その声に一瞬怯んだが、イケメンだらけの寮に行きたい一心からであろうか、遼子は尚も食い下がる。
「ジャーナリズムと雑誌の売り上げの為で私の下心からじゃないからね!で、でね。男装して行くにあたって、
スーツ着用の決まりなの。だけどネクタイを上手く締められなくて…。それでお兄ちゃんに教えてもらおうと思ったの。
お兄ちゃん上手じゃない」
強張りかけた空気を融かすような遼子の甘え声。
この声のせいで、俺はいつもこうして遼子に乗せられてしまう。
「お前、俺が制服から刑事になった頃にネクタイの結び方教えてくれたじゃないか。俺が上手く締められなくってさ」
妹が着ているワイシャツの襟下からだらりと垂れたネクタイを洸至は思わず手に取っていた。
「ネクタイを締めてあげるのはできるんだけど、自分でやるとなると勝手が違うみたいで」
遼子がまた上目遣いで洸至を見る。無防備な甘えと視線。
それをされると洸至が大抵の頼みなら聞いてくれるとわかってやっているなら計算高い性悪女だ。
しかし遼子は全く無自覚だった。
計算がないだけに逆に性質が悪いといえるかもしれないが、それは遼子の無垢な部分の現れともいえた。
「懐かしいな…昔こうやって俺のネクタイ結んでくれたんだよな」
遼子のネクタイを掴むと、洸至が結びはじめた。
「俺の手元見てろよ。こうして…こうする…」
するすると洸至がネクタイを結ぶ手順を、焼きつけるように遼子が熱心に見ている。
こんなにも間近で遼子の表情を見るのは久しぶりだ。
ネクタイを持つ手に力を籠めて、このまま妹を抱き寄せてしまいたかった。
男装姿の遼子も中性的で悪くない。
兄と妹の倒錯した関係と、男装した妹に絡みつく自分の躰を想像して洸至の心が震える。
その時、ネクタイを結ぶ洸至の手の甲が遼子の硬い胸に触れた。
「遼子…これは?」
「ブラジャーするわけにいかないから、胸をサラシで巻いているの。きつくって…」
洸至は眩暈がした。
抑えつけられた妹の双丘を思わず想像して、欲望が振りきれそうになっている。
理性を総動員してそれを抑えこみながら洸至は作業を続けた。
「潜入取材の為ならしょうがないわよ。イケメンがいっぱいの寮に行く為なら…」
最後の仕上げに、結び目のところを軽く締めるはずが、その言葉を聞いて洸至は思わず力を入れて締めて
しまった。
男装姿の遼子と寝食を共にするであろう未だ見たことのない男たちへの嫉妬が赤く煌めき洸至の視界を奪う。
「お兄ちゃん、く、苦しい!」
遼子が慌てふためく。
「駄目だ駄目だ!」
洸至は首を振ると、遼子のネクタイをいきなり緩め始めた。
「お前をそんな所に行かせる訳にはいかない」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃんどうしたの」
「男に化けるのがちょっとぐらい上手くいっても、ばれない訳がないだろ」
「トイレとか、お風呂とかなら上手くやるし…」
「そこでばれなくとも、すぐにばれるさ」
洸至が尋問相手に出す時の冷気に満ちた声を出して囁く。
手の中のネクタイを弄びながら、遼子の怯えを感じ取り洸至は背徳的な快感を憶えていた。
「匂いだよ」
「えっ…」
「男だらけの集団にずっといて、たまに外に出ると自分が女の匂いに敏感になっているのがわかるんだよ。
警察学校の寮に居た時がそうだった。お前がこれから行くセミナーの寮もそうなんだろ?サメが遠くの血の
匂いを嗅ぎつけるように、飢えた男の中に女が入ってみろ、すぐに匂いを嗅ぎつけられて何をされるか
わかったもんじゃないぞ。しかも組織の秘密を脅かそうとする女記者とばれたら…」
「洗脳はするけど、そこまで酷いことをする集団じゃないかもしれないじゃない!」
「組織の秘密を守るためなら何だってするぞ、そういう奴らは。そして、女相手の口封じの手段で最悪にして
最も効果的なのが…わかるだろ?」
洸至が最後まで言わずとも、遼子も察したらしい。顔が蒼ざめる。
「そうなる前に逃げるって」
恐怖を振り払うように遼子がひきつった笑みを浮かべる。
「ネクタイの使い方ってのは首に結ぶだけじゃないんだぞ」
遼子の手を掴むと、洸至はあっという間に両手をネクタイで縛りあげた。
「これでも逃げられるか」
「そうされたら走って逃げるわ」
「でもな、両手を封じられると走りにくいんだ。バランスも崩しやすいんだぞ」
「きゃあっ」
洸至が遼子の背を押すと、あっさりとバランスを崩した遼子がベッドに倒れ込んだ。
「だろ?」
洸至が小首を傾げて遼子を見る。
妹の瞳に浮かぶ困惑と怯え。
遼子にそんな眼で見て欲しくないと思うと同時に、その眼で見られ洸至は昏い喜びも感じていた。
自分のネクタイを外し、遼子の細い2本の脚をまた縛る。
「あっという間に動けなくなったぞ。これでどうやって逃げる?」
「叫んで…」
「叫び声が誰にも届かなかったら?」
洸至が遼子の顔の横に手を置くと、のしかかるようにして覗きこむ。
「男だらけの場所だ…セミナーは禁欲生活が基本だからな…そこに組織を崩壊させようとして来た女がいたら…
それもお前みたいな女だったら…」
洸至がワイシャツのボタンをあえてゆっくりと外していく。
遼子の白い肌が露わになる。
またひとつ。
鎖骨のくぼみが美しい陰影を作っているが見える。
またひとつボタンを外す。
白いサラシに抑えつけられ、潰れた双丘の谷間が見える。
外見上は中性的な男性だが、胸にある女性的な膨らみとのギャップはあまりに淫靡だ。
「サラシだって外されるぞ」
「お兄ちゃん…怖い…」
「上はサラシ…下も男物のパンツだろ。飢えた男たちにとってはたまらない演出だろうな。きっとそれも剥ぎ取られる」
両手両足をネクタイで拘束された遼子が怯えきった眼で洸至を見ていた。
「やだ…」
洸至が遼子の耳元に口を寄せ囁いた。
「潜入取材すればこんな目に遭うかもしれない。無理せずに鷹藤君に頼むんだな」
「…鷹藤君にお願いしてみる」
「いい子だ」
そう言うと洸至は笑顔を作って、身を起した。
それから妹を拘束していたネクタイを優しく外す。
「どんなに危険かわかったみたいだな」
「うん…」
まだ恐怖からか、遼子は放心状態といった呈だ。
「着替えて夕飯にしよう」
洸至が遼子の部屋から出る時にそう声をかけた。
「そ、そうだね。お兄ちゃんも着替えて。私すぐ作るから」
「ああ、頼む。危険だとわかってくれてうれしいよ、遼子」
「私も考えが甘かったってわかって良かった。でもちょっと怖かったかな」
遼子がウィッグを外して首を振った。
さらさらと長い漆黒の髪が流れ落ちる。
普段の自分に戻ると、洸至に向け遼子がぎこちなく微笑んだ。
「お前は危険を知らなさ過ぎるから、俺もちょっとやりすぎた。ごめんな」
「いいよ、ありがとう」
洸至は遼子の部屋を出て扉を閉めた。
そこで足を止める。洸至は遼子の部屋の様子を窺った。
「鷹藤君、いまちょっといい?例の取材の件なんだけど…」
遼子が携帯を取り出して鷹藤に電話をかけ始めたらしい。
取材は鷹藤に譲る気になったようだ。
洸至は安堵と共に奇妙な失望感を憶えていた。
もし洸至があれ程脅しても、遼子が取材に行くと言っていたら…。
危険な取材をやめさせるという名のもとに己の欲望に身を任せ、先ほどの行為の続きけられたかもしれない。
だがあと少しだけ兄妹でいたい。このままごとじみた共同生活を続けたい。
共に笑い、他愛のない会話を交わし、同じ時間を共有する。
遼子にとってこれは気の置けない家族と過ごすリラックスできる生活だろう。
しかし俺にとっては脳髄の皺一本一本に全て刻みつけたい程のかげがえの無い生活だった。
だからいまここで踏みとどまるのが当然だ。
それにいつかこの偽りの安寧の日々は終わりを告げる。そのことは自分が一番わかっている。
しかし―――。
関係を破壊してもたらされる快楽を思いながら自分の部屋に入ると、洸至は扉を閉めた。
お目汚し失礼しました。
鷹藤の中の人の番組、視聴率ヤバいですね。打ち切りになりませんように…。
うわぁあ、萌える
ヤバい、ヤバい、ネクタイ拘束系お兄ちゃんは鉄板
GJ!!です
最終更新:2011年07月22日 00:05