ジューン・ブライド by239さん 投稿日 2012/06/04
たまにはほのぼのネタを。エロなしこめんなさいの鳴海兄妹です。
6月にしては爽やかな夕方だった。
梅雨入りする前の最後の晴れ間となったこの日は、暑すぎず空気が含む湿気も少なく肌に当たる風が心地良い日だった。
日が暮れかかり、西日のオレンジ色から夜の濃紺へ移りゆく空の下を鳴海兄妹が歩いていた。
「いい結婚式らったね」
フォーマルドレスを着た遼子が、並んで歩く洸至に話しかけた。
少しろれつが回らないのは、遼子がしたたかに酔っているからだ。
大通りから離れ、人通りの少ない道を歩く足下もどことなくおぼつかない。
「ああ」
いつもの黒のスーツ姿だが、珍しく白のネクタイをした洸至がその妹の様子に眼を配りながら答えた。
洸至は一目で結婚式の引き出物が入っているとわかる大きな紙袋を二つ手にしている。
「今日の巻子ちゃんきれいらったなあ…」
従姉妹のウェディングドレス姿を思い出しているのだろう。遼子は夢見るように言った。
海運会社につとめている従姉妹は、そこで知り合った年上の男性と結婚した。
数少ない親戚の中で唯一交流が続いている家の娘の結婚式とあって、洸至と遼子も出席したのだった。
いま流行のハウスウェディングというやつで、一軒家のレストランを借り切って親戚と仲間に囲まれて
リラックスしたムードで行われた。
華やかすぎずセンスのいい演出に遼子はうっとりとなり、しかも酒類が飲み放題だったので雰囲気に飲まれた
遼子は杯を重ねに重ね上機嫌で結婚式場を後にした。一軒家のレストランは駅から少し離れた場所にあった。
二次会に行く面々はタクシーに乗り合わせて会場を出たが、二次会に出席しない鳴海兄妹は駅まで歩き家路に
つくことにした。
今、二人は駅までの近道として人気のないオフィス街を歩いていた。
「わたしも、ああいう式したいなあ。ウェディングドレスを着て、チャペルで…」
「へえ…。おまえが結婚ねえ。想像がつかないな」
洸至がひやかすように言った。
「らによ!わらしだって、結婚相手のひとりやふたりいるのよ。引く手あまたなんだから。
近いうちにウェディングドレス着てお兄ちゃんを驚かせてあげる。私だって似合うわよ」
「はは…。そうだろうな」
軽く流す洸至に、遼子が眦をあげる。
「もうー、そうよ。お兄ちゃんったらバカにしない…きゃっ!」
遼子が笑う洸至の腕を取ろうとしたときだった。突如遼子の体が後ろに沈み込んだ。
バランスを崩し後ろに倒れそうになる遼子の体を、大きな手が支えた。
「あ…ありがとう…」
のけぞり、地面と平行になった遼子の躰を洸至が片手で軽々と抱き留めていた。
後ろにのけぞった女性を片手で支える社交ダンスのようなポーズも、手足の長い洸至だと様になっている。
「起きられるか」
間近にある洸至の顔が、遼子のことを心配そうに見ていた。
「う…うん」
あまりの顔の近さに少し照れながらも、遼子は兄の手を借りて立とうとした。
「あれ?」
右足に力を入れるがうまく立てない。遼子が足下を見ると、
ハイヒールの踵が折れていた。
兄の手を取ろうと足を踏み出した瞬間、舗道の段差にひっかかって折れてしまったらしい。
「あ~!ドレスに合わせて買ったヒールが。高かったのにぃ!」
今のショックで酔いがさめたのか、ろれつの回らなかったはずの遼子の言葉が明瞭になった。
「それよりも遼子、そんな靴で歩けるのか」
花嫁より目立たないドレスの方がいいぞ、という洸至の助言もあり、遼子はいつもの鹿鳴館の舞踏会に行く
ようなフリフリのドレスではなく淡いピンクの袖のないワンピースを買ってきた。
いま折れたこのハイヒールは大人びたデザインのワンピースに合わせて奮発したもので、足がきれい
に見えるようにと思って8センチのピンヒールがついたものだった。
慣れないヒールを無理して歩いていたせいで少しの段差にひっかかり、バランスを崩した時に遼子の体重が
細いヒールに全てかかったせいで折れてしまったのだろう。
「うーん…」
右足にぶら下がるハイヒールの残骸を見て遼子がうなる。
「片方の靴を脱いでもそんなに高さが違うと歩きにくいだろ。それ履いて帰るのは諦めるんだな」
「うん…」
「適当なところでタクシーを捕まえよう。タクシーがいそうなところまで移動するしかないな」
そう言うや否や、洸至が遼子の前に背を向けてかかんだ。
「えっ…何?」
「それじゃ歩けないだろ。おんぶしてやるよ」
「お、お兄ちゃんちょっと待って。恥ずかしいよ。歩けるから」
「両方脱いで裸足で歩くのか?足も汚れるし、もしガラスなんか踏んでみろ。怪我しちまうぞ。素直に俺の
言うこと聞けって。人目が気になるのか?ここは駅から離れていて人通りも少ないから、人も来ないだろ。
だから大丈夫だ」
洸至は遼子の前にかがんだまま動かない。遼子が背におぶさるまではそのままでいるつもりなのだろう。
遼子は前後を見回した。車通りも少ないが、確かに土日のオフィス街に人はいない。
恥ずかしいことは恥ずかしいが、今は兄の言うとおりにするしかなさそうだ。
「お兄ちゃん…無理しないでね」
「いいから。乗れって」
洸至が振り返らずに言う。遼子に差し出された洸至の背中は、ゆったりとして広く大きい。
遼子が洸至の首に手を回し、背中に乗った。
洸至が遼子の太股を抱えると重さなど感じていないように軽々と立ち上がる。
洸至はスカートの裾を下に通した手でさりげなく押さえ、持っている引き出物の紙袋で裾を隠した。
「遼子をおぶるなんていつ以来だろうな」
洸至が歩き出した。
「たぶん15の時かな…」
「そうだったか。よく覚えてるな」
「忘れられないよ。お父さんとお母さんのお葬式が終わった後、私がすごく高い熱を出して動けなくなった
ときにお兄ちゃんがおぶって病院に連れて行ってくれたんだもの。熱が高くて苦しかったけど、お兄ちゃん
に背負われていたとき、きっと大丈夫だって思ったのよく覚えているの」
「そういや、そんなこともあったな。あのときはタクシー代がなかったから仕方なく遼子をおぶって走ったんだ。
熱が高くて、遼子がもうろうとしていたから俺はてっきり覚えてないと思っていたが…。覚えていたのか」
あのとき高熱に見舞われた遼子の記憶は断片的だ。しかし、兄の広い背中越しに伝わる温もり、首筋から漂う
兄の汗の匂い、それを通して感じた安心感は今でもよく覚えている。
「…お兄ちゃんはあのときから変わらないね」
「何が。年も取ったし、俺だってもうおじさんだよ」
「そういうことじゃなくて。お兄ちゃんは私が困っていると、いつも助けてくれるってこと」
洸至はその言葉に答えなかった。
だが洸至が不快に感じていないのは漂う空気でわかった。
大きな歩幅で歩く兄の温もりが心地よくて、遼子は頬を兄の肩につけた。
「ねえ、お兄ちゃんもいつか結婚するんだよね」
「どうかな。俺には結婚なんて想像もつかないよ。それより遼子だろ」
「順番から言えばお兄ちゃんじゃない」
「違うよ。遼子が先だ。俺は遼子の親みたいなもんだからな。遼子の落ち着く先が決まれば一安心だが、
それまでは自分のことをどうこうしようなんて考えられないな」
「じゃあ先に結婚しちゃうよ」
「そうしてくれ。そうすれば俺もさっぱりする。…それより、遼子相手はいるのか」
洸至は冗談めかして言ったが、最後の言葉には真剣さが含まれていた。
「い、いるわよ!彼も私のことを憎からず思っているのはわかっているんだけど、彼がシャイなせいで
なかなか進展しないのよ。結婚までは後少しかかるかな」
遼子は国民ジャーナルの記者・遠山のことを思い浮かべながら言った。
今は遼子につれないが、それも遠山の照れの表現なのだろう。遼子はそう前向きにとらえていた。
「遼子のことだから、きっといい嫁さんになるよ」
「…なれるかな」
背の揺れが気持ちよかった。飲み過ぎもあって遼子は軽い眠気を覚えていた。
「なれるさ。遼子は、家の中を明るくしてくれる。帰って遼子みたいな嫁さんがいたら疲れも吹き飛ぶだろうな」
「お世辞でもうれしい。…ねえ、お兄ちゃんの理想の結婚ってどんなもの?」
「…結婚ね。仕事が忙しすぎて考えたこともないな。家に帰ると誰かがいて、チキンラーメンやレトルトカレー
を一緒に食べて、そして模型を作る俺のそばにいてくれればそれでいいんだ」
「それじゃあ私との同居生活そのまんまじゃない」
洸至の肩で遼子が笑う。つられて洸至も笑った。
夜風に兄妹の軽やかな笑い声が流れていった。
「俺は想像力がないのかもしれないな。そういうのは全部仕事に使っているからか、私生活のことなんて
思いつかないんだ」
「お兄ちゃんは優しくて思いやりのある人だもの。きっと素敵な旦那さんになるよ。…叶うといいね。
お兄ちゃんが…そういう人と出会えて、そんな暮らしができること」
「叶うといい、か」
洸至の言葉にはどこか苦みがあった。兄の言葉に含まれた苦みの訳を考えようとしたが、酔いと眠気が遼子の
思考の邪魔をする。
あの時――熱に浮かされ、兄に背負われ病院に連れて行かれた時も大きく広い背中が気持ちよくて遼子は微睡んだ。
今もまた同じように瞼が降りてきた。遼子は兄の背中に全身を預けた。
久しぶりの兄の背中は以前と同じ温もりと安らぎに満ちていた。
「俺は…ずっとこのままでもいいんだ。お前さえ…」
洸至の言葉を最後まで聞くことなく、遼子は兄の背に揺られながらあの時のように心地よい眠りの中に落ちていった。
エロなし失礼しました。
たまには変態じゃないやさしい兄もいいかな、とw
自己満足です。すいません。
すてきなほのぼの鳴海兄妹!!!ありがとうございます!!!
いや~おんぶ兄いいですね!
そしてたまらなくせつない……
今日は兄の中のひとの誕生日か…。
ほのぼの兄妹エピ、GJです!
やっぱりいいなあ、この兄妹。
今日は兄の中の人の誕生日ということで、勝手に
兄の誕生日に変換して妄想中ww
来週の月曜日は、月8で兄の中の人が、月9で鷹藤の中の人が
ドラマにでるみたいですね♪
2時間至福~。
最高です。ありがとうございます!
DVD1巻の未収録兄妹見た後だったから、なおさらでした!
最終更新:2012年06月17日 23:09