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■ 生物は祖先に由来しないレトロウィルスによる外来遺伝子が組み込まれており、それには精子も関与している? 「るいネット(2019/03/15 AM00)」より
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○遺伝子の水平伝播
 人間のDNAの一部は我々の祖先に由来しない、”外来”遺伝子が組み込まれている。この発見は、動物の進化が先祖から受け継がれる遺伝子のみに依存するという従来の見方を一変させる。これら異種の遺伝子が取り込まれることは「遺伝子の水平伝播」と呼ばれている。
 人間の遺伝子にはイントロン(介在塩基)がある。塩基に組み込まれていながら全くタンパク質合成のために働かない遺伝子である。そしてレトロウイルスの一種が持つ遺伝子と全く同じ配列が一部のイントロンに存在するという事実が判明した。
これはレトロウイルスは、生物に感染するとその生物のDNAの中に自らの遺伝子を送り込む(逆転写)という特徴を持っているからである。

他の生物のDNAのなかに自分の遺伝子を送り込むためには逆転写酵素(自分の遺伝子を他の遺伝子に組み込む酵素)が不可欠であり、主にRNAがその特徴を有している。

 単細胞生物においては、耐性菌の出現などの例に見られる微生物の急速な進化を説明すると考えられている。また霊長類の外来遺伝子については50個までがウイルスに由来していた。更に菌類由来の遺伝子も見つかっている。
哺乳類のゲノムには、過去に感染した内在性レトロウイルス遺伝子の断片が多く存在している(全ゲノムの8%)。それらの内在性レトロウイルス遺伝子は哺乳類の胎盤獲得に働いているだけではなく、機能性の高いウイルス遺伝子と順次置き換わることができる。
研究によれば様々な種の哺乳類の胎盤獲得におけるレトロウィルスは起源をそれぞれ異にいるという。

この「遺伝子の水平移動」は、多細胞生物間においても見られる。植物のつくった遺伝子が種の壁を超えて動物に移動した実例もみつかっている。ウミウシの一種は動物なのに葉緑体をもっていて光合成ができる。このウミウシはもともと海藻が持っていたDNA自分の中に組み込んだ。また動物がかつて獲得した目のもととなる遺伝子は、最初に植物がつくり、それが動物に水平伝播したと考えられている。
共生関係にある多細胞動物と細菌は遺伝子の水平伝搬が広く見られることがわかって来た。原核生物が内部共生してミトコンドリアが進化したように、細菌が多細胞動物と内部共生を行っている例も数多く見つかっている。そして、 細菌によっては生殖細胞を好んで宿主にする細菌がある。これらにより、生殖細胞への侵入を通じて遺伝子が水平転移したのではないかと考えられる。

○精子の中心体も水平転移を媒介している
親の形質にはないものが子供に現れる…昔の人々は、この不思議な現象を先夫遺伝(テレゴニー)によるものと考えた。これは、ある雌が以前ある雄と交わり、その後その雌と別の雄との間に生んだ子に、前の雄の特徴が遺伝する、という説、理論。つまり未亡人や再婚した女性の子は先の夫の性質を帯びる、という考え。19世紀後半までは広く信じられてきたが迷信として退けられてきた。
しかしハエでは、テレゴニーに似た現象が起きることがわかっている。実験では身体サイズの大小の差がはっきりつく2グループのオスのハエを選んで用意し、メスのハエとの交尾を記録した。すると例えば異なるオスと2回の交尾の後に2回目で受胎した場合、驚くことに孵った子どもは最初に交尾したオスのボディサイズに近くなることが判明したのだ。

人間においても類似の事例が報告されている。胎児のDNAが妊娠によって母親の胎内に残る事が証明された。また胎児のDNAが脳関門を通過し、母親の脳内に残る事が珍しくない事も明らかにされた。同じ年には以前の妊娠で母親の体に入った胎児のDNAが年下の兄弟の中にも入る事を指摘された。

上記の事実はテレゴニーを説明できる分子生物学的メカニズムが提唱されている。]そのメカニズムとは精子による女性生殖器内の体細胞への侵入、妊娠による胎児の細胞を経由したDNAの結合、精子から放出されたDNAの母体体細胞への取り込み、母体血中に存在する胎児のDNAによる影響等である。

特に注目されるのが精子の関与である。通常精子は卵子にたどり着いて受精し、減数分裂を繰り返してそれが赤ん坊になる。
そしてその細胞分裂の司令塔的役割を果たしているのが精子の「中心体」という部分である。中心体は、RNAとタンパク質の複合体である、RNP(リボ核酸タンパク質)という物質で構成されている。水平伝播する遺伝子の提供元に細胞が挙げられていると言う事は、当然生殖細胞からの遺伝子の水平伝播も起こり得るという事だ。
今の通説では受精できなかった精子は膣内に吸収され、たんぱく質として膣内で吸収されるだけということになっている。もし逆転酵素を有するRNAが精子に含まれていたとすれば、RNAは水に溶けやすい性質を持っているという生物学的事実との相乗効果で、膣内に無造作にばらまかれた一億匹の精子たちのRNAは単に膣内で吸収されて死ぬのではなく、ウイルスのように膣内に溶け込んで遺伝子を女性のDNAに逆転写酵素で組み込むことが出来るのではないか。

海外の研究論文によると、精子にはRNAの逆転写能力がある。それだけでなく精子には体細胞に侵入する能力まであると言う。哺乳類の胎盤の形成にはレトロウイルスが関与しているし、精子の性質はこれまで考えられていた以上にウイルスに近い。
それもその筈でDNAの中にはレトロウイルスが潜んでいる。生物とはウイルスの「上位互換」であり、精子にもウイルスと同様にDNAを水平伝播する能力が備わっているのである。


★ 遺伝子は異種間をどう移動しているのか-研究者が新論文 「WSJ(2015.9.18)」より
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 科学者たちは、一つの生物種の遺伝子が別の種(しゅ)へ直接飛び移ることができる道筋を発見した。自然界が遺伝子組み換え生物(GMO)を創造する際の道筋だ。

 この発見は、遺伝子組み換え作物をめぐる論争にも関係する。GMO反対派は、実験室で行われた異種間の遺伝子移動(例えば、トウモロコシにバクテリア遺伝子を挿入して、害虫に抵抗力のあるものにする)は、自然界で決して発生せず、したがって非倫理的であり、潜在的に安全でないとしばしば主張してきた

 新たな研究論文は17日、科学誌「PLOSジェネティクス」に掲載されたもので、こうした反対派の主張の根拠を揺るがすものだ。

 スペイン・バレンシア大学の遺伝学者で、論文の共同執筆者のサルバドール・エレーロ氏は、「自然界は常にGMOを創造していることが認識できる」と述べ、「遺伝子をある生物から別の生物に移動させるのは、それほど奇怪ではない」と語った。

 遺伝子は通常、同一の生物種の間で受け継がれて行く。親から子どもへの移動がそれで、「遺伝子の垂直伝播(VGT)」として知られるプロセスだ。しかし近年、科学者たちは「遺伝子の水平伝播(HGT)」の多くの例を発見した。遺伝子がある生物種から、同じ環境でたまたま生きている全く無関係の生物種に運ばれるプロセスだ。

 例えば、コーヒーの実を食べ尽くす害虫「コーヒーボーラー・ビートル」のゲノムの中からバクテリアの一種の遺伝子が発見された。このバクテリア遺伝子は、この昆虫がもっぱらコーヒー豆のみを食料にして生きていくのを可能にしている。バクテリアが通常、抗生物質耐性を持つのは、遺伝子の水平伝播を通じてである。

 英国の研究チームは数カ月前、人間はその進化の過程で「ジャンプする遺伝子」方式によって、バクテリアやウイルス、菌類から145以上の外来遺伝子を獲得できたという結論を出した。

 大きな謎は、これがどのようにして生じるかだ。最新の研究論文で、エレーロ氏ら研究者チームは、寄生蜂の遺伝子がチョウやガのゲノムにジャンプする(飛び移る)と考えられるルートを示唆している。

 寄生蜂の一つであるアオムシサムライコマユバチは、チョウやガの幼虫であるアオムシやケムシの体内に卵を産みつけるが、その際にハチはチョウやガの幼虫の自然免疫反応を無力化するウイルスも体内に注入している。その結果、ハチの幼虫は何ら妨害を受けないままチョウやガの幼虫に寄生できる。この過程で、ハチに属する遺伝子はまた、ウイルスにかくまわれながら、最終的に宿主であるチョウやガの幼虫に組み込まれる。

 通常、ハチの幼虫は生き残るが、チョウやガの幼虫は死ぬ。このシナリオでは、挿入されたハチの遺伝子はどこにも行かない。

 しかし時にはこのハチは、間違えて通常の宿主ではない種類の幼虫を攻撃し、卵を産み付けるかもしれない。その場合、卵はこの幼虫の体内で生き残らないが、挿入されたハチの遺伝子は非宿主の幼虫のDNAに組み込まれ、将来の世代に続くチョウの子孫に伝播される。かくして、ハチの遺伝子はチョウにジャンプするかもしれないのだ。

 このジャンプが発生すると科学者たちが知っているのは、ハチのDNAの配列がチョウやガの幼虫のゲノム内部で発見されてきたためだ。しかし、厳密なメカニズムは依然として不明だ。

 最新論文の執筆者たちは、2種のチョウ(オオカバマダラ=北米で一般的な、黒と白の斑紋があってオレンジ色の羽を持つ大型のチョウ=を含む)と、3種の幼虫(カイコを含む)でハチの遺伝子を発見したと述べている。

 通常、遺伝子が存続するのは、その遺伝子によって何らかの恩恵がある場合だ。PLOS論文によれば、ハチから獲得した遺伝子のうち2つは、ブラコウイルスという敵から幼虫を守るタンパク質を製造する。製造されたタンパク質は、幼虫に感染するブラコウイルスの能力を妨害し、ウイルスの複製能力を阻害することで、幼虫を保護しているのだという。


■ 遺伝子の水平伝播: Horizontal gene transfer 「UltraBem(2021/07/08)」より
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1.概要: 水平伝播とは
2.水平伝播の実例
  ・Wolbachia
  ・ウミウシの光合成遺伝子
  ・Aerosin gene

概要: 遺伝子の水平伝播とは

遺伝子の水平伝播 (horizontal gene transfer; HGT) は 1940 年代に微生物で最初に報告され、当初は植物での研究が盛んであった (1)。

その後、他の分類群の生物でも多くの例が報告され、現在では、遺伝子重複の多くは、自然な重複ではなく HGT によると考えられている (1)。

HGT で伝播した遺伝子の多くは中立またはほぼ中立である (1)。
つまり、適応的でなくても一定期間はゲノム内に保存され、やがて適応的に機能するものが生き残る。
機能的に中立の遺伝子は、長い時間の間にまた失われると考えられている。

HGT は原核、単細胞真核生物、多細胞真核生物の様々な組み合わせで生じる (1)。

もちろん、原核生物 同士の HGT が最もよくみられる (4I)。
単細胞真核生物への細胞内共生バクテリアからの伝播は EGT (endosymbiotic gene transfer) という。
バクテリアからヒトの生殖細胞系列への伝播は報告されていないが、体細胞には伝播する。

HGT は、遺伝子の系統解析で発見される。

具体的には、分子系統樹と生物の系統樹で対象とする生物の位置が異なる phylogenetic conflict である (1)。
したがって、系統的に近い生物の間で生じた HGT を検出するのは難しい。
HGT は pseudogene を産むことが多い (5)。

もともと、原核生物には pseudogene が少ないと考えられていたが、最近の報告で多く発見された。そこで comprehensive research を行なったという流れ。
バクテリアの bioinformatics 論文。64 のゲノムを調べ、約 7,000 の putative pseudogene を発見。
Gene-like sequence のうち 1-5% は pseudogene。それらは主に ABC transporter などの大きな gene family にみられるが、HGT gene にも多い。
HGT は codon usage から判定している模様。

Gut microbiola の中では HGT が盛んである。たとえば、日本人の腸内細菌は海藻の細胞壁に由来する polsacchaides を分解することができるが、これは海藻の寄生虫から腸内細菌に移行した酵素の働きによる (1)。

(※mono....2以下略、詳細はサイト記事で)


■ 水平遺伝子伝搬 「JT生命誌研究館-進化研究を覗く(2014年6月16日)」より
(※mono....前後略,詳細はサイト記事で)
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CRISPR部位には幾つかのタンパク質遺伝子と、短い転写されRNAとして機能する部分が集まったクラスターを形成している。ウィルスが侵入すると、そのDNAは小さな断片にカットされる。その一部がCRISPRクラスターに取り込まれ、ガイドRNAとしての役割をはたす。次にウィルスが入ってくると、このガイドRNAがCAS蛋白をウィルスのDNAにガイドしてウィルスDNAを分解する。これにより更なるウィルスDNAの侵入、増殖を防ぐ。(作図:James atmos)

ただこのことを裏返せば、細胞が常に外来のDNAの侵入に悩まされていることを意味している。事実外来遺伝子の侵入を防ぐCRISPRだけでなく、ゲノムに入り込んだ外来遺伝子を不活性化するための様々な仕組みはほとんどの生物に広く認めることが出来る。この様に外来の遺伝子が入って来てゲノムに取り込まれることを水平遺伝子伝搬と呼ぶ。細菌全体が内部寄生しなくとも、遺伝子の一部が水平伝搬されるだけで、以前にはなかった遺伝子、あるいは遺伝子群を一度に導入し、新しい機能を手に入れることが出来る機構だ。事実、CRISPR遺伝子群もおそらく水平伝搬で拡がったのではと考えられている。

ウィルス感染による遺伝子の水平伝搬は私たち人間でも普通に起こっている。例えばレトロウィルスに感染すると、そのウィルスが持っている全ての遺伝子が私たちのゲノムの中に組み込まれる。更にこのウィルス遺伝子が宿主遺伝子の一部を取り込んで他の細胞に感染することもある。この場合はウィルス遺伝子だけでなく、細胞ゲノムの一部が細胞から細胞へ移行する。この時取り込んだ遺伝子に変異が起こり発がん性を持つことがある。こうして一部の発ガンウィルスが出来たと考えられる。現在ではこの様なレトロウィルスの水平伝搬能力を利用して、目的の遺伝子を細胞に導入するためのツールとして使われている。山中iPSが最初作成されたときは、このレトロウィルスによる遺伝子伝搬を使って作成された。

しかし水平伝搬はウィルスだけに媒介されるわけではない。特にゲノム研究が進んだ結果、共生関係にある多細胞動物と細菌については遺伝子の水平伝搬が広く見られることがわかって来た。原核生物が内部共生してミトコンドリアが進化したように、細菌が多細胞動物と内部共生を行っている例が昆虫では数多く見つかっている。アブラムシに見られる、菌を自分の中で培養している恐るべき菌細胞については季刊生命誌で石川さんが詳しく紹介された。ミトコンドリアの多くの遺伝子が宿主の核に移行したように、内部共生は異なる生物間の遺伝子交換が起こるメカニズムとして多細胞動物にも広く存在しているようだ。ただ多細胞動物になると身体の細胞が、精子や卵子などの生殖細胞とそれ以外の体細胞に分かれている。子孫には、生殖細胞のゲノムからしか遺伝子は伝わらない。しかし、細菌によっては生殖細胞を好んで宿主にする細菌がある。ボルバッキアだ。














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最終更新:2021年12月05日 19:32