朝、鷹藤が眼を醒ますと腕の中にいるはずの遼子がいなかった。
バスルームにも、どこにもいなかった。
遼子は何も言わず鷹藤の前から消えた。
アンタッチャブル編集部には辞表と、記事のデータだけが残されていた。
それが昨日だ。

いま、とあるホテルの地下駐車場の出入り口が見える場所に鷹藤はいた。
携帯が何度も震え、アンタッチャブル編集部や遠山からのメールや電話の着信を知らせていた。
鷹藤はそれを無視し続けていた。この仕事は自分一人でやり遂げてみせる。
携帯の電源を切らないでいるのは、もしかしたら遼子からの連絡があるかもしれないとの一縷の
望みを託してのことだ。

遼子の声が聞きたかった。たった一日聞いていないだけなのに、ひどく遼子の声が恋しかった。
あの夜、鷹藤の全てを受け入れたのは、もう2度と会えないからだなんて思いたくなかった。
だが、遼子の携帯の電源はあれ以来切られたままだ。
もう、その手元に携帯はないのかもしれない。


カメラを握る手に力を込め、張り込みを始めて数時間何度もしたように、地下駐車場の出入り口に
ピントを合わせる。
カメラをこんなにも重く感じたことはなかった。
写真を撮ることがこんなにも恐ろしいことだと思ったことはなかった。
耳障りな金属音に、鷹藤は手元を見た。
鷹藤の手が震えていたせいで、カメラのストラップが鳴る音だった。

鷹藤はホテルを見上げた。
もう1年近くたつのか。
永倉の野望と、名無しの権兵衛の野望が潰えた場所。
鳴海洸至の夢の終焉の地。
もしあの二人が旅立つとしたら、ここが最もふさわしい場所だ。
自分が鳴海洸至でも、ここを選んだろう。

―――お兄ちゃんに寄り添うの。
それは洸至の思考を読み計画を阻止する意味かと思っていた。
その遼子の言葉はレトリックなどではなく、文字通りの意味だった。

名無しの権兵衛がたったひとつ望んだもの、それがもしかしたら全ての原因なのかもしれない。
名無しの権兵衛が壊したかったのは、そのたったひとつのものが手に入れられない世界だった。
それを与えることで、今度こそ兄を止めようというのか。
彼が愛して止まないものを。
それは。

駐車場から、ドイツ製の高級車が出て来た。
運転席の男が女に話しかけながら、ハンドルを握っている。
サングラスをかけているが、いかつい顎の線は鷹藤には見慣れたものだった。
助手席の女もサングラスをしているが、頬から顎の線は、常に自分の傍らに居た相棒のものだった。

鷹藤がカメラを構える。
二人は気付いていない。
二人をファインダーに収めると、鷹藤はシャッターを切った。

鷹藤はファインダーの中の相棒に語りかける。

この社会の束の間の安寧の為に、俺を守るために、あんたは犠牲になるつもりなのか。
それが全て俺への愛からだとしても、俺は受け取らない。
あんたが身をささげた結果の、ぬるま湯みたいな平和の中で俺に生き続けろというのか。

それは俺にとっては微温の地獄だ。

兄さんの望みと、あんたの望みが果たされた末の平和。
そんな平和だったら要らない。
あんたらの闇の底での暮らしと一緒に、俺が暴いて全て壊してやる。

あんたの兄さんが俺から全てを奪ったように、今度は俺があんたを奪い返す。

「望み通りにはさせない。絶対に…」
カメラから眼を離して、走り去る二人の車に向けて鷹藤は呟いた。
そして傍らに止めてあった車に乗り込むと、鷹藤は二人の車を追った。





1周年記念エロが、結局鷹藤がこんなことに…。すいません。
ネトラレが宇宙一似合う男鷹藤…。どう考えてもこの勝負、勝ち目がないんだが…。
鷹藤が好きなのに、なぜかいつもこんな風になってしまう。
お目汚しすいません。

338
332です。

一周年記念、鷹藤サイド、全身全霊でGJ!!です。

勝手に一周年と盛り上がって自己満足で書いた作品だったのに…
ありがとうございます。

ところで、皆さまに1つお伺いしたいことが…。
遼子の誕生日って、作品内で明言されてましたっけ?

今度の記念日は31歳の遼子の誕生日!
とか性懲りもなく思っているのですが、それがいつかわからず…

わかる方いらっしゃったら教えて下さい。

339
338こちらこそありがとうございます。

甘い兄サイドに対して、勝手に苦い鷹藤サイドを作ってしまった
のですが、少しは喜んでいただけたようでホッとしております。

誕生日私も知りたいですね~。
最終更新:2010年11月08日 23:22