(障害者採用を「障がい者採用」と表記するケースもあるが、本記事では漢字で統一して表記するので予めご了承いただきたい。)
【 検索回避タグが入っていると何が問題なのか? 】
現在は修正されているが、テレビ朝日の障害者採用ページには検索エンジンを回避する「noindex」タグが入っていた。
今回この件が炎上したのは、「テレビ朝日が本当は障害者を採用する気がないのでは」というある種の推測から「就職差別だ」という邪推に至ったのが原因だ。
詳細な仕様は割愛するが「noindex」タグが入っているページは基本的にGoogleに登録されず、登録されないということはGoogleなどで検索した時に見つけられないページとなる。
ただしGoogleにインデックスされた他のページからのリンクで辿り着くことは可能であり、アクセス自体ができなくなっていたわけではない。
障害者採用サイトはテレビ朝日の採用情報ページからリンクされていた。
折しも、省庁における障害者雇用の数値水増しが発覚し、テレビ朝日を含むマスコミ各社がそのことを批判しているタイミングだった。
ネット上では、テレビ朝日が意図的に障害者採用サイトを検索避けしたと考え、「障害者差別だ」と避難する声が出てきていた。
【 テレビ朝日の障害者採用サイトは昔製作された物 】
筆者はテレビ朝日とは何の利害関係もないが、
この件でテレビ朝日を叩いている方は採用業務の現場もウェブサイト製作の現場も知らないのだろうと感じている。
まず炎上していたテレビ朝日の障害者採用サイトは明らかに昔作られたものであり、掲載されている内容も古い。
実際テレビ朝日に確認したところ、10年ほど前に製作されたものだという。
そもそもなぜnoindexタグが入っていたかというと、昔は現在のように通年採用を行っておらず、1年の中で募集を行っている時期と行っていない時期があったためだという。
(※mono....中略)
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【 大企業は、障害者採用に積極的にならざるを得ない 】
これは意外に思われるかもしれないが、それなりの大企業であれば障害者採用の目標達成には熱心だ。
障害者雇用促進法43条第1項によると、従業員が一定数以上の規模の事業主は従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務がある。
2018年9月時点で民間企業の法定雇用率は2.2%であり、基準は年々高くなってきている。
計算すると、従業員を45.5人以上雇用している企業は障害者を1人以上雇用しなければないけない事になる。
従業員規模の小さい企業では守られていない事も多いが、未達成企業は障害者雇用納付金を収めなければならない。
逆に達成している企業には調整金、報奨金が支給されるというルールだ。
(※mono....中略)
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【 障害者=差別されるもの という先入観 】
もちろん障害者を採用する上では様々な配慮や準備が必要であるが、それでも障害者人材を求める企業は増えてきている。
今回のテレビ朝日を叩いたネットユーザーはこの点が理解できておらず、「障害者は採用市場で差別されるものだ」という思い込みが先行してしまっていたのではないだろうか。
企業の採用需要を理解していないからこその邪推である。
そのような先入観が発生する状態こそ不健全であり、これを機にもっと障害者雇用についての現状や課題について理解していく必要があるのではないだろうか。
障がい者雇用水増しは「単なる“悪”とは言えない」
厚生労働省は、省庁の8割にあたる27の行政機関で3460人が不適切に障がい者数に算入されていたと発表している。衆院事務局では、40年以上も水増し雇用が続けられていたケースもあるという。
これがもし民間企業なら、1人あたり月5万円の「障害者雇用納付金」を支払わなければならない。すべての不正が40年間にわたって行われたとして、遡って支払うとなると、雇用納付金の額は、
3,460人×50,000円/人月×12ヶ月×40年=830億4千万円
となるわけだ。さすがにこの金額は大きな誇張を含んでいるとしても、ルールを定めた国が、これだけのルール違反をしていたというわけだ。誰が考えても矛盾しているだろう。近代国家として決して許されることではない。しかし、筆者は、今回の障がい者雇用水増しは「単なる“悪”とは言えない」と考えている。
求職する側に問題はなかったか?
その理由はいくつかある。まず1つ目。結果的に水増しに至ったということは、規定の法定雇用率に達しなかったということだ。すなわち、求人に対する障がい者の求職割合がアンバランスだったことが背景にあるのではないか。求職する側に問題はなかったのか?
なぜ、アンバランスだったのかは正確な理由はわからないし、設備的な問題や能力的な問題もあると思う。しかし、筆者は、社会が思っているほど「障がい者の多くが働きたいと思っていない」のが根本的なところにあるのではないかと考えている。
実際、筆者の周りでは、障がいを抱えながらでも懸命に働くことにこだわりを持って生きている方も多いが、その反面、障がい手当や生活保護で生きていければ無理して働く必要はないと唱える方もいる。むしろ、そういった方のほうが多い気もしている。
もちろん、社会的な弱者を社会が扶養するという後者の考え方は間違ってはいないし、その選択肢を選ぶ権利もあると思うが、筆者は、健常者か障がい者かを問わず「働からずして楽して生きたい」という考え方にだけは賛同できない。
「雇用」という形態にこだわりすぎていないか
次に2つ目の理由。これまで国は行政や民間企業に「障がい者雇用」というものを“強制”してきたわけだが、そもそも、国は働き方のモデルとして「雇用」という形に固執しすぎているのではないか? そんな印象を受けるのだ。以前の連載記事でも筆者が記したように、障がい者雇用は強制されて行うものではない。
筆者が営む仙拓という会社は、ITやデザインという業種柄、主にパソコンやスマホがあれば場所を問わずに在宅やノマドワークが可能である。しかし、このモデルをほかの全業種に当てはめられるかと言えば、決してそうではないだろう。
例えば、車椅子の方を雇用したいと考えたとしよう。すると、「業種柄、在宅勤務が厳しい! 職場にエレベーターがない!」となった場合、一般的な中小企業が約1000万円を使ってエレベーターを設置できるだろうか。正直、理想論や特別な事情を考慮しない場合、ほとんどの経営者は設置を躊躇するはずである。
だが、「雇用」という形態でなく、「外注」という形態ならどうだろうか。例えば、工業系の企業でも清掃業務はあるし、総務や経理といった事務作業など、部分的な仕事の切り分けは可能なはずである。
そのためには国としても、「雇用=評価の対象」という制度を見直さなければならない。そうしなければ、特例子会社のようなエクスクルーシブな場所だけが増えていくことにもなるだろう。
そして、民間企業や行政が「障がい者がどれだけ仕事ができるか」という考え方から「その人がどれだけ仕事ができるか」という、フラットな考え方にマインドをチェンジする必要がある。
だが今回の一件、時代が変わる転換期だと筆者は考えているし、平成最後のこの年に、むしろ、チャンスが到来したと思うのだ。筆者は障がい者も企業も、そして、行政も政府もすべてが雇用人数や雇用率といった表面上の理屈を唱えるのではなく、まずは、お互い同じ目線で向き合うことが大事だと考えている。真の共生社会を構築していくには、お互いが偏見をもって接したり、批判したりしている場合ではないのだ。
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障害者雇用 中央省庁3000人水増しか 「読売オンライン(2018年8月26日)」より
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障害者の雇用割合(法定雇用率)の水増し問題で、中央省庁が昨年、国の指針に反して障害者手帳などを確認せずに雇用数に計上していたのは約3000人に上ることが関係者の話でわかった。各省庁は昨年6月現在で約6900人を雇用していたと発表しており、半数近くが水増しされていた可能性がある。厚生労働省は28日、こうした内容を含む調査結果を公表する。
障害者雇用促進法は、国の機関の法定雇用率を今年3月まで2.3%、4月からは2.5%に設定。国の指針は、雇用数に算入できるのは障害者手帳などの所持者か、医師による判定書などがある人と定める。
しかし、読売新聞の取材では、財務、文部科学、農林水産、総務、国土交通、厚労、経済産業、外務、国税など少なくとも13省庁で、自己申告だけに基づき雇用数に計上されるなどしていた事例が判明している。
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障害者雇用、28県で不適切処理 証明書類確認せず算入 「朝日新聞(2018年8月24日08時09分)」より
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障害者手帳や診断書などを確認せず、雇用率に算入していた28県
青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、富山、石川、福井、長野、静岡、兵庫、奈良、島根、広島、徳島、香川、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎、沖縄
※朝日新聞が各都道府県と教育委員会を取材。県警は発表分のみ含む。三つのいずれかで明らかになった都道府県を集計
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