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本誌美人記者の兄による体験手記 by244さん  投稿日2011/04/04(月)

春らしく爽やか兄妹話です。



背中に手を廻す遼子の顔が、自分の胸に押し付けられた時、その柔らかな感触に洸至の鼓動が高鳴った。
遼子が洸至に抱きつくようにして手を広げ、メジャーを洸至の背中から前に回している。
妹の髪からほのかに漂うシャンプーの甘い香りが洸至の鼻をくすぐる。
洸至は、すぐ下にある妹の顔を盗み見た。
メジャーの数字を読み取ろうとすがめられた眼や、そこから流れる鼻梁の美しいライン、半開きの唇。
今夜の遼子は、妙になまめかしい。それに胸に当たる吐息も熱い。
いつもは無防備過ぎてあどけなさすら感じる遼子が、今は思わず見入ってしまう程の色気を漂わせていた。
どうやら自分は、妹と密着しているせいで年甲斐もなく舞い上がっているらしい。

洸至は妹に見られぬように苦笑した。
このまま間近にある妹の顔を見つめていたら、鼓動が部屋中に響く程になりそうで、洸至は顔を背けると軽口を
叩いて気を紛らわせることにした

「遼子どうだ?やっぱり変化ないだろ?」
「うん…」
歯切れの悪い返事だった。メジャーの数字を見ていたとはいえ、遼子らしくない。

そういえば、今部屋に入って来た時も妙に内またで、歩きにくそうにしていた。
「どうした?遼子。元気ないな。お前もしかして腹でも痛いのか?」
今日の夕食は、遼子が買ってきた大盛り焼肉丼サラダ付きだった。
しかも遼子はダイエットの為に、焼肉丼に唐辛子をかなり振りかけていた。
それを一気に平らげたせいで、腹具合がおかしくなったのかもしれない。
その時、遼子が洸至の躰にもたれかかると、手にしていたメジャーを落とした。

「落ちたぞ、りょ…」
遼子が洸至の胸に廻した両腕に力を籠めた。
まるで恋人に抱きつくように、洸至の胸に顔を埋める。
そして温もりを確かめるように頬を擦りつける。

洸至の心臓が爆音を鳴らした。
「すごく…いい匂い…」
陶然として洸至を見上げた遼子の眼はすっかり潤みきっていた。
胸に廻していた手を外すと、遼子が洸至の頬を掌で包む。
「お願い…抱きしめて」

妹の誘惑の言葉に、鼓動が限界を越えてさらに高鳴る。洸至の肋骨の奥で、心臓が存在感たっぷりに暴れ回っていた。
遼子の要求に本能が応えようとするのを、理性を総動員して洸至は押しとどめた。
妹の背中に廻そうとした震える手を、洸至は肩に置き直す。
「りょ、遼子…一体何を」
遼子がつま先立ちになった。身長差のある洸至の唇へ顔を寄せる。
遼子の濡れて光る唇が開く。
「お兄ちゃんお願い、キスして。苦しくってたまらないの」
耳の奥まで響く己の心臓の音を聞きながら洸至は思った。


―――心臓がもたない。このままだと俺は確実に死ぬ。


洸至が死を覚悟する、少し前。

「で、これがその薬か」
鳴海家のリビングのテーブルの上に、輸入品らしいサプリメントの瓶が置いてあった。
白いプラスチック製の瓶には極彩色のオウムらしい鳥と、熱帯雨林の絵。
スペイン語で書かれた商品名の上に、日本語の商品名のシールが貼られている。
そこにはゴシック体のカタカナで「グラン・バスト」と書かれていた。

「見るからに怪しい薬だな、確かに」
洸至が瓶を手に取り、横のラベルの文字を見ようとしたが、これもスペイン語なので、何が書いてあるか
さっぱりわからない。
「でしょ。でね、編集長が調べたところによると、これを飲んだ女の人が何人か襲われたらしいの。
 人通りの多い道路でね。その女性を保護したはずの警察官も抱きついたっていう噂もあるわ。
変でしょ?だからこの薬を調べることになったんだけど…」
「その為にお前が飲むのか?」
「しょうがないじゃない。来週号の売りの記事なんだもん。『本誌美人記者による体験手記!』って
 タイトルだって決まってるんだから。私がやるしかないわよ」
遼子は仕方が無さそうに肩をすくめた。乗り気ではなさそうに見えるが、「本誌美人記者」と言った時、
「美人」の所を遼子はさりげなく強調して言っていた。

「編集長に上手く乗せられたんじゃないのか。なあ、美人記者さん」

「もう、からかわないでよ、お兄ちゃん。鷹藤くんも同じことを言ってたけど」
遼子がむくれた。妹のそんな素振りが可愛くて、洸至の頬が緩む。

「こんな怪しい薬を飲んで胸が大きくなる訳ないだろ。男はな、胸が大きくなくてもそんなに気にしないと思うぞ。
胸よりももっと大事なものがあるだろ。気配りとか、愛嬌とか。そっちの方が大事だよ」
「だって大きい方がアピールできるし、…そっか、気にしないのか」
「ほどほどの方がいいと思うけどな」
「そっか…」
リビングをしばし沈黙が支配した。

「で、でも世の女性の為の取材なんだから、茶化さないで。これを飲んで手記にしないと原稿にならないもん。
 返して」
記者としての使命を思い出した遼子が、洸至が持つ瓶へ手を伸ばした。
「豊胸効果なんてあるかどうかも怪しい薬じゃないか。それより、お前がこれを飲んでまた妙なことに巻き込まれ
ないか、そっちの方が俺は心配だよ。だからこんな薬、お前に飲ませるわけにはいかない」
「お兄ちゃん!」
洸至がとられないように後ろへと瓶を持った手を伸ばした。
遼子がなおも取ろうと立ち上がると、洸至も取られないように立ち上がる。
立ち上がった洸至が瓶を持った手を上に伸ばすと、身長差のある遼子では届かない。
ウサギのように飛び跳ねる遼子を尻目に、洸至は瓶を開けると、1錠口に放り込んだ。

「あっ」

「俺が飲んだ結果をお前が記事にしろよ。自分の体験ってことにしてさ」
「そんなぁ」
「データは取れよ。それでいいだろ」
遼子が恨めしげに洸至を見上げた。
「お兄ちゃんの胸が大きくなってどうするのよ」
「…やっぱり豊胸効果期待していたのか、お前…」

最終更新:2011年04月15日 23:03