★ 「官邸が、官邸が…」と東電、自己弁護ばかり 「読売新聞(2012.6.21)」より
/


 東京電力が20日公表した福島第一原発事故に関する社内事故調査委員会の最終報告は、官邸の現場介入が混乱に拍車をかけたという見方を強調する一方、津波について「想定外」と繰り返した。

 専門家は「身内に甘い」と指摘し、福島の首長からは「あらゆる事態に備えるべきだ」といった憤りの声が上がった。

 東電本店(東京都千代田区)でこの日午後3時から始まった記者会見。調査委員長の山崎雅男副社長は、約100人の報道陣を前に「現時点において最大限の調査を行った」と語った。

 「実態からかけ離れた要求が官邸からなされ、無用の混乱を助長させた」。最終報告がこう強調したのが、菅直人前首相をはじめとする「官邸の介入」だ。

 事故発生翌日の昨年3月12日、菅氏は同原発の吉田昌郎まさお所長(当時)に電話した。菅氏と、途中で電話を引き継いだ知人は数十分間にわたり、米スリーマイル島原発事故(1979年)を参考にした原子炉の冷却方法を提案。だが報告書は「実態と乖離かいりした指導だった」と批判した。

 不十分だった住民への情報発信についても、爆発した1号機の写真を無断で公表したとして官邸から注意されて以降、許可なく発表できなくなったと官邸の責任に言及。3号機の格納容器圧力が上昇した3月14日には、官邸の了解が得られず公表が遅れたとした。

 「津波に対する備えが不十分だったことが根本的な原因」と事故原因を総括したが、2008年春に最大15・7メートルの津波を試算していたことについては「仮の試算に過ぎない」とし、設備対策を講じなかったことを正当化。「結果的に炉心損傷を防止することができず、大変申し訳ない」と陳謝しながらも、「史上まれに見る大きな津波だった」「まさに知見を超えた巨大津波だった」と繰り返した。

(2012年6月21日07時29分 読売新聞)

ーーーーーーーーーー
■ 社説:東電社内事故調 自己弁護でしかない 「毎日jp(2012.6.22)」より
/
 まるで、裁判の訴訟対策のようだ。福島第1原発事故は「想定した高さを上回る津波の発生」が原因だと結論づけ、責任逃れと自己弁護に終始している。東京電力の社内事故調査委員会がまとめた最終報告書を読むと、そう言わざるを得ない。

 報告書は本体だけでA4判352ページに及び、延べ600人に聞き取り調査したという。しかし、目的に掲げられた「原因を究明し、原発の安全性向上に寄与するため、必要な対策を提案する」姿勢がまったく感じられない。期待されていたのは、事実を積み重ね、事故の真相に迫り、責任の所在を明らかにすることだったはずだが、対応のまずさの指摘に対する釈明ばかりが並ぶ。そのような企業に、これからも原発の運用を託せるのか疑問だ。

 例えば、政府の事故調査・検証委員会は昨年12月の中間報告書で、1号機や3号機の冷却装置の操作の習熟不足などを問題点として指摘したが、報告書は「その後の対応に影響を与えたとは考えられない」などと反論する。だが、別の対応を取っていた場合に事態がどう変わっていたかの考察はない。津波の想定も「専門研究機関である国の組織が統一した見解を明示し、審査が行われることが望ましい」と他人任せにする。

 菅直人首相(当時)ら官邸の介入については「無用の混乱を助長させた」と断じた。第三者が指摘するなら分かるが、当事者が言うと、責任逃れにしか聞こえない。

 一方で、事故をめぐる多くの謎は残されたままだ。

 報告書は、福島県飯舘村など原発から北西方向へ広がった放射性物質の主要な排出源は2号機だと結論づけたが、2号機は水素爆発を起こしておらず、損傷箇所や放射能の流出経路ははっきりしない。原子炉の圧力や温度データから、地震による主要機器の損傷はないと評価しているが、高い放射線の影響などで建屋内の機器の現場確認もできていない。

 情報公開にも疑問がある。

 東電本店と第1原発は回線で結ばれ、事故時のテレビ会議は録画されていた。検証作業には欠かせない資料だが、「プライバシーの問題が生じる」ことなどを理由に公表を拒んでいる。新旧役員の事故責任を問う株主代表訴訟や、被害者による損害賠償訴訟が起きていることが、情報出し渋りの一因だとすれば問題だ。

 国際原子力機関の安全原則は1番目に、原発の安全の一義的な責任は事業者が負うと定めている。東電の責任は免れようがなく、徹底的な情報の開示は最低限の責務だ。

 近く最終報告をまとめる政府や国会の事故調には、国民が納得できる検証結果の公開を求めたい。

ーーーーーーーーーーー
★ 東電の原発事故調、過失や責任認めず 最終報告書:原因は「想定外の津波」 「日本経済新聞(2012.6.20)」より
/
 東京電力は20日、社内の福島原子力事故調査委員会(委員長=山崎雅男副社長)による最終報告書を公表した。想定外の津波と備えが不十分だったことが事故の根本的な原因だと結論づけた。政府や民間の事故調が指摘した初動時の人為ミスや想定不足について過失や責任を認めず、自己弁護が目立つ内容となっている。

 報告書はA4判で本文352ページ。社内事故調が勝俣恒久会長や清水正孝前社長ら経営幹部を含む役員と社員約600人に聞き取り調査し、有識者による検証委員会にも意見を聞いた。

 巨大津波や浸水の恐れについて、過去に国や専門家から指摘を受けていたことは認めたが、「最新知見を踏まえて対策を施す努力をしてきた」と説明した。記者会見した山崎副社長は「結果的に甘さがあった」と述べたものの、「できる限りのことは尽くしてきた」と想定不足の責任はないと強調した。

 政府事故調が操作ミスを指摘していた1号機の非常用復水器(IC)や3号機の高圧注水系(HPCI)については「厳しい環境の中で現場職員が懸命に事故の収束にあたった」(山崎副社長)と初動対応に過失はなかったと結論付けた。

 東電本店と福島第1原発を結んだテレビ会議の映像は「プライバシーの問題が生じる」として公表しなかった。

 事故直後に作業員の全面撤退を申し出たかどうかを巡り東電と官邸とで認識が真っ向から対立しているのは「言葉の行き違いによるものだ」と指摘。官邸の現場介入については「緊急事態対応の中で無用の混乱を助長させた」と批判した。

 原発の北西方向に放射性物質の高汚染地域ができた最大の要因は、1号機や3号機の水素爆発やベント(排気)ではなく、昨年3月15日に2号機から出たものだと分析した。格納容器の一部が損傷したとみられているが、原因については言及しなかった。格納容器の圧力が大幅に低下し、原子炉建屋から白い煙が出て、北北西方向の風が吹き雨が降ったことを理由に挙げるにとどめた。

 地震の揺れによって原子炉の主要な機器が損傷したかどうかについては確認されていないとした。

 東電事故の報告書では、国会事故調が6月末、政府事故調が7月下旬に最終版を公表する予定。東電や政府の責任などを追及する方針だ。



東電社内事故調の報告書の主な内容
  • 事故の根本原因は想定外の大きさの津波だった。津波想定には結果的に甘さがあった。津波の備えが不十分だった
  • 過去の災害や事故の知見を反映し、安全向上の取り組みを継続してきた
  • 作業に直接関係しない者の一時退避を検討したが、全面撤退ではなかった。(全面撤退と理解した官邸とは)言葉の行き違いで誤解があった
  • 主な放射性物質の放出は3月15日、2号機原子炉建屋から
  • 重要機器の地震による損傷は確認されていない









.
最終更新:2013年03月24日 18:31