魔の叫びを上げながら
ハイエースは疾走する。
「鷹藤くん、ハンドル頼む」
洸至は運転席の窓を開けると、身を乗り出し銃を構えた。
シートベルトを外した鷹藤が慌ててハンドルを握る。

冬の風が洸至の身を切る。だが洸至は躰に充ちるアドレナリンのせいで恐怖も寒さも感じていなかった。
後部タイヤを狙う。2発ずつ撃ちこむ。ハイエースのタイヤがバーストした。
前輪だけではスピードは出ない。ポルシェに側面を押さえつけられ、ハイエースのスピードが徐々に
落ちていく。
「グローブボックスに銃がある。君は一度使ったことがあるから使い方はわかるな。間違っても俺と遼子は
 撃つんじゃないぞ。車が止まったら、俺の車を盾にして銃を構えろ」
鷹藤がグローブボックスからベレッタを取りだした。銃を握ると、意を決したように洸至を見る。
洸至がハンドルを切り、ポルシェをハイエースに思いっきり押しつけた。
また耳障りな音を立てて、火花を散らしながらハイエースの塗装とスピードが落ちていく。

運転席から銃を持った手が現れた。乾いた発射音。ポルシェのフロントガラスが一瞬で白に変わる。
一発の銃弾で作られたヒビが、フロントガラス全体を覆っていた。
洸至は隣の鷹藤をチラッと見た。身をすくめてはいるが、残念ながら当たっていないようだった。
銃のグリップでガラスを叩き割ると、洸至は見晴らしが良くなり、12月の風が吹き付けるフロントから躊躇なく撃つ。
運転手の肩から赤い飛沫が散る。ハイエースのフロントガラスが赤く染まる。
気を失った運転手がブレーキを踏んだらしい。
ガラスに爪を立てるような音をたて、道路上で反回転し、スライドドアをこちらにむける形でようやくハイエース
が止まった。
ハイエースの手前にポルシェを止めた。
「鷹藤くん、頼んだぞ!」
洸至がポルシェを飛びだし、ハイエース後部にまわる。
ハイエースのスライドドアが勢い良く開いた音が聞こえた。
「うらあああ!!!」
ハイエースから男の叫び声。銃を構えた鷹藤のところへ銃弾の雨が降る。
鷹藤がいい囮になってくれていた。鷹藤はポルシェのドアに隠れながら弾丸の雨に晒されていた。

ハイエースの後部ドアに手をかけると、洸至が一気に開ける。
洸至の正面にナース服姿の遼子がいた。口からは血が流れている。
遼子は暴れ、スキンヘッドの男に抑えつけられようとしていた。
洸至は反射的に、男の頭に銃弾をぶち込んだ。

不意打ちに驚いた様子のニット帽の男が、鷹藤に向けていた銃を洸至に向ける。
細身の男の眼が驚きで見開かれ、口から煙草が落ちる。男が胸元に手を入れた。
洸至が、遼子以外の車内の人間全てに銃弾を叩きこむ。狭い車内に轟音が響く。
残弾が尽きた。素早くリロードし構える。

ハイエースの車内に、硝煙と血の匂いと、うめき声が充満する。
細身の男が口から血を吐きながら苦笑いしていた。まだ息があるようだ。洸至が男に銃口を向けた。
男は胸元から携帯電話を出したが、それは手から滑り落ちた。
「仲間を囮につかったのかよ。いい性格だな、あんた」
「あいつなら、お前らに撃たれても良かったんでな」
本心に近い言葉だった。洸至が男の携帯を手に取る。発信しようとしたが、洸至に撃たれてできなかったようだ。
細身の男が喘ぎながら言う。

「俺らに手を出して、ただで済むと思うか…お前ら全員東京湾で魚礁になるぞ…」
「お前らの組織こそ、俺たちに手を出してただで済むと思うと?」
何を言っているのかわからないといった顔で、死にかけた男が洸至を見た。
その男の傍に洸至がかがむ。

「お前らが手を出したのは『名無しの権兵衛』の妹だよ。そして俺がその『名無しの権兵衛』だ。
 手を出しちゃいけない相手に手を出したのはお前らだ。あらゆる手を使ってこの落し前はつけてもらう。
この携帯でいろいろわかりそうだな…お前らの組織はおしまいだよ」
洸至の昏く冷たい目で見据えられながら、細身の男が乾いた笑い声を上げた。
そしてそのまま動かなくなった。

「お兄ちゃん…」
ナース服姿の遼子が洸至を見る。髪は乱れ、口元に殴られた跡。だがやはり妹は美しかった。
ジャケットを脱ぎ、妹にかける。洸至は遼子を抱きかかえると、濃厚な血の匂いが漂う車内から二人で出た。
「夢じゃないんだ…。わたし、さっきお兄ちゃんに助けてって言ったのよ。そうしたら本当にお兄ちゃんが
 助けに来てくれるなんて」
洸至の胸に遼子が顔をうずめた。シャツ越しに、遼子の涙と温もりを感じた。その髪をそっと撫でる。
硝煙の匂いも遼子の甘い匂いは消せないようだった。洸至は、遼子の匂いを久々に胸一杯に吸い込んだ。
「何もされてないか?怪我してるじゃないか」
「変なことされそうになった時、お兄ちゃんが車をぶつけてくれたから…。それとね、これは違うの…」
言い淀んだ遼子の視線の先には、スキンヘッドの男のズボンからだらしなく出ているしなびたものがあった。
付け根に血が滲んでいる。
「そうか」

洸至が遼子を降ろすと、ジャケットの前を合わせてやり、遼子のナース服とはだけた胸元を隠した。
「すごい恰好だ。ちゃんと隠せよ」
遼子が顔を赤らめた。
鷹藤が駆け寄ってきた。
「鷹藤くん…」
「大丈夫か…」
遼子が洸至の腕の中から、鷹藤の元へと行く。
鷹藤が片手で遼子を抱きとめた。
「痛ってえ!」
鷹藤は痛みに顔をしかめるが、口元は笑っていた。

「大丈夫?鷹藤くん。もしかしてあの時」
「あんたに車から放り出された時の怪我。大したことねえから気にすんな。それより」
遼子の頬を怪我していない方の手で鷹藤が包む。
「俺を助けるために無茶すんな。俺だけ助かったって、嬉しくとも何ともねえんだからな」
「うん…だけど鷹藤くんだけでも助けたかったの…」
「わかってる。だからもう無茶すんな」
「うん」
抱き合う二人を洸至はぼんやりと見ていた。

俺がどうあがいても、兄妹でしかいられないんだな、俺たちは。
どれ程尽くしても愛しても、結局は省みられない不毛さに溜息を吐くと、車が動くか確認するため洸至は
歩きだした。

遼子が鷹藤の腕の中から叫ぶ。
「お兄ちゃん行かないで!」
遼子の悲しげな声が響く。
その時だった。
「動くな」
「鷹藤くん駄目よ!やめて!」
鷹藤が銃を構えて、洸至に向けていた。


「銃は殺したい相手にだけ向けるものだぞ。鷹藤くん」
洸至が振り向き鷹藤を見た。オレンジ色の街灯に照らされ、鷹藤の手の中の銃が鈍く光る。
「殺したい訳じゃない。でも止めるにはこれしかない。あんたは自首して、それで罪償って妹の傍にいるべきだと思う」
「で、塀の中で吊るされろと?」
「裁判してみなきゃわからないだろ。父親に虐待されてたことで情状酌量されるかもしれない」
無視して歩きだそうとした洸至の耳に、鷹藤が撃鉄をあげる音が入った。

「撃つなら撃てばいい。俺はお前にとって仇だからな。撃たれても異存はないさ」

「鷹藤くんやめて!お兄ちゃんが助けてくれたのに!」
「俺はあんたを憎んでないし恨んでない。ただ…裏切られたのは悲しかった。嵌められてさ、罪をなすり
 つけられて…。あんたのこと、兄貴っぽく思ってた時もあったんだぜ。今度は遠くに行かないでこっちの
 世界にいてくれよ」

まったく。

だから鷹藤が殺せなかった。
遼子と鷹藤が近づきつつあるのを感じた時、洸至は焦燥と嫉妬にかられ全力でそれを阻止しようとした。
だが、殺すという選択肢はその中にはなかった。罠に嵌め、陥れても、その命を取ろうとは思わなかった。
これがもし遠山や片山だったら、即座に命を奪っていただろう。

どうも憎めないのだ。この男は。

自分がこの男の家族全てを奪った負い目もあったのかもしれない。
だがそれだけではなかった。遼子と鷹藤の保護者のような立場でいるのも悪くないと思う時もあった。

「動くなよ。撃つぞ」
洸至は鷹藤の言葉を無視して歩き始めた。
ポルシェのエンジン音からすると、まだ走れそうだ。
運転席に散らばったガラスを取り除けると、洸至が座った。車に遼子が駆け寄ってきた。
遼子がドア越しに洸至に手を伸ばす。その手を洸至が掴んだ。

「一緒に行こう、遼子」

「お兄ちゃんこそ、こっちにいて。何とかする方法考えようよ、罪を償ってそして…」
それが夢物語にしか過ぎないことは妹の悲しげな眼が語っていた。
裁判を受ければ、どうあっても死刑は免れないことをお互い良く判っている。

「鷹藤くん。俺が素人同然の君に、銃をそのまま渡すと思うか?」
「何だって…」
「弾倉は空だよ。君を囮に使ったんだよ。遼子のこと頼むぞ」
「そりゃないだろ。待てって、行くなって」
追いすがる遼子に怪我をさせないようにゆるゆると車は走り出す。
遼子の手が離れた。寂しげな顔。これが妹を間近にみる最後になるだろうか。
いつも俺は遼子のこんな顔しか見ていない気がする。

―――それも全て俺のせいか。

二人がポルシェに辿りつく前に、洸至はアクセルを踏み走り出した。

サイドミラーに走る二人の姿が映る。
ずっと見ていたかった。だが、見ていたらそこに留まってしまいそうで、洸至は眼を前方に移すとそれを
見ないようにした。

あの二人のいる世界に、居場所がない。そのことを改めて思い知らされる。
本物の家族を殺した時より、いま二人と別れた時の方が、洸至は心が千切れるような思いがしていた。
フロントガラスがないので、12月の凍るような風が車内を吹き抜ける。
視界が滲むのは、吹き付ける風のせいで眼が乾いたからだ。
眼から噴き出る熱いものを押し戻すようにして拭うと、洸至は想いを振り切る為にスピードを上げた。



長すぎてごめんなさい。

鷹藤とお兄ちゃんにタッグを組ませて遼子救出をさせたい
一心でこんな長い話を書いてしまいました。
すいません。



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ぐっっっじょぉぉぉぶです!
素晴らしいです!
何か一つの映画とかドラマを堪能しつくした気分です。

お兄ちゃんの、鷹藤くんに対して所々で見せる
あまりにも正直すぎる態度や思いが…w
(ひき殺されなくて良かったね!w)
遼子への想いも変わらずで微笑ましすぎますw

お兄ちゃん、これで最後とかいわず、
どんどん2人の前に現れちゃって下さい!

24
ぐっじょぶ。

25
GJ!です。
読みながら、ハラハラドキドキしちゃいました!
そして最後は切なくて…。

お兄ちゃん、遼子にジャケット着せたままですよね?
ジャケットを返してもらいに、是非クリスマスあたりに
再登場して欲しいです~!

ところで、遼子と鷹藤は、無事に帰れたのだろうか?とか
ちゃんと鷹藤は傷心の遼子をフォローしたのか?とか
余計な心配もしてみたりw
最終更新:2010年12月24日 00:40