「懐かれたって、勘違いしてるだけですよ、先輩」
「かもな。たまにそういうのもいいだろ。お前は少し固すぎる」
「柘植さんっていい人!お兄ちゃんも見習わなきゃ!」
「だから俺は君の兄さんじゃない。あんな犯罪者と一緒にするな!」
いつまでも間違い続けられることに耐えきれなくなった藤堂が怒鳴った。
一瞬、店の中がしん…と静まり返る。
すぐに他人のテーブルのいざこざなどなかったように、店にざわめきが戻ってきた。
しかし、藤堂のいるテーブルは気づまりな沈黙に支配されたままだ。
藤堂の隣で遼子がうなだれていた。
柘植との酒を邪魔された怒りもあってだろうか、藤堂は遼子を叱責する自分を止められないでいた。
「君の兄さんが何人殺したと思っているんだ。関係のない人間の命までたくさん奪った。子供だって殺そうとした。
しかも警視庁の創設以来の恥晒しだ。よくそんな人間を懐かしめるな。こっちにすればいい迷惑だ!」
「迷惑…ですよね。ただ似てるだけで一緒に飲もうっていうなんて。勝手なことを言っているのはわかってるんです。
だけど、懐かしくて嬉しくて…だからいけないと思っていても自分の気持ちが止められなかったんです…。
ごめんなさい。本当にごめんなさい」
遼子が俯いたまま肩を落としていた。
「本当に勝手だ」
追い打ちをかけるように、藤堂が吐き捨てた。
「藤堂、そのくらいにしておけ」
柘植が制した。俯いたままの遼子は動かない。
「鳴海は確かに犯罪者だ。だがな、いくら他人から憎まれようとこの子にとって鳴海は家族だ。そこのところは
ちょっと考えてやれって」
「ですが」
「お前にはわからないかもしれないな。大事な人間が眼の前から突然いなくなった時の気持ちとかさ。
もうこの世にいないとしても、夢でもいいからもう一度会いたいと思うんだよ。それがどんなに愚かな願い
かわかっていても、そう思うことを止められないんだ、残された人間は」
遼子はまだ顔を上げない。軽く躰が揺れていた。泣いているのかもしれない。
「俺だって…そうだ」
柘植が聞こえるか聞えいないかの声で呟いた。
藤堂が顔を上げた。向いに座る柘植からはいつものように表情から何を想うのかは読み取れない。
俯いた遼子の躰がゆらりと崩れ、藤堂の膝の上にもたれかかってきた。
「お…おい!」
遼子は静かな寝息を立てていた。
「おにい…ちゃん」
「彼女、途中から聞いてなかったみたいだな。お前にあれだけ言われて寝られるなんて、すごい奴だ」
柘植が苦笑した。
「彼女は両親も兄貴に殺されたはずだ。あの事件の後、鳴海の記事を彼女自身が書いた。憶えてるか?」
普段なら週刊誌など読まない藤堂もあの号のアンタッチャブルは読んだ。警視庁の威信を失墜させ、政界をも
巻き込んだ大スキャンダルをたった一人で起こした男について冷静な筆致で、『名無しの権兵衛』の犯罪を詳らか
にした記事で、3流週刊誌とは思えぬ読み応えのある内容だった。
後にその記事を書いたのが、『名無しの権兵衛』の妹によるものだと知って藤堂は驚いた。
「記事を書く時はあれだけ冷静に分析できるくせに、眼の前に兄貴に似た男がいただけでこんな風になっちまうんだな。
兄さんに似ているお前に甘え切ってるよ」
藤堂が遼子の躰をどかせようとした時だった。
「もうすこしそのままでいてやったらどうだ」
「どうしてですか?」
「彼女、すごく幸せそうな顔をして寝てるぞ」
藤堂の膝にもたれかかり眠る遼子の口元は微かに緩んで、安らかな表情を浮かべている。
「兄さんに膝枕でもしてもらっている夢でも見ているんだろ」
「全く…」
「どれだけ迷惑かけられても、兄貴は兄貴、か」
柘植はそうつぶやくと、眠る女に自分のコートをかけてやった。
今日の柘植はやけに優しい。
―――お兄ちゃん。
あの女は俺達にそう声をかけた。
鳴海遼子が藤堂の中に兄を見たように、柘植も彼女に自分の妹を重ね合わせているのだろうか。
生きていれば、柘植の行方不明の妹はこの女ぐらいの年になるはずだ。
藤堂は、心地よさそうに寝息を立て眠る遼子を見た。
遺族や世間から冷たく見られたことは一度や二度ではないはずだ。
刑事として現場に出ることは少ないながらも、加害者家族がどれだけ世間から冷たくあしらわれるかぐらいは
藤堂も知っている。
―――それでもまだ会いたいと想えるのか。
柘植や遼子が持つ、そこまで誰かを想う感情は藤堂には判らなかった。
藤堂の太ももの布地越しに遼子の体温が伝わる。
俺がキャリアとして上を目指し続けて切り捨てたものがこの重さと温もりなのかもしれない。
あれ程の事件を起してもまだ誰かに想われ続ける鳴海洸至や八重樫が藤堂には少し羨ましかった。
もし自分が――あり得ないことだか――そういった事件を起こしたとしてもなお、自分の為に泣いてくれる誰か
が藤堂には思い浮ばないでいた。
できれば、柘植だけでも――。
そう思いかけて藤堂は止めた。自分らしくないと苦笑し、焼酎の入ったグラスを口元に運んだ。
エロなしすいません。お兄ちゃんのそっくりさんに会った遼子はこんな風になりそうで…。
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某管理官エピソード、お待ちしておりました!そしてGJです!!!
まさか、警視庁籠城事件まで絡んで来るとは思わず、
素晴らしいコラボに、読みながらニヤニヤが止まりませんでしたw
警視庁には似た人がいっぱいいて、管理官は大変そうですねww
管理官編、良かったです!
遼子も健気でかわいいですね。
そして、膝枕・・・是非自分も兄の膝枕で寝てみた・・・げふんげふん。
最終更新:2011年05月01日 13:00