最初は微かな物音だった。それで遠山は眼を醒ました。衣擦れの音。
遼子が目ざめて、服でも着ているのだろう。遠山はまた眼を閉じた。
再び目ざめたとき、遼子の甘い囁き声が聞こえた。
「たかふじくん…」
その声を聞いて眼を見開いて、声の方を向いた。
毛布にくるまれ眼を閉じた遼子が鷹藤にもたれかかっていた。
後ろから遼子を温めるように遼子を鷹藤が抱きしめている。そして漆黒の髪を鷹藤がいとしげに指で梳いていた。
「遼子!鷹藤…なんでお前がここに!」
眼にした光景に驚き、遠山が跳ね起きようとした。手錠の鎖が乾いた音を立てた。
遠山が自由にならない右手を見ると、手錠がはめられおり手錠のもう片方の輪はダイニングテーブルにつなげられていた。
「起きたか」
遠山の上から黒い影が話しかけた。
大鴉が自分にのしかかっている。遠山はそう思った。
「ずいぶんと酷いことをしてくれたな。遠山君。恋人だったら何をしてもいいとでも?」
全身黒ずくめの男が嘲るように言った。
鳴海洸至―――遼子の兄。
そして今遼子を抱きしめているのは、鳴海洸至に家族を奪われた鷹藤だ。
鷹藤から見れば洸至は仇だ。何故この二人が一緒に居る?
「そんなにおかしいか?俺と鷹藤が一緒に居るのが」
遠山の表情を読み取った洸至が遠山の眼を見ながら言った。
口元は笑っているが眼は全く笑っていない。
「不法侵入だ」
遠山が洸至に挑むように言った。
「俺達はお前に用は無い。遼子だけだ。それが嫌なら女のように叫んで警察でも呼べばいい。家賃も相当な
マンションだから、そう簡単に他の部屋に声が届くかわからんがな」
洸至がダイニングチェアを遠山の真横まで引きずり、そこに腰かけた。
「何がしたい…何をするために現れた」
洸至が無言で煙草に火をつけた。
ゆっくりと煙を吐き出す。
その煙の先に、遼子と鷹藤がいた。
鷹藤にもたれかかる遼子が鷹藤の方へ顔を向けた。まるで遠山の存在すら忘れているようだった。
遼子が鷹藤に向き直ると、鷹藤の頬を両手で包んだ。
白い指が、いとしげに鷹藤の頬の線を辿る。
「鳴海君…何を…」
遼子は遠山の言葉など意に介さず鷹藤に口づけた。
遠山を流し見ながら、遼子は鷹藤の唇を赤い舌で舐める。
「ごめんね。鷹藤君…ずっと好きだったのに私…」
「いいから…いまはいいから」
鷹藤は愛撫を求める遼子の唇から逃れようと顔を背けた。
しかし遼子が鷹藤の首筋を抑えつけ自分の方に引き寄せる。二人の距離が縮まる。
二人の唇が触れあった時、鷹藤の中で何かが決壊したようだった。
鷹藤が遼子の背に手を廻し、深く口づけた。
二人の口の繋ぎ目から、チロチロと赤い舌が見え隠れしている。
「やめろ!やめてくれ!」
耐えきれずに遠山が叫んだ。
「散々遼子をいたぶったんだ。今度はお前が苦しめよ」
遠山の耳元で洸至が囁く。
「この部屋のカギは遼子が開けた。お前に散々いたぶられて、耐えきれずに鷹藤に電話してきたんだ。
心当たりあるだろ?」
遼子が鷹藤の首に手を廻した時に、その手首に赤い筋がついているのが眼に入った。手錠の傷だ。
凍りつく遠山の前で、遼子の鷹藤への愛撫が激しさを増していく。
「あんた…待てって。ここじゃ駄目だって!」
遼子が鷹藤のベルトに手をかけたのを鷹藤が慌てて制しているが、遼子の手は止まらない。
「どうして?こんなになっているのに」
デニムを突き破りそうになるほど昂ぶっているものを遼子の手が艶めかしく撫でた。
「こんなつもりじゃなかった…ただ、こいつを連れ出そうとしただけだったんだ」
鷹藤が困惑の視線を遠山に送る。
「ねえ、鷹藤君。お願い好きにして…」
遼子が遠山に流し眼を送りながら哀しげに囁いた。
「史郎ちゃんはずっと私に酷いことしかしなかった…」
その言葉で鷹藤の表情が変わった。鷹藤が遠山を睨みつける。
「知ってたよ、ずっと。あんたの手首に赤い痕があるのを見た時からずっと。だから俺、あんたを助けに…」
「ねえ、史郎ちゃんに見せてあげて。本当の愛し方を」
鷹藤から困惑は消え、その表情には何かの決意が浮かんでいた。
「ああ。見せつけてやるさ」
鷹藤が遼子を押し倒し覆いかぶさる。
遠山と洸至の眼の前で二人が音を立てながら口づけを始めた。
「君たち、何をしているのかわかっているのか?」
ダイニングテーブルに繋げられたまま遠山が投げかけるが、遼子と鷹藤は答えない。
二人は行為に没頭していた。毛布を剥ぎ取り、遼子の白く光る乳房に鷹藤が吸いつく。
遼子が嬉しげに喉をさらし、愛撫を甘受する。
自分との行為の時にこんな表情を見せたのはいつのことだろうか。
遠山はもう思い出せないほど遥か昔のような気がしていた。
口づけの音を響かせながら鷹藤の頭が、遼子の乳房から臍へ、そして遠山が貫いていた所まで下りていく。
遼子の右脚を抱えあげ、鷹藤が遼子の秘所へ舌を這わせ始めた。
「あっ…ああっ」
悲鳴ではなく、耳をくすぐる甘い声を遼子が上げていた。
「妹のこんな姿良く観ていられるな…兄なら止めたらどうなんだ」
「いい光景じゃないか。黙って見てろよ」
洸至はそう言うと遠山の顔の横で灰を落とした。
「人前で何てことを…」
「人に知られないと安心して、やりたい放題やったお前に言う権利はないさ」
洸至は全てを刻みつけるように凝視していた。
「あんっ…やぁっ」
鷹藤が秘裂で指を抜き差しさせながら、遼子の汗の浮いたわき腹に口づける。
臍のくぼみが汗で光っていた。
快楽でしっとりと汗を浮かびあがらせる遼子の肢体。仄暗い部屋の中で美しく浮かび上がる。
「いいの…」
遼子が鷹藤の手を求めて動かすと、鷹藤がその手に自分の空いている方の手を重ねた。
二人の指が絡まりあう。
眼前の光景が遠山の胸を嫉妬で焼き尽くす。
「やめろ…やめてくれ!」
遠山の眼の前の床に洸至が煙草を押しつけた。
「遼子だって何度もそう言ったんじゃないか?」
睨みつけながら洸至がそう言うと、スーツのポケットに手を入れた。
「お前の部屋でこれを見つけたんだよ。これ、使い方わかるよな」
革のベルトの中央に穴のあいた赤い卓球用のボール状のものがついている器具だった。
遼子の悲鳴を封じるために時折使っていた洋式の猿ぐつわ――ボールギャグだ。
洸至が膝を遠山の背に乗せ抑えつけ暴れるのも構わず遠山の口にそれを装着した。
「黙って見てろよ」
眼を逸らそうと顔を動かした遠山の頭を洸至の手が抑えつける。
ボールギャグをかまされ、開いたままの遠山の口から涎が流れ落ちた。
「鷹藤君来て…」
遼子が足を開くと、鷹藤が無言でデニムを下ろし覆いかぶさった。
「あっ…」
肉が潰れる音と共に鷹藤が腰を動かす。
「いいっ…やあっあああっ」
床に転がされている遠山の前で、遼子が啼いていた。
嬌声を上げ、嬉しげに貫かれている。
自分では上げられなかった啼き声。
どうしたらいいかわからなかったのだ。遼子を愛して―――憎んで。
天秤はいつも極端に振り切れ、優しく愛することなどできなくなっていた。
遼子の傍に居れば居るほど自分の抱える闇――嫉妬心、虚栄心、羨望が浮かび上がる。
翳りの無い遼子の心が愛おしく、そして疎ましかった。
だから憎んだ。しかし遼子の温もりから離れられなくなっていた。
遼子をどれ程貪っても足りなかった。温もりを享受するだけで自分では与えられない。ただ貪るだけだ。
遼子の傍に居れば居るほど飢餓感が深くなった。
自分では遼子にはなれない。光は―――自分の中にはない。
傍にいればそんな当たり前のことを痛感させられるのだ。
記者としての才能も到底彼女には及ばない。
鷹藤から遼子を掠め取ったやましさから来ているのかもしれないが、遼子はそんな遠山の心を見越して
憐れむように微笑んでいるように感じる。
だから夜は遼子を蹂躙した。
蜜を飛び散らせ、啼かせ、あまりの快楽からもうやめるように懇願されてもますます猛り狂い遼子が狂乱し
失神するまで追い込んだ。それだけでは足りなかった。
縛った。嬲った。責め続けた。
その結果が、今眼の前で繰り広げられている光景なのだ。
「好き…好きなの…鷹藤君…!もっと…」
鷹藤が遼子の両足を肩に乗せ、更に激しく腰を動かす。
深く繋がりあっただけでは足りず、二人は深い口づけを交わしていた。
「はぁっ…あああんっ」
あまりの快楽に遼子が唇を離すと喉を晒し、首を打ち振る。
「俺も…あんたが好きだ…」
切なげな表情を浮かべる鷹藤の額から滴り落ちた汗が遼子の頬に落ちた。
鷹藤が抉る角度を変え、遼子の嬌声がひときわ大きくなる箇所を見つけるとそこをしつこく付き始めた。
遼子の秘裂から蜜が溢れ、床に飛び散った。
「やあっああっああああ…いく…いっちゃう…」
遼子の肌に鳥肌がたった。太股から足先までが緊張し、伸びる。
絶頂に行く時の仕草だ。
自分の眼前で自分の女が他の男に抱かれ絶頂に達するのを見るのはとてつもない屈辱だった。
「俺も…」
鷹藤が遼子の中から鷹藤自身を慌てて引き抜いた。
遼子が身を起して鷹藤にのしかかり、先ほどまで自身の秘裂を掻きまわしていたそれにむしゃぶりつく。
「あんた…やめろって!」
鷹藤の制止の声も聞かずに遼子が恍惚の表情でそれを口に含んだ。
「…っ!」
その瞬間鷹藤も達したらしい。腰を震わせながら遼子の口内に欲望を放った。
遼子が喉を鳴らしながらそれを全て飲み込む。
最終更新:2012年01月04日 14:49