■ 成田悠輔氏の「高齢者の『集団自決』」発言とひろゆき氏の嘲笑から浮かび上がる差別と排除の思想 「AERA dot.(2023/8/15(火) 07:00)」より
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「2チャンネル」創設者として知られる「ひろゆき」こと西村博之氏のネット上での発言で、辺野古の米軍新基地建設に反対する「座り込み」はSNSの「ネタ化」された。ジャーナリストの安田浩一氏は、ひろゆき氏や沖縄で心を傷める人々への心無い数々の発言に怒りを覚える。安田氏の新著『なぜ市民は"座り込む"のか――基地の島・沖縄の実像、戦争の記憶』(朝日新聞出版)から一部を抜粋、再編集し紹介する。

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■あまりに軽薄な「集団自決」発言
「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」

 発言の主は、米イェール大学の経済学者・成田悠輔氏だ。

 個性的なメガネをトレードマークにバラエティ番組にも引っ張りだこ。マスコミがもてはやすスター学者である。そんな成田氏がネット番組や講演で、高齢社会への対応策として高齢者の「集団自決」「集団切腹」を繰り返し主張した。
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 一部で「エイジズム」「優生思想」との批判も上がったが、日本の大手メディアで、これら発言を正面から批判したものはほとんどなかった。噛みついたのは海外メディアだ。

 たとえば、成田発言を「これ以上ないほど過激」とネガティブに報じたのは米紙「ニューヨーク・タイムズ」(2023年2月12日配信)だった。同紙記事は成田氏の顔写真を掲載したうえで、「集団自決」発言を取り上げた。記事が引用したのは、21年12月17日に成田氏がネット番組「ABEMA Prime」に出演した際の発言である。

「僕はもう唯一の解決策は、はっきりしていると思っていて、結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないかなと。やっぱり人間って引き際が重要だと思うんですよ。別に物理的な切腹だけじゃなくてもよくて、社会的な切腹でもよくて。過去の功績を使って居座り続ける人が、いろいろなレイヤー(層)で多すぎるっていうのがこの国の問題」

 同紙はこれを「彼の極端な主張は、高齢化による経済の停滞に不満を持つ何十万もの若者のフォロワーを獲得している」と評した。

 私も同番組の配信に目を通した。呆れた。いや、愕然とした。そして憤りで目の前が真っ暗になった。

 ここでも「集団自決」が、笑いを伴って語られていたからだ。スタジオの誰ひとりとして、発言を批判したものはいない。さらに言えば、この発言に笑いながら強く頷いていたのが、ひろゆき氏である。

 のちに成田氏は、自分の発言は世代交代を表すメタファーだったと弁明しているが、それを〈比喩で言った話が本気で言ったかのように伝言ゲームが始まってる状況〉とネット上で擁護したのも、ひろゆき氏である。

 彼らがどこまで本気なのかはわからない。少子高齢社会における福祉の限界を示唆した物言いでもあるのだろう。だが、たとえメタファーであったとしても、軽々しく用いられてよい言葉では決してないはずだ。高齢者を不用な存在だと思わせるばかりか、「集団自決」の内実を誤った方向に導く。

「集団自決」発言から浮かび上がるのは、特定の属性を持った人々を切り捨てる差別と排除の思想そのものだ。実費負担できない透析患者を「殺せ」と書いた長谷川豊氏(元フジテレビアナウンサー)や、セクシュアルマイノリティを「生産性がない」と表現した杉田水脈氏と何ら変わらない。

 そもそも――笑いで語るべきことなのか。

「集団自決」は、少しも笑える話ではない。

 それは、自発的に死を望んで「発生」したものではないのだ。死は、強いられたものだった。だからこそ沖縄ではこれを「強制集団死」と表現する人も少なくない(地元の一部メディアもこの文言を用いている)。

 あまりに軽薄な「成田発言」を耳にした際、私が真っ先に思い浮かべたのは金城重明さんのことだった。

「実際は、自決なんかじゃない。虐殺です」

 教会の薄暗い礼拝堂だった。そこで、私にそう訴えたのが金城さんである。沖縄戦の「集団自決」を生き延び、戦後はキリスト者としての道を歩んだ。

 その金城さんが22年7月に93歳で亡くなった。金城さんが存命であれば、成田氏の発言をどう受け止めただろうか。いや、受け止めることなどできたであろうか。

 笑い声を耳にしながら、金城さんはきっと苦痛に歪んだ表情を浮かべたに違いない。

「集団自決」は強いられたものだった。そして、生き残った者にも苦痛を与え続けた。そのことを金城さんは訴え続けてきた。

●安田浩一(やすだ・こういち)
1964年静岡県生まれ。「週刊宝石」「サンデー毎日」記者を経て2001年からフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続ける。12年、『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』で第34回講談社ノンフィクション賞受賞。15年「ルポ 外国人『隷属』労働者」(「G2 Vol.17」[講談社]掲載)で第46回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。著書に『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日文庫)、『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』(角川新書)、『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社未来ライブラリー)など。








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最終更新:2024年03月12日 16:19