日本の当局者は最初から知っていた。
— ふくちゃん (@fukufukugoma) January 23, 2022
《厚生労働行政推進調査事業の資料より》
平成29年度すなわち「2017年」のものです。
厚生労働行政推進調査事業の、「異種抗原を発現する組換え生ワクチンの開発における品質/安全性評価のありかたに関する研究」 https://t.co/bgc0gY1RkC
※■ 異種抗原を発現する組換え生ワクチンの開発における品質/安全性評価のありかたに関する研究pdf 「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」より
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平成 29 年度 厚生労働行政推進調査事業
(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)
「異種抗原を発現する組換え生ワクチンの開発における品質/安全性評価のありかたに関する研究」総合報告書より抜粋
感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンの開発に関する考え方
1. はじめに
遺伝子組換え技術やバイオテクノロジーの進歩により、従来の技術では製造が困難とされていた感染症の予防を目的としたワクチンの開発が進められている。これらの技術の中にはリバースジェネティックス法のように、遺伝子組換え技術を用いて迅速にウイルスを作製するものも含まれている。一方で、遺伝子治療で用いるウイルスベクターのように、目的となる遺伝子を発現するワクチンの開発も進められている。このような感染症の予防を目的とした遺伝子組換えウイルスを有効成分とするワクチン(以下、「組換えウイルスワクチン」という。)は、従来のワクチンのように抗原となるタンパク質やウイルス粒子を接種するのではなく、目的の遺伝子を組み込んだウイルスを直接接種する。これにより、ウイルス感染と類似した作用機序により免疫を惹起するため、持続的に液性免疫と細胞性免疫の両方の免疫刺激を引き起こすことが可能で、従来のワクチンよりも高い免疫反応を惹起することが期待されている。特に、エボラウイルス、HIV 等の公衆衛生上の大きな脅威となり得るが現在有効なワクチンが承認されていない病原体に対する組換えウイルスワクチンの開発が試みられており、その実用化が期待されている。また、海外の一部の国ではデングウイルス、日本脳炎ウイルス等に対する組換えウイルスワクチンが既に承認されている事例もある。
開発が進められている組換えウイルスワクチンは、その高い有効性が期待される一方で、新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等へ接種された場合の安全性は従来のワクチンとは大きく異なる可能性がある。特に、増殖性のある組換えウイルスワクチンを用いる場合には、第三者への伝播の可能性が高くなり、ウイルス排出による安全性リスクを慎重に評価する必要がある。このため、組換えウイルスワクチンにおいては、従来のワクチンとは異なる品質、非臨床、臨床評価及び安全性確保の対策を追加する必要があると考える。
本ガイダンスは、「感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン」及び「感染症予防ワクチンの非臨床ガイドライン」を補完し、組換えウイルスワクチンの開発に特有の品質、非臨床及び臨床評価に関する留意点を示したものである。
2. 目的
本ガイダンスは、組換えウイルスワクチンの開発における安全性確保や有効性評価の新たな視点を明らかにすることを目的に、品質、非臨床及び臨床評価の考え方・留意点をまとめたものである。なお、本内容は、あくまで現時点での科学水準に基づき検討されたものであって、今後の科学水準の変化に伴い変更される可能性があることには留意する必要がある。
3. 適用範囲
本ガイダンスは、次のような遺伝子組換えにより作製された感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンに適用される。
遺伝子組換え技術を用いて外来遺伝子を組込むことによって抗原性、病原性又は増殖性を改変したウイルス(以下、「組換えウイルス」)を有効成分とするもの。
組換えウイルスの接種により、被接種者の体内で目的抗原を発現することによって、免疫原性が発揮されるもの。
なお、本ガイダンスの適用範囲内には、ウイルスとして増殖に係る遺伝子を保持したもの(以下、「増殖型組換えウイルスワクチン」という。)と増殖に係る遺伝子が失われたもの(以下、「非増殖型組換えウイルスワクチン」という。)が存在する。 一方、本ガイダンスは、ホルマリン等の化学的手法により不活化した組換えウイルスを有効成分とする製品には適用されない。また、遺伝子組換え技術を用いて製造されたものであっても、組換えウイルスが自然界に存在するウイルスと同等の遺伝子構成とみなせるもの(ナチュラルオカレンス)、及び遺伝子発現構成体、mRNA 等を有効成分とする核酸由来のワクチンには適用されないが、考え方の一部が適用可能な場合があるため、必要に応じて当局へ相談すること。
4. 開発の考え方
現時点では組換えウイルスワクチンの本邦における承認事例はなく、その安全性や有効性の評価方法について従来の指針や通知を適用することができない部分も多い。また、感染症予防ワクチンは通常、予防目的で不特定多数の健康な人に接種するものであることを踏まえ、組換えウイルスワクチンの有する従来のワクチンにない潜在的なリスクについても十分に安全性を評価しつつ適切な開発を行う必要がある。
組換えウイルスワクチンによる予防の対象となる感染症は、公衆衛生上ワクチンで予防する必要性があり、従来の不活化ワクチンや生ワクチンではなく組換えウイルスワクチンとしての開発の必要性及び理由を説明できるもの等が想定される。
5. 品質評価及び特性解析に関して留意すべき点
組換えウイルスワクチンの品質評価について、以下の検討を実施すべきである。これらの情報は非臨床試験・臨床試験のデザインの設計、及び組換えウイルスワクチンの潜在的なリスク評価において重要な位置を占めるため、開発の進展に応じて実施が求められる。
(1) 組換えウイルスの由来となるウイルスについて
組換えウイルスの由来となった組換え前のウイルスの特性は、組換えウイルスの特性を評価するために重要な情報である。通常、組換えウイルスは、組換え前のウイルスの特定の特性等を変化させることにより構築される。組換えウイルスの特性(細胞・組織指向性や感染性等)の変化を評価するため、組換え前のウイルスの特性に関する情報を十分に収集すべきである。
なお、組換えウイルスワクチンは通常、健康な人の感染症予防目的に用いることから、被接種者の染色体への組込みを前提としたウイルスを組換え前のウイルスとして使用することは原則、認められない。
(2) 組換えウイルスの特性解析について
組換えウイルスに関してその構築法を説明するとともに、次のような特性解析を実施すべきである。対象とする組換えウイルスの特性によっては追加の試験が求められる可能性がある。
遺伝子配列の解析(増殖性、目的遺伝子及びその発現等に関わる遺伝子、並び
に当該遺伝子のフランキング領域)
種特異性、細胞・組織指向性、増殖特性及び細胞傷害性の確認、並びに当該特
性に係る組換え前ウイルスとの比較評価
感染細胞における抗原発現量、発現効率及び持続性の確認
野生型のウイルスとの組換え・再集合のリスクの検討
染色体への組込みリスクの評価
組換えウイルス特有の工程由来不純物(プラスミドやヘルパーウイルス等の残
存)の評価
(3) 製造工程における評価について
製剤におけるウイルス粒子あたりの感染価は、組換えウイルスの恒常的な生産を評価するのに有用であり、評価すべきである。また、組換えウイルスについて、製造工程での遺伝的安定性(突然変異、病原性復帰、増殖能の変化)を評価する必要がある。製剤に含有される組換えウイルスの遺伝的多様性は、製造方法の恒常性を担保する指標としても評価することが望ましい。
6. 非臨床評価に関して留意すべき点
組換えウイルスワクチンの非臨床評価は、基本的に「感染症予防ワクチンの非臨床ガイドライン」が適用できる部分についてはそれに従うことが求められるが、以下に示す点においては組換えウイルスワクチンの特有の評価として実施する必要がある。
(1) 動物種/モデルの選択
組換えウイルスの由来となった組換え前のウイルスがヒト以外の動物に感染を成立させない場合であっても、組換えウイルスが接種された動物の細胞で抗原を発現することはありえるため、このような場合も考慮して非臨床試験に適切な動物種を選択すべきである。
なお、組換えウイルスを用いた試験を実施するためには、BSL2 の試験設備が必要となる可能性があり、GLP 適用下での実施が困難な場合もあるが、その場合でもできる限り GLPの基準に準じた試験を実施することが望ましい。
(2) 生体内分布試験について
組換えウイルスの特性を十分に理解し、その安全性及び有効性を評価するための基礎データとして、原則として、第Ⅰ相試験開始前に生体内分布試験を実施すべきである。生体内分布の解析から、目的とする生体組織への分布だけでなく、目的としない生体組織及び生殖細胞への分布を明らかにすることにより、ヒトでの安全性や意図しない組込みリスクを評価する際に着目すべき器官を明らかにすることが可能になり、毒性試験で組織特異的に検出された異常所見の毒性学的意義を考察する際に有用な場合がある。このため、生体内分布試験により懸念が生じた場合は、追加の非臨床試験の実施を検討すべきである。また、組換えウイルスの分布や消失を含めた持続性を明らかにすることにより、ヒトでの臨床試験における適切な評価期間を検討するための情報が得られるため、得られた情報を臨床試験のデザインに反映させること。
(3) 生殖細胞への組込みリスクの評価について
生体内分布試験において、組換えウイルスが生殖組織に分布する場合は、「ICH 見解「生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的な考え方」について」(平成 27 年 6 月 23 日付事務連絡)を参考として評価すること。
(4) 組換えウイルスの排出の評価について
原則として、組換えウイルスの排出については評価すべきである。組換えウイルスの排出は他の毒性試験の中で評価することが可能である。評価方法については、「ICH 見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について」(平成 27 年 6 月 23 日付事務連絡)を参考とすること。
(5) 遺伝毒性試験及びがん原性試験について
通常、ワクチンでは遺伝毒性試験及びがん原性試験を必要としないが、組換え前のウイルス又は組換えウイルスの特性において懸念がある場合は、遺伝毒性又はがん原性について評価を行い、必要に応じて実施可能かつ適切な方法で試験を行うことを検討すべきである。
(6) 免疫原性の評価について
免疫原性については、目的としている抗原に対しての特異的な免疫応答だけではなく、組換えウイルスに含まれる他のウイルスタンパク質や組換えウイルスそのものに対して体内で惹起する免疫反応も含めて評価する必要がある。
組換えウイルスワクチンの作製において、既承認の生ワクチンを組換え前のウイルスとして用いる場合は、既承認の生ワクチン接種後に被験薬を接種する、又は被験薬を接種後に既承認の生ワクチンを接種する等の非臨床試験を実施し、それぞれのワクチンの免疫原性への干渉を評価すべきである。
(7) 免疫不全動物への接種試験について
増殖型組換えウイルスワクチンの場合には、健康な人では病態を引き起こさない場合であっても、新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等では重篤な症状を引き起こす可能性がある。このような可能性を評価するために、免疫不全動物への接種試験を検討すべきである。
7. 臨床評価に関して留意すべき点
(1) 排出及び第三者への伝播に係る評価の考え方
組換えウイルスワクチンはヒト体内で目的遺伝子が発現し、抗原提示を行う能力を保持しており、被接種者から排出された組換えウイルスが新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等へ伝播した場合には重篤な毒性が発現する可能性がある。非増殖型組換えウイルスワクチンの場合であっても、ヒトの体内において増殖しないことを確認し、新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等への伝播の可能性が低いことを評価しておく必要がある。一方、増殖型組換えウイルスワクチンの場合には新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等への伝播リスクが高いことが想定される。このために、ウイルス排出については、慎重に評価すべきである。
通常は、第Ⅰ相試験から、少なくとも接種部位、血中、及びウイルスの排出が想定される体液等に含まれる組換えウイルスの量を、評価可能な検体を用いて経時的に測定し、ヒトの体内での持続性・排出期間を正確に把握する必要がある。ヒトの体内での持続性・排出期間の情報は、これ以降の臨床試験における、被接種者からの第三者への伝播の防止策を設定する上で根拠の情報となる。
被接種者からの第三者への伝播の防止策を行わない場合は、その妥当性を説明する必要がある。また、被接種者から濃厚接触者への伝播に係る情報も収集すべきである。組換えウイルスが排出されず、また血中から速やかに排除される場合は、濃厚接触者に何らかの感染兆候がないかを調査することで十分な場合がある。一方で、増殖型組換えウイルスワクチンが排出され続ける場合には、濃厚接触者への感染を否定するための継続的な検査が求められる可能性があることに留意すること。
(2) 避妊期間の考え方
臨床試験における男性の避妊期間は、生体内分布試験及び組換えウイルスの排出の評価を踏まえて、適切な期間を設定すべきである。一方で、妊娠可能な女性の避妊期間は、非臨床試験における評価に加え、ヒトにおける組換えウイルスの血中での持続性、ウイルスの排出が想定される体液等への排出期間も踏まえて、設定が必要である。
(3) 安全性評価の考え方
組換えウイルスワクチンの安全性に関しては、次のようなリスク要因を中心に評価する必要がある。これらのリスク要因については早期の臨床試験において慎重な検討を行う必要がある。
非増殖型組換えウイルスワクチンの場合、組換えウイルスが被接種者の体内で
想定外に増殖する可能性。
被接種者における、偶発的な他の病原性ウイルス等との組換えリスクと組換え
バリアントによる有害事象の可能性。
生体内分布試験で特定の組織・臓器に分布する場合、特定の組織・臓器における有害事象と分布の関連性。
(4) 免疫原性評価の考え方
組換えウイルスワクチンにより惹起される液性免疫応答又は細胞性免疫応答は、臨床開発の早期段階で、可能な限り検討しておくべきである。検討範囲は、非臨床試験の結果と組換え前のウイルスにおける既知の情報が参考となる。
既承認の生ワクチンのウイルスを組換え前のウイルスとして用いる場合には、6、(6)で示したそれぞれのワクチンの免疫原性への干渉について、既承認の生ワクチンの臨床での接種スケジュール等を踏まえて、臨床試験の中でも評価すべきである。
(5) 有効性評価の考え方
組換えウイルスワクチンにおいては、被接種者のみならず第三者にも有害事象を引き起こすリスクが否定できないことから、リスクベネフィットの観点から、発症予防又は感染予防効果を有効性のエンドポイントとした臨床試験によって十分な有効性が示される必要がある。
8. 製造販売後の検討事項について
医薬品リスク管理計画において、7. (1)で示した第三者への伝播及び 7. (3)で示した安全性評価については、引き続き情報を収集する必要がある。
9. その他の留意点
組換えウイルスワクチンと不活化ワクチンを初回免疫と追加免疫でそれぞれ接種するような接種スケジュールを想定している場合は、当局に開発方針について相談すること。
以上
《厚生労働行政推進調査事業の資料より》
— ふくちゃん (@fukufukugoma) January 23, 2022
「異種抗原を発現する組換え生ワクチンの開発における品質/安全性評価のありかたに関する研究」https://t.co/bgc0gY1RkC
「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」についてhttps://t.co/FJglSYFBvD
(平成27年6月23日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)薬務主幹課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課、厚生労働省医薬食品局医療機器・再生医療等製品担当参事官室通知)
日米EU医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、品質、安全性及び有効性の各分野で、ハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われているところです。
近年の遺伝子治療に関する研究開発の発展等を踏まえ、ICHの遺伝子治療専門家会議(GTDG)においてICH見解としてとりまとめられた「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について、別添のとおり事務連絡しますので、今後の業務の参考とするよう、貴管下関係業者に対し御周知願います。
[別添]
ICH Considerations
ICH 見解
General Principles to Address Virus and Vector Shedding
ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方
June 2009
1.0 序
本ICH見解文書において、排出(shedding)とはウイルス/ベクターが患者の分泌物や排泄物を介して拡散することと定義する。ウイルス/ベクターの排出を、生体内分布(例えば、患者の投与部位から全身への広がり)と混同してはならない1。ウイルス/ベクター2には遺伝子治療用ベクター3や腫瘍溶解性ウイルスが含まれる。
排出の評価は、第三者への伝播(transmission)のリスクと環境へのリスクを把握するために利用することができる。ただし、環境問題に関わる排出は各地域で規制が異なるため、本文書の対象としない。
本文書では、非臨床及び臨床での排出試験*1の実施が適切とされる場合に、推奨されるデザインを提示することに焦点をあてている*2。特に、検出に用いる分析法と、非臨床及び臨床試験におけるサンプル採取及びサンプリング・スケジュールに関する事項に重点を置いている。非臨床データの解釈と臨床試験計画の立案への活用、さらにはウイルス/ベクター伝播試験の必要性の評価における臨床データの解釈も本文書の範囲である。
2.0 ウイルス/ベクターの生物学的特性
対象となるウイルス/ベクターが由来する野生型株の既知の特性に関する情報は、排出試験計画を立案するための基本的要件である。
増殖能は考慮すべき重要な特性である。増殖性ウイルス/ベクターは患者体内に長期間存続するおそれがあり、量も増える可能性がある。従って、排出の可能性は増殖性ウイルス/ベクターでより高く、伝播の可能性もより大きいことになる。増殖性ウイルス/ベクターでは、分子変異体の分析も重要であり、分子変異体が出現した場合はウイルス/ベクターの排出に影響を与える可能性がある4。
実際には、現在開発中のウイルス/ベクター製品のほとんどは非増殖性あるいは制限増殖性である。このような場合、由来する野生型の感染によって起こる排出と比較して、ウイルス/ベクターの排出ははるかに短期間となり、また投与経路によっては、野生型とは異なる排出プロファイルを示すことがあり得る。一方、野生型株の既知の伝播経路に関する情報は、排出試験のデータの解釈と伝播の可能性の推定に役立つであろう。非増殖性のウイルス/ベクター製品の製造工程で生じる可能性のある増殖性組換え体の解析を行うことが、製品の品質の観点からも、また排出の考察を行うに当たっても重要である。
排出試験を計画する上で考慮すべき増殖性ウイルス/ベクターのその他の特性として、予測される感染期間が短期間なのか長期間なのかということがある。ウイルス/ベクターが野生型株とは異なる細胞/組織指向性を示すように遺伝子組換えがなされているか、患者の免疫状態がウイルス/ベクターの排出に影響を与えるかどうかなどを考慮する必要がある。例えば、ウイルス/ベクターに対する免疫応答がより強い場合には、ウイルス/ベクターのクリアランスがより迅速になり、その結果、ウイルス/ベクターの排出の期間と程度を低下させる場合がある。
――――――――――
1生体内分布試験の結果は、手術や外傷などで血液を介した排出を評価する場合に利用することができる。
2本文書には記載されていないが、基本的な考え方はがん治療に用いられる増殖性細菌にも適用できる。
3ウイルス/ベクターが顕在化するリスクがある場合を除き、遺伝子組換えを行った動物細胞は除外する。
4腫瘍溶解性ウイルスに関するICH見解
3.0 分析法に関する考慮事項
排出試験の実施には、適格な分析法を用いることが非常に重要である。分析法は、特異性、十分な感度、再現性を示すものである必要がある。伝播の可能性を定量的に推定できるように、定量的な分析法を用いることが望ましい。生体試料マトリクスによる測定妨害の評価が重要であり、過度の妨害を避けるためには分析前にサンプルを希釈することが適切であろう。
排出されたウイルス/ベクターの検出には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と感染性試験の2つの方法が通常用いられる。ウイルス/ベクターの遺伝子配列の検出には定量的PCR(qPCR)に基づく分析法の使用が推奨される。qPCR法の利点は、高感度、再現性、迅速性である。qPCRに基づく分析法の主な欠点は、感染性のあるインタクト(intact)なウイルス/ベクターと非感染性又は分解したウイルス/ベクターとを区別できないことである。感染性試験には、排出物と増殖許容性細胞株をin vitroで培養した後、高感度なエンドポイント検出(細胞内で増幅したウイルス/ベクターの高感度検出)により測定することが含まれる。
感染性試験は、インタクトで感染性のあるウイルス/ベクターのみを検出するという利点がある。非増殖性ウイルス/ベクターの場合、感染性試験にはin vitro培養系での形質導入と導入遺伝子の検出が含まれる。感染性試験の主な欠点は、PCRに基づく分析法と比べて本質的に感度が低いことである。サンプル分析の第一選択としては、ウイルス/ベクター製品に特異的な核酸断片の定量的検出に基づく方法が適切であろう。イムノアッセイやサザンブロットなどの他の分析法も用いられるが、PCR法と同様、主な欠点はインタクトなウイルス/ベクターと非感染性又は分解したウイルス/ベクターとの区別ができないことである。どのような分析法を選択するにしても、その妥当性を示す必要がある。
しかしながら、「排出物」による伝播の可能性を正確に評価するには感染性試験を用いることが重要と考えられる。感染性試験によって、「排出物」の性質(例えばインタクトなウイルス/ベクターなのかウイルス/ベクターの断片なのか)の正確な評価が可能だからである。感染性試験は排出された増殖性ウイルス/ベクターを検出する基本的な試験として通例用いられる。ウイルス/ベクターが非増殖性の場合に、「排出物」が非増殖性のウイルス/ベクターなのか、増殖性を持つ組換え体なのかを確定することにおいても感染性試験は有益であろう。これはウイルス増殖を相補する遺伝子を持つ細胞株と持たない細胞株を用いることで実施できる。例えばアデノウイルスベクターの場合、「排出物」の特性解析にはアデノウイルスベクターの増殖を相補するE1a領域を持たないA549細胞と、同領域を持つHEK293細胞を用いることができる。HEK293細胞の培養では陽性、A549細胞の培養では陰性の場合、「排出物」は欠損型のウイルス/ベクターであり、増殖性の組換え体ではないと考えられる。陽性の場合、検出物の同定には分子レベルの解析が適切であろう。
qPCRで検出された「排出物」の量が感染性試験の検出限界以下の場合、試験感度の制約から、感染性試験による「排出物」の更なる分析を実施しない、という選択も可能である。
4.0 非臨床での考慮事項
非臨床の排出試験データは臨床での排出試験を計画するのに役立つ。非臨床の排出試験の目的は、ウイルス/ベクターの分泌/排泄(による排出)のプロファイルを決定することである。これらの非臨床試験から得られる情報はヒトでの排出の起こりやすさとその程度の推定に用いることができる。非臨床の排出試験は他の非臨床試験計画に組み込むことができる(独立した試験でなくてもよい)。非臨床の排出試験の実施に先立ち、類似した性質を示すウイルス/ベクター製品(同じウイルス株又は同じウイルス/ベクターでマーカー遺伝子を発現するものなど)を用いて実施した試験の結果を参考とすることができる。
非臨床の排出試験の計画と解釈に当たっては以下の点を考慮すべきである:
4.1 動物種
ウイルス/ベクター製品を非臨床試験で調べる際の問題点の一つは、動物種の妥当性である。臨床評価が行われているウイルス/ベクター製品の多くは、ヒト以外の動物種では容易に感染せず、ほとんど増殖しない親株に由来する。非臨床動物試験で得られたデータを解釈する上で、動物におけるウイルス増殖許容性の重要性は明らかである。例えば、ウイルス受容体の発現と組織分布に違いがある動物種では、ウイルス/ベクターの排出プロファイルが異なることがある。従って、細胞や組織での局在が異なる可能性があるため、動物からの排出プロファイルがヒトの場合とは直接相関しないこともありうる。排出の最良の評価には、疾患の状態を模倣した動物モデルの使用が役立つ可能性がある。例えば、腫瘍溶解性ウイルス製品を増殖させるためには、担がんモデルの使用が適切であろう。ウイルス/ベクターのクリアランス速度とひいては排出に影響する可能性があるため、ウイルス/ベクターに対する免疫の影響も考慮に入れるべきである。サンプリングに関する4.3項及び4.4項も参照のこと。
4.2 投与量と投与経路
非臨床での排出試験における投与量と投与経路は、可能な限り臨床で予定されている投与量、投与経路を反映すべきである。非臨床試験計画は、選択した臨床の投与経路と投与量を考慮して、最大の暴露となるように設定するべきである。例えば、非臨床試験でのウイルス/ベクターの排出の評価においては、予定される臨床投与量の範囲をカバーするような投与量設定を考慮すること。
4.3 サンプリングの頻度と試験期間
野生型株の既知の生物学的特性は、ウイルス/ベクターを投与した後のサンプリング頻度の決定に利用することができる。一般的に、投与後の最初の数日間は、一過性の排出プロファイルを検出するためにより高い頻度でサンプルを採取することが適切であろう。サンプルの数と頻度は排泄物や分泌物の種類に応じて、現実性を配慮し決定するべきである。
試験期間の決定には考慮すべきいくつかの要素がある。これには親ウイルスの感染の自然経過、既存の免疫及び目的とするウイルス/ベクターの増殖能などが含まれる。
野生型株の自然感染の経過は、排出期間の予想の目安となる。目的とするウイルス/ベクターの増殖性は特に重要である。すなわち増殖性を持つ場合、ウイルス/ベクターの複製を示唆するウイルス/ベクターの第二ピークの検出に十分な試験期間をとることが必要である。もしもウイルス/ベクターが特定の組織、すなわち腎臓、肺、血中などに長期間存続する場合、排出試験を行う期間も同様のタイムコースに設定することが推奨される。しかし、複数回連続して陰性が観察された場合は、試験期間を短縮することも適切であると考えられる。潜伏感染や再活性化が懸念されるウイルス/ベクター製品の場合、あらかじめ設定した期間に陰性の試験結果が得られても、後の時点でのウイルス/ベクター排出を正確に捉えられない可能性があることに注意しなければならない。再活性化は、必ずしも非臨床試験でモデル化できるとは限らないとされている。また、免疫応答によりウイルス/ベクターが循環系から除去され、排出の期間が短縮されることも予想される。
4.4 サンプルの採取
ウイルス/ベクターの特性、投与経路、及び動物種を考慮して、採取するサンプルを決定すべきであろう。最も一般的に採取されるサンプルの例は尿と糞便であるが、他に口腔スワブ(ぬぐい液)、鼻腔スワブ、唾液、気管支洗浄液などのサンプルも含めることができる。
定量的で適格性が確認された分析試験を実施するためには、採取すべきサンプルの種類と量について考慮することが重要である。分泌物や排泄物の種類によっては、例えば尿のように、十分な量のサンプルを採取することが困難なことがある。このような場合、同一量を同時に投与された複数の動物から得られるサンプルをプールすることは、十分なサンプル量を得るための選択肢の一つとなるであろう。
4.5 非臨床データの解釈と伝播試験
留意すべき重要な点は、非臨床の排出試験で得られたデータは臨床での排出試験の計画、特にサンプルの種類やサンプリングの頻度、試験期間の設定に有用であることである。
もしも非臨床試験で排出が検出され、それが伝播の可能性を示唆するものであった場合、臨床試験でのヒトからヒトへの伝播の可能性を予測する上で、同居感染試験の実施が有用なこともある。5.3も参照のこと。
非臨床の排出試験は、臨床での排出試験を代替するものと考えるべきではない。たとえ非臨床試験で排出が認められなくても、臨床開発期間におけるウイルス/ベクターの排出の評価を除外してよいことにはならない。
5.0 臨床での考慮事項
非臨床試験に関する上述の考慮事項は、臨床におけるウイルス/ベクターの排出試験の計画にも当てはまる(すなわち投与経路、観察された排出の期間、採取すべきサンプルの種類と頻度)。臨床での排出試験を計画する際に考慮すべき主な要素は、親ウイルス/ベクターの既知の生物学的特性、製品の増殖能、投与量、投与経路及び患者集団である。
ウイルス/ベクターの排出試験を実施する厳密な時期については、ウイルス/ベクター製品の性質や患者集団に依存するものであり、規制当局と相談すべきである。排出に関する十分なデータが初期の臨床試験において得られた場合、検証的な臨床試験での排出試験を省略することが妥当とされる場合がある。検証的臨床試験における追加の排出試験を実施する必要性を決める要素としては、収集したデータの質と患者で見られる排出パターンの一貫性が挙げられる。排出の評価は製造販売承認後においても継続することが適切な場合もある。
5.1 サンプリングの頻度と期間
非臨床試験及び関連する臨床試験で得られたデータは、サンプリングの期間と頻度の決定に役立つ。非臨床の項で述べたように、サンプリングは、投与後の最初の数日間ではより高頻度に行い、投与後の時間の経過につれて低頻度にすることができる。また、目的とするウイルス/ベクターの増殖能にも依存する。増殖性のウイルス/ベクターの場合、投与後に起こりえるウイルス/ベクター排出の第二ピークの検出を考慮に入れて、サンプリング期間を設定するべきである。患者集団の免疫状態はウイルス/ベクターのクリアランスに影響を与えるおそれがあり、排出試験において考慮すべき要因となる可能性がある。免疫抑制剤による治療がウイルス/ベクターの排出に影響を与える可能性にも注意すべきである。
その他の留意事項として、排出されたウイルス/ベクターのサンプリングと分析の終了時期の問題がある。サンプリングと分析は複数の連続したサンプルが陰性となるまで継続すべきである。潜伏感染を示す野生型に由来するウイルス/ベクターの場合、再活性化の確認に必要な期間にわたり、排出されたウイルス/ベクターのサンプリングを行うことは難しい。このような場合、各規制当局に相談すべきである。
5.2 サンプルの採取
採取するサンプルの決定には、非臨床試験で得られたデータの活用に加えて、ウイルス/ベクターの特性と臨床試験で用いられる投与経路について考慮すべきである。頭頸部がんの腫瘍内投与の例では、尿、糞便、唾液などの通常のサンプルに加えて、鼻咽頭の洗浄液又はスワブの採取が考えられるであろう。また、ウイルス/ベクターを皮内又は皮下投与する場合、注射部位を拭き取ってサンプルとしてもよい。
5.3 臨床での排出試験データの解釈
臨床の排出試験データの評価及び排出されたウイルス/ベクターの伝播リスクの評価に際しては、考慮すべき多くの要素がある。考慮すべき重要な要素の一つは、「排出物」の同定及び特性解析である。特に、インタクトなウイルス/ベクターと分解したあるいは非感染性のウイルス/ベクターとを区別しない分析法が用いられた場合、得られたデータは伝播のリスクに関しては参考にならないであろう。従って、qPCRなどの分析法は感染性試験と組み合わせて用いられることがある。qPCRで検出された排出物の量が感染性試験の検出限界以下の場合、試験の感度の制約から、感染性試験による排出物の更なる分析を実施しない、という選択も可能であろう。インタクトなウイルス/ベクターと非感染性あるいは分解したウイルス/ベクターを区別しないアッセイ法のみに頼る場合、「排出物」は感染性があると見なすべきである。
ウイルス/ベクターがどのように排出されるかを明らかにすることは、伝播のリスクを評価する上で重要な要素である。従って、野生型株の自然感染の経路を考慮すべきである。例えば、一部のウイルスはエアロゾルを介して飛散するが、もしウイルス/ベクターが唾液から排出されたり鼻咽頭スワブで検出された場合には、他の経路(尿等)からの排出と比較して、伝播の可能性はより高いと考えられる。
また、排出される量と期間も考慮すべきである。増殖性ウイルス/ベクターは患者体内に長期間存続し、量も増える可能性があり、結果的に伝播の可能性も高まる。
非病原性株に由来するウイルス/ベクターは病原性株に由来するものよりも排出時の懸念は低いかもしれないが、これはウイルス/ベクターの他の生物学的特性、すなわち増殖性や弱毒化の程度に依存する。遺伝子組換えにより、ウイルス/ベクターに導入遺伝子が組み込まれている場合、発現される導入遺伝子産物の安全性プロファイルを考慮すべきである。さらに、導入遺伝子がウイルス/ベクターの表現型の特徴に及ぼす影響も考慮すべきである。最終的には安全性情報は臨床試験から得る必要がある。
6.0 第三者への伝播
場合によって、排出が観察されるときは、第三者への伝播の可能性を調査すべきである。このような調査には、ウイルス/ベクターの被投与者と濃厚に接触した人々(家族や医療従事者など)への伝播の有無を評価することが含まれる。このような第三者(濃厚接触者)の免疫状態も考慮するべきである。大部分の人々がそのウイルス/ベクターに対する免疫を既に獲得している場合、大部分の人々では既存の免疫によりウイルスは効果的にクリアランスされるはずである。しかし、接触した第三者の免疫状態が低下している可能性がある場合(例えば、高齢者や乳幼児では)、クリアランス機構が有効に働かない可能性がある。従って、このような人々では感染の結果はより重大になる可能性がある。
患者及びその家族に対して、第三者への暴露を最小限にするための方法を指導することが適切であろう。これには、特定の衛生管理の方法に関する助言も含まれる。
訳注
1:ここで述べている試験とは、新たに試験設定を求めているわけでは無く、他の試験の中に組み込んで実施することで対応可能な試験と考えて良い。
2:本見解は、適切と認められるときに適宜参照されることを期待しており、規制的要件を述べたものではない。