■ 暑さと寒さ、死亡リスクを高めるのはどっち? 「日経Gooday(2015/6/30)」より
日本人は低温に起因する死亡に要注意
/
 世界的に猛暑や極寒が報じられることが多くなり、地球温暖化への懸念が強まりつつあるせいか、異常な気温と健康の関係に関心が寄せられているようです。

 高温や低温は、循環器疾患、呼吸器疾患をはじめとして、様々な病気の発症や悪化に影響を及ぼすことが示されています。しかし研究者の間でも、高温と低温のどちらが健康により大きく影響するのかについては意見が一致していません。

 英London大学衛生熱帯医学大学院のAntonio Gasparrini氏らは、日本を含む世界の13カ国で、様々な原因で死亡した人の死亡時点の外気温を調べて、死亡率が最も低い温度を明らかにしました。次に、この温度をそれぞれの国で生存に最適な気温と考えて、それより高温または低温にさらされたことが原因と考えられる死亡者の数を推定し、全ての死者に占める割合を推算しました。

寒い時期の方が死亡が増える

 研究者たちはまず、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、イタリア、日本、韓国、スペイン、スウェーデン、台湾、タイ、英国、米国の計384カ所で、経時的に記録されていた、死亡と、天候に関する数値(気温など)、大気汚染レベルなどのデータを集めました。次に、各国の最適気温を見つけて、それより高温または低温にさらされたことによる死亡がどのくらいあったのかを推定しました。

 日本については、国内の47カ所のデータをあわせて分析しました。調査期間は1985~2012年で、それらの地域の総死亡者数は2689万3197人でした。

 分析の結果、日本の年間平均気温は15.3℃で、死亡が最も少ない気温は26℃であることが明らかになりました。測定された気温の分布に基づき、26℃より低い4℃~26℃までを「低温」、4℃よりも低い場合を「極低温」、26℃から30℃までを「高温」、30℃より高い場合を「極高温」と定義して、死亡者数を比較したところ、日本では高温と極高温が原因の死亡はわずかでした。

 一方で、低温にさらされたことによる死亡の割合はかなり多く、極低温によると思われる死亡は、高温と極高温による死亡を合わせた割合よりも高いという結果になりました。

 調査対象国すべてのデータを合わせると、最適ではない気温が原因と考えられた死亡は、死亡全体の7.71%を占めていました。国ごとの差は大きく、最低はタイの3.37%、最高は中国の11.00%で、10.12%だった日本は、中国、イタリアについで第三位でした。また、全体では、すべての死亡の0.42%が高温に、7.29%は低温に、0.86%は極低温または極高温にさらされたことが原因と推定されました。

 日本人の死亡リスクが最も低いのは気温26℃で、ちょっと肌寒い~寒い程度の気温にさらされることが死亡のリスクを高めるという、ほとんどの人にとって意外な結果は、Lancet誌電子版に2015年5月20日に報告されました。


■ 寒い日と暑い日、死亡率が高いのはどっち? 「MEDLEY(2015.06.17 )」より
/
6月も半ばを過ぎ、夏も本番、「暑いのはもううんざり」、という方もいると思います。7月、8月になると、脱水症、熱中症、熱射病などの単語がニュース記事を飾る事も珍しくありません。今回は、27年間、のべ7,423万人の死亡を集計し、気温と死亡の関係を解析した研究を紹介します。驚くべき事に、極端に寒い日、極端に暑い日、やや暑い日の死亡率はむしろ低く、やや寒い日の死亡率が非常に高いという結果がでました。

◆ 気温と死亡の関係

「気温と死亡にどんな関連があるか?」という問いに対しては、温帯気候に住む我々日本人とは一見無関係に感じるかもしれません。しかし、例えば、気温が高い事による死亡の原因としては、脱水症、熱中症、熱射病などがあげられますし、場合によっては脳梗塞が起こる事もあります。逆に気温が低い事による死亡の原因としては、狭心症、心筋梗塞、喘息、凍傷、などが挙げられます。これらの病気は、むしろ非常に馴染みのある病気ではないでしょうか。今回の研究では、全世界の様々な気候帯にある384箇所の都市におけるデータを集めて解析しています。

◆ 全世界での27年間、のべ7,423万人の死亡を解析
筆者らは以下の方法で解析しています。

オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、イタリア、日本、韓国、スペイン、スウェーデン、台湾、タイ、英国、米国の384箇所でデータを集めた。[…]一番死亡率の低い気温よりも高いか低いかで、暑いか寒いかを定義し、極端に寒いと寒いのカットオフ値として2.5パーセンタイルの気温を用い、極端に暑いと暑いのカットオフ値として97.5パーセンタイルの気温を用いて、それぞれが原因と考えられる死亡数を集計した。

以上のように、それぞれの都市において一番死亡率の低い気温を求めて、それ以上かそれ以下で「暑い」、「寒い」をまず定義しました。次に、「極端に寒い」を、その都市における一番低い気温から下位2.5%の気温まで、と定義し、「極端に暑い」を、その都市における一番高い気温から上位2.5%の気温まで、と定義しました。死亡数としては、交通事故、殺人などの外的要因による死亡を除き全ての死亡数を集計し、その中で気温が原因と考えられる死亡に注目しました。

◆やや寒い日での死亡率が一番高かった
結果は以下の通りとなりました。

1985年から2012年の間に起きた、74,225,200人の死亡について解析した。全体としては、7.71%(95%信頼区間 7.43-7.91)の死亡が、適度ではない気候が原因とすることができた。3.37% (3.06-3.63)のタイから11.00% (9.29-12.47%)の中国まで幅があった。一番死亡率が低かった気温は、熱帯ではその都市の中での60%程度に位置する気温、温帯ではその都市の中での80-90%程度に位置する気温であった。気温が原因と考えられる死亡は、寒さによるもの(7.29%, 7.02-7.49)の方が、暑さによるもの(0.42%, 0.39-0.44)よりも多かった。極端に寒い気温と極端に暑い気温は、死亡の0.86% (0.84-0.87)であった。

以上のように、まず、「寒い日VS暑い日」では「寒い日」の方が死亡の原因としては多いという結果になりました。また、驚くべき事に、「極端に寒い日」と「極端に暑い日」の死亡率は、「やや寒い日」と比較して少ないという結果になりました。寒さが原因になりやすい理由としては、「寒さが心血管系、呼吸器系に与える影響の方が、暑さによる心拍、血管粘稠性に与える影響よりも、長期間持続しやすい」ということが述べられています。例えば、寒い季節になると血圧が上昇したり、血管が縮まりやすくなったり、気管支が縮まりやすくなったりしますが、この影響が「やや寒い」時期に持続することが死亡率をあげているのではないか、ということです。

筆者らは、「気温による死亡を最小限にするために、公衆衛生の観点からどのように介入するかを計画することや、今後気候が変化していくというシナリオの中で、将来的に気候がどのような影響を与えるかを予想することに対して、今回証明したことは重要な示唆を与えてくれる」と締めくくっています。

この研究の優れている点は、なるべく全世界の様々な地域を含めて、膨大なデータ量を解析している点です。一方で、中東やアフリカなどの地域が抜けていたり、人種毎の解析が抜けていたり、「気温が原因である死亡」ということの定義が難しい、といった批判が上がると思います。我々日本人には文明の利器、エアコンがかなり普及していますから、結果の解釈はさらに難しいですが、今年の夏も冬も死亡率の低い適度な温度で、皆さん過ごしてください。

ーーーーー
石田 渉

参考文献
Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: a multicountry observational study.

Lancet. 2015 May 20 [Epub ahead of print]












.
最終更新:2022年01月02日 13:59