心配そうに遼子の顔を覗きこむ兄の瞳の奥に、理性の光が微かに見えた。
「いや!嫌だよ…!こんなことされたら、大好きなのに、お兄ちゃんが嫌いになっちゃうよ!」
洸至の微かに残された理性に遼子は訴えかけた。
「お願い、いつまでも大好きなお兄ちゃんのままでいて」
「くそ…でも離したくない…離せないんだ、お前のことが…俺はずっと…」
「お願いずっと好きでいさせて…」
「くそ…」
洸至が何かを振り切る様に歯を食いしばった。
「好きでいさせて…か」
洸至がゆっくりと遼子から躰を離す。
「でも…離したくない…今の俺にはこれがやっとだ…お前を守るには…これしかない」
そう言うと、洸至は頭を振りかぶり、遼子の頭上にある壁に突っ込むようにして頭をぶつけた。
鈍い音がして、洸至が遼子の上に崩れ落ちる。
「…え?お兄ちゃん…お兄ちゃん!!!!」
洸至が眼を醒ました時、部屋は暗かった。
少し身を起すだけでも、額がひどく痛んだ。手をあてると、そこには冷たいタオルが置かれていた。
タオル越しでも相当腫れているのがわかるくらいの大きなこぶができている。
部屋に遼子の姿はなかった。
自分が壁に頭を打ち付ける前遼子にしたことが蘇る。遼子の柔らかな躰を俺はきつく抱きしめた。
そして血の味のする口づけ―――。
洸至は頭を抱えた。
あんなことしたら、遼子が出て行って当然だ。兄としてしてはならぬことを…。
常日頃、夢の中でだけ許していた甘美な悪戯を、薬に酔っていたとはいえ遼子にしてしまった。
遼子を失ったあまりの寂しさに、腫れあがった額以上に洸至の胸は痛んだ。
「あ、お兄ちゃん起きたの?」
もう聞けないと思っていた妹の声だった。
洸至が振り返ると、洗面器をお盆に載せた遼子が部屋に入り口に立っていた。
「遼子…出て行ったかと思ったよ」
洸至の真剣な声色を遼子が笑顔で受け流した。
「お兄ちゃん、真面目な顔して何言ってるの?私が出ていく訳ないでしょ」
遼子が笑ってお盆を置いた。
「片山は」
「さっき帰したの。お兄ちゃんみたいに、眼を醒ました時にはいつのも片山さんに戻っていたから。
それから片山さん、鳴海さんにあんなことしてしまって、ってすごい勢いで謝っていたのよ。明日会ったら
お兄ちゃんも許してあげて。元はと言えば私が調べていた薬のせいだし…」
遼子が洗面器の中のタオルを絞ると、洸至の額にあるタオルを取った。
「腫れてるね~。このこぶ、明日も目立つかもよ」
タオルの下のこぶをしげしげと見て遼子がそう言った。それから濡らしたタオルを洸至の額に当てる。
「ごめんな、遼子」
洸至はその後言葉をつなげなかった。
いつもは嘘をまき散らし真実を隠蔽し捻じ曲げる自分が、まるで無力だ。
遼子を押さえつけ抱きしめながら囁いた真実のせいで、この舌が嘘を紡がなくなっている。
「薬のせいよ。この薬のこと記事にしないと危険よね…」
遼子が眼を伏せ洗面器の中に入れたタオルをゆすぎながら言った。
「片山さんはあの時のこと、憶えているって言っていたけど…。ただ薬のせいで、眼の前にいた私が恋人みたいに
見えたって。お兄ちゃんもそう?あの時私のこと本当にそう思ったの?」
洸至の口の中がカラカラに渇いているせいで、舌がうまく動かない。
かろうじて洸至が出せた言葉は、呻くように言った「ああ」という一言だけだった。
その一言の中に、洸至の想いが詰まっていた。
あの時、本当に恋人だと思っていた。
いつもそうであればと願っていたように。
兄が、兄以上の思いを持って自分を見ていたと遼子に知られたのだろうか。それとも…。
洸至は、遼子の次の言葉を待っていた。
遼子が何を言うかで運命が決まる。ほんのわずかな時間だが、洸至には永遠にもひとしい時間に感じられた。
「ってことは、私が史郎ちゃんの前でこれを使えば…」
拒絶され嫌悪されることを予期して洸至の心は衝撃に備えていたが、別の方向からの衝撃が洸至を襲った。
「史郎…?前にお前を振った男か」
洸至がのろのろと遼子の方を見た。
遼子が顔を赤くして目を逸らした。
「べ、別にこの薬を悪用しようなんて考えてないんだからね。その、史郎ちゃん…遠山さんみたいに
理性的な人の前でこの薬を使ったらどうなるかなって思っただけであって、下心からじゃないからね!
記者としての純粋な探求心よ」
「待て遼子…俺がああなったのは」
「薬のせいでしょ?お兄ちゃんはあんなことする人じゃないもの」
遼子が首を傾げて洸至を見た。露とも疑いを抱かぬ、洸至を信じきった眼だった。
「…そうだな」
洸至の舌が、遼子の信頼に応えて再び嘘を紡ぎ始めた。
―――もうすこしだけ兄妹でいよう。
安堵とほろ苦い諦めが洸至の胸の中に拡がっていく。
洸至の眼に、リビングのテーブルの上の例のサプリメントが止まった。
洸至はタオルが落ちるのも構わずに立ち上がると、そのサプリメントを手に取りトイレに向った。
兄の思惑に気付いた遼子の制止の声を無視して、瓶を開けると中の錠剤をトイレの中に捨てた。
「遼子、こういう薬を使って思いを遂げても空しいだけだぞ」
薬に幻惑された時に見た遼子は本当に美しかった。遼子の濡れた唇の感触、血の味の口づけ。
あの甘美な瞬間は俺だけのものだ。
「そんなぁ」
遠山なんかに味わわせてやるものか。俺はそれ程お人よしじゃない。
「本当に好きだったら正面から当たるんだな」
肩を落とす遼子を見ながら洸至は言うと、レバーをひねり全てを洗い流した。
エロなしごめんなさい。次こそは兄にいい思いをさせます。
不憫な兄が可愛くて、今回も不憫オチにしてしまいました。
あと連番間違いました(汗)>>263が本誌美人記者兄妹による体験手記5です。
体験手記「お兄ちゃん編2」GJです。堪能しました。
グランバストで結局良い目を見たのは鷹藤君だけか?w
兄よ、遼子にも薬を飲ませれば、お互い合意の上で・・・げほげほ
グランバストは鷹遼はキスだけでおわれるの?
そんなことないよね、続き頼みます。
リクエストはだいだい書いてくれるよ書き手さんに感謝。
最終更新:2011年04月15日 23:09