本誌美人記者による体験手記! by225 さん 投稿日 2011/03/27(日)
PCにこんなのが残っていた。とても長いピュアピュア時代の鷹藤×遼子。微エロなのにすごく長い。
すいません。
遼子は時計を睨んだ。
8時16分。美鈴が部屋を出て行ってからもう50分以上経つ。
部屋がだいぶ暑くなって、ほんのり自分の肌が汗ばんでいるのがわかる。
エアコンの設定温度をさっき下げたばかりだが、また下げることにした。
エアコンが効いてくるまで、美鈴が置いていった女性誌をうちわ代わりにして風を送りながら、テレビを見ることにした。
コンビニに行った美鈴がいつまでたっても帰ってこないので、らしくもなく心細くなっている。
本来なら、遼子を一人にしてはいけないはずだ。
そりの合わない美鈴といえ、この時ばかりは、美鈴の顔が早く見たかった。
そのためか、カードキーを通して、ロックが解除された音がやたら頼もしく聞こえた。
「美鈴さん、帰ってこないかと思ったんだか…ら」
「美鈴さんじゃねえけど」
コンビニの袋を手にした鷹藤が部屋に入ってきた。
「なんだよ、その格好」
ジャージ姿で、首にタオルを巻き、手にうちわ代わりの女性誌を手にした遼子の姿に驚いている。
「そっちこそ何よ。美鈴さんは?」
「用があるから帰るって。俺は編集長に言われて来たんだけど。何やってんの」
「今日は合コンがあるのにわざわざ付き合ってあげてるのよ、って言っておいて、
やっぱり仕事より合コンとったのか~!」
「一体何の話だよ。それより、なに、この部屋。その格好」
「編集長から説明は聞いたの?」
「いや。取材終わって編集部に帰ったら、編集長から美鈴さんが急用で抜けるから、
お前が面倒見ろって。あんたの飯買ってから、この部屋に行くように言われただけ」
そう言って鷹藤は部屋を見回した。なんの変哲もないシティホテルのツインのベッドルームだが、
部屋にそぐわないものが水のペットボトルにまざってデスクに置いてある。
「なんで体温計に血圧計とメジャーがあるんだよ…。健康ものの企画か?」
「健康…、じゃなくって、お色気系よ」
遼子は苦々しくこの企画に参加するに至った過程を思い出した。
「なんなの、この薬」
中原のデスクの上の薬を持って、美鈴が言った。
「これ使うとさ、なんかわかんないけど、胸が大きくなるんだと。南米からの輸入品。
ラッシュの店長がくれたんだよ」
中原も自信なさげだ。
ラッシュとは中原がネタ元にしているいかがわしい雑貨店で、記事にできそうなグッズ類があればと、
定期的に足を運んでいるらしい。
「馬鹿らしい。記事にしてもらって売り上げ伸ばそうって魂胆見え見えじゃない」
中原のデスクに薬を置くと、美鈴はコーヒーを取りに去っていった。
中原自身も半信半疑らしく、パソコンに向かいタイプしはじめてから、薬のことはすっかり忘れている
ようだった。
編集部で、誰も注目していない薬に、遼子は熱い視線を送っていた。
胸が大きくなる…。
遼子自身、小さい訳ではないが、大きいに越したことはない。
胸が大きいというのは、いろいろ有利になるに違いない。
素敵な出会い、合コン、お見合い、婚活。
高学歴の履歴書よりも、ピュリッツァー賞の記事を書いた栄誉よりも、
男女間においてダイレクトに作用するものがあるとすれば、大きな胸だ、と遼子は思う。
知性も気立てももちろん大事だ。だが、今そのどちらも兼ね備えている(と思っている)遼子に足りない
ものといえば、女性として男性の目を引き付けるポイントだ。
―――胸が大きくなったら、史郎ちゃんも私のこと、また違った目で見てくれるかも。
そうしたら、二人で飲みに行かないかなんて誘われたりして、二人並んで高級ホテルの
バーのカウンターで飲んで、「ちょっと雰囲気かわった?」なんて言われて。
あ、その時は胸元が開いた服を着なきゃ…。
遼子が、自分の手持ちの服を思い出しながら選んでいたとき、
「よお!」
突如肩を叩かれ、現実に引き戻された。
遼子の顔の横に樫村の顔があり、同じものを見ている。
「欲しいのか、その薬」
「編集長。そんなことないですよ。インチキくさい薬だな、と思って」
「そうか。そうだな。…その割に熱心に見てたな」
微笑んでいるが、遼子を見る目は笑っていない。
獲物をとらえた獣の目だ。
遼子は途轍もなく嫌な予感がした。
「見てませんって」
「よし、みんな聞いてくれ。先週の部数の集計が出た。残念ながら、最近部数の伸びが悪い。そこでだ」
編集部の注目を集める意味で、樫村は間を置いた。
「次号のメインはお色気企画で行く」
「編集長。名無しの権兵衛の記事のおかげで、三流週刊誌から社会派としてアピールできたのに」
遼子が声をあげた。
「社会派は聞こえはいいが、部数につながらん。最近、名無しの権兵衛も鳴りをひそめ、
記事が書けない。追跡記事もスクープが無ければ部数が伸びない。だが、お色気記事は部数に直結する」
そう言うと、遼子に視線を寄こした。
名無しの権兵衛について追い続けてはいるが、最近、遼子はスクープを飛ばしていない。
遼子は視線をそらした。
「目玉記事は中原さんメインで企画を進めるからな。あとはグラビア、下半身がらみのスキャンダル…体験記事」
「体験…?なんの」
疑問を口にした美鈴が、いぶかしげに樫村を見ている。
「この薬のだ」
樫村は中原のデスクの薬を指差した。
「この薬、商品名は『グラン・バスト』。そうだろ」
「え、ええ」
「最近、豊胸効果を謳って出回っているらしいが、ちょっとした被害が出ているという噂がある」
「被害って、健康被害ですか」
城之内が聞いてきた。
「いや、犯罪だ」
編集部の空気が変わった。
「犯罪?この薬で。詐欺ですか」
中原も意外そうだ。
「強制わいせつ未遂にあった女性が少なくとも3人いる。いま伝手を頼ってウラをとっているところだ。
みんなこの薬を飲んで、歩いていただけで襲われた。それも人通りの多い道を歩いているときにだ。
人通りの多いところだったから、すぐ助けが来たんだがな。
不思議なのは、襲った側はそんな前歴も性癖もない人間ばかりだったって事だ」
「何それ」
美鈴は、いかにも信用していない白けきった顔をしている。
「そこで、わが編集部で体験記事を書いてレポートする。
『謎の豊胸剤を当誌の美人記者が体験!驚愕の結果が!?』これでどうだ」
「私は嫌よ」
美鈴が即答した。誰も美鈴にやれとは言っていないが、編集部の美人記者といえば
自分だといわんばかりの早さだった。
遼子の肩に置かれた樫村の手に力が込められた。
「こういうのは、新入りがする仕事だ」
遼子はちらりと里香を見た。里香が遼子から視線をそらした。
「里香ちゃん、ですか…」
遼子がこうつぶやいた時、即座に樫村が否定した。
「いや、鳴海くん。君だ」
「なんで私が!」
「里見君は君より若いがこの編集部では先輩だろ。編集部に一番最近入ったのは君じゃないか。
いま、名無しの権兵衛も鳴りをひそめてるし、
張り込みが必要なスキャンダルもない。
この編集部で一番身体が空いているのは君だろ。君しかいないじゃないか」
「美人、て」
違うんじゃない、美鈴がひやかすように笑った。
「週刊誌の世界では、どんな顔であったとしても記事になれば美人がつくだろう。
美人OL、美人詐欺師、美人議員、美人看護婦…。その理屈でいけば、体験記事をものに
する鳴海君が美人記者になってもおかしくはない」
この会話からすると、そんなに私に美人がつくのがおかしいのか。
胸の奥から湧き上がる怒りに、遼子は樫村と美鈴の名を怨みノートに書き記すことにした。
「鳴海君、そんなに怒るなって。もし、薬を飲んでそのまま何もなければ、それを
面白おかしく書けばいいだけだ。ついでに、大きくなった胸が残れば、悪くないじゃ
ないか。安心しろ、安全には最大限気を配る」
その結果、鷹藤とこうして二人、部屋にいる羽目になった。
安全って、鷹藤が遼子を監視するだけだ。鷹藤で本当に大丈夫なんだろうか。
鷹藤が遼子を襲いっこないということなんだろう。そもそもこの薬に効き目があるなんて、編集長はじめ、
編集部の誰も思っていないということか。
鷹藤が来てもう1時間経つ。30分置きに体温と血圧と胸囲を図っているが体温と血圧が微増しただけで、
一番期待していた胸囲に至ってはなんの変化もなかった。
午後7時に飲んで2時間と少し経つが、変化はない。
この実験は空振りかもしれない。
そうだったら、遼子の腕で記事を面白いものに仕上げるしかない。
「不安そうだな」
遼子に背を向け、ライティングデスク前の椅子に座り、薬の瓶をもてあそびながら鷹藤が話しかけてきた。
「一応、成分分析を民間の研究所に急ぎでしてもらって、毒物はないって結果が出たわ。向精神薬の
成分に似たものも入っていないし、その意味では安心して飲んだけど。ただ、飲んでから襲われるま
で、
半日くらいで起こったみたいなの。だから今日だけホテルで缶詰めになって様子を見ることにしたのよ」
「やってて楽しくはないよな」
「人体実験よ。される側になったら誰だってそうじゃない」
「仕事だ。頑張れよ」
人ごとだと思って。鷹藤の背中を睨みつけた。
「全部鏡に映ってるんだけど」
デスクの上の鏡に、鷹藤の肩ごしにベットの上から睨みつける遼子が映っていた。
「そんなつもりじゃ」
「じゃ、どんなつもり」
「かっこいい髪形だな、と」
あまりにも見え透いた嘘で、とっさに口に出して後悔した。
「あんたはそう思った相手、睨むんだ。男が出来ない訳だよ」
鏡の中から、鷹藤が呆れたように遼子を見ている。
「それにしてもさ、なんでジャージなの。もうちょっとあるだろ、恰好」
「一番動きやすくって、楽だから。変?」
「ま、いいんじゃない。あんたが良ければ」
いつもながらそっけない態度。
年上に対する敬意も、遼子のような大人の女性に対する接し方もなっていない。
だから彼女もできないのよ、と遼子は思った。
最終更新:2011年04月15日 22:40