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国際人育成の名の下に英語教育を重視する傾向が強まる中、朝読書や「論語」の音読を導入するなど、国語力の強化に取り組む学校が注目を集めている。背景には、生徒の読解力や表現力、論理的思考力の低下に対する危機感がある。国語には日本の歴史、文化、伝統を知り、日本人の豊かな情緒を培う側面もあり、専門家は「国語力の強化こそが真の国際人の育成につながる」と指摘、英語偏重の流れに警鐘を鳴らす。


3年間で100冊

 「じゃあ、本を出して」

 5月初旬。堺市南区の私立東大谷高校泉ケ丘キャンパスで、始業のチャイムと同時に担任教諭が切り出した。生徒たちは一斉にかばんから本を取り出し、一心に読み始めた。

 ほぼ毎日行われている「朝の5分間読書」。文章に親しみ読解力を伸ばすのが狙いで、3年間で100冊読破が目標だ。本はライトノベルから科学の専門書までさまざまで、教育企画部長の並河宏教諭は「生徒が興味の持てる本であれば何でもいい。いずれは純文学や古典にも挑戦してもらえれば」と期待を込める。

 同校が共学化した今年度から始めた国語力の徹底強化の一環。きっかけは、英語の文章問題の内容を理解できず正答できない生徒が増えたこと。数学や理科でも問題文が長くなると理解できない生徒が続出し、対策を迫られたのだ。

 同校では、国語力は知的活動の基盤▽感性・情緒などを表現する主要な手段▽コミュニケーション能力の中核-と位置付ける。生徒が自ら設定したテーマをもとに文献を調べてリポートを書く授業も新設。文章力や論理的思考力の向上に努めている。


「日本語科」新設

 古典を積極的に活用している学校もある。

 東京都世田谷区は「言葉は物事を考える基盤」として平成19年度、区立小中学校に「日本語」の授業を新設。小学校では論語や古文の音読を行い語彙を広げ、中学校では「よりよく生きるためにはどうすればいいか」という哲学的なテーマについて、自分の考えを発表する授業で表現力や論理的思考力を養っている。

 区教委の担当者は「日本語のさまざまな表現方法を身につけられた」と成果を語る。

 また、大阪市天王寺区の私立清風学園中学・高校は約20年前から小論文の指導に取り組み、17年には読書・論文指導担当を設けた。常勤教諭10人、在宅講師35人の手厚い体制で指導にあたる。小論文による大学入試の合格者は毎年数十人に上るなど実績も上がっているという。


“根無し草”では…


 学習指導要領の改定に伴い、英語は23年度から小学5、6年生で完全必修となった。今年度から順次、高校英語の授業が英語で行われるようになるなど、学校現場で英語力重視の傾向は強くなる一方だ。

 大阪市でも橋下徹市長の強い意向を受け今秋、一部のモデル校で小学1年から英語の授業を導入。小6で英検3級、中3で準1級に合格できる英語力の習得を目指している。

 そんな傾向に対し、教科の中で国語が最重要だと訴える声が有識者から上がっている。日本人としての情緒やアイデンティティーを支える国語を軽んじて英語力を養っても、“根無し草”では国際人になり得ないという主張だ。

 東大谷高校を運営する大谷学園の理事を務め、論語・儒教研究の第一人者として知られる立命館大フェローの加地伸行氏は国語教育について「問題集を解けば国語力が身につくものではない。やはり読書を通じて感性と論理を磨くことが必要だ」と指摘。その上で「国際人というのは自国の立場でものを話すということ。そのためには自国の歴史や文化、伝統への理解がなければならず、国語が重要になってくる。形式的に文章を学ぶ英語教育だけでは国際舞台で自己表現できない」と話している。














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