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■ 〔コロナ後の日本〕生き残りの鍵は「社会主義化」、中韓が市場奪取=中野剛志氏 「朝日新聞(2020年5月1日11時06分)」より
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[東京 29日 ロイター] - 評論家の中野剛志氏は、ロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスによる「恐慌」を乗り越えるには国内総生産(GDP)の5割を超える大規模な財政出動が必要で、政府が重要産業に資本を注入するなど社会主義的な措置が求められるとの見方を示した。感染拡大期が主要各国より遅れて訪れた日本は終息のタイミングも後ずれし、先に経済活動を正常化させた中国や韓国に市場を奪われる恐れがあるとの見通しも示した。

 政治経済思想を専門とする中野氏は、政府がいくら借金しても破たんしないとして積極的な財政出動を唱える経済理論、「現代貨幣理論(MMT)」をいち早く日本に紹介したことで知られる。

 <強いデフレ圧力>

 中野氏は新型コロナによる日本経済への影響を、雇用面から2008年の世界金融危機の際と比較。非正規雇用の割合が当時の33.7%(2009年)から38.3%(2019年)へと増加していることから、失業率はあの時より悪化しやすい状況にあり、「おそらく5%台では済まない」と指摘した。

 さらに日本のGDPの6割を占める個人消費について、7都府県に非常事態宣言が出された際に、全国で4兆9000億円の減少が予測されるとした、りそな総合研究所の試算にも言及、「消費税によりさらに10%も購買力が奪われるわけで、想像を絶する事態だ」と語った。

 中野氏は、一部医療物資の不足やサプライチェーン(供給網)途絶による物価高騰の懸念を指摘する一方、経済活動の停止と需要不足による「デフレ圧力の方がはるかに強い」と指摘。「特に中国、韓国、台湾が先に生産活動を再開し、余剰の製品を安い価格で大量に輸出するだろうから、さらなるデフレ圧力が加わる」と予想した。

 中野氏はこれを「恐慌」と表現し、「政府支出を空前の規模で拡大する以外にない。GDPに占める政府支出の比率を5割以上、あるいは6割以上にしてでも、事業を継続させ、雇用を維持する必要がある」と語った。さらに、労働者の給与を財政から直接支払うほか、政府が雇用を拡大、医療物資の生産・調達を主導し、重要産業へ資本を注入する必要性も出てくるとした。

 中野氏は「もはや社会主義と言ってよい。しかし、イデオロギー上の好悪を超えて、一時的に社会主義化しないと、このコロナ恐慌は到底、克服できない」と述べた。

 <優良企業が淘汰される矛盾、日本企業のバーゲン>

 中野氏は危機終息後について、日本経済がV字回復することは望めないと予想する。企業倒産や失業の増大で供給側の能力が毀損されてしまうためで、「需要が回復しても、供給が追い付かず、停滞が続く」と語った。

 廃業や倒産が経済の新陳代謝を促すとする一部の主張に対し、「今回のコロナ危機でより生き残りやすいのは、内部留保がより大きい企業」と反論。「積極的な設備投資、R&D(研究開発)、労働分配を行ってきた優良企業が逆に淘汰されてしまうため、企業の廃業や倒産を放置すると、かえって非効率な経済となってしまう」とした。

 さらに、拡大期が早く訪れた国ほど終息時期も早いとし、主要国では中国、韓国、欧州、米国、日本の順番になると予測した。「先に復活した中国や韓国の企業が世界市場を奪ってしまい、日本が生産活動を正常化させた時には、もはや海外市場の取り分はないという事態が想定される」と語った。その上で「日本企業やその資産や技術は、お買い得のバーゲンセール状態であろう」と述べた。

 <グローバリゼーションは死語に>

 中野氏は、今回のコロナ危機が世界秩序にも影響を与えると予測。世界的に失業率が高まる中で自国第一主義が台頭し、グローバリゼーションは大きな転機を迎えると指摘した。保護主義が広がり、各国政府が強力に産業政策を主導していく可能性が高いという。中野氏は「グローバリゼーションは死語になっているであろう」とした。

 その中で日本が財政支出に消極的な姿勢を示し、内需を維持・拡大せず、海外の需要を奪うようなことになれば、「近隣窮乏化策とみなされ、反日的な排外主義を招く」と懸念。「他国と同等、あるいはそれ以上の財政出動を行って、内需を拡大し、むしろ輸入を増やすことだ」と語った。

 中野氏は「コロナ危機後の世界秩序は、コロナ危機の下で社会主義化を決断し、実行した国が生き残り、社会主義化できなかった国が凋落する」と述べた。

 (インタビュアー:竹本能文)


■ AIで「新しい社会主義」は実現可能なのか?=冷戦から30年…資本主義も行き詰まるが= 「RICOH:客員主任研究員 松林 薫(2020年05月01日)」より
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 中国・武漢から始まった新型ウイルスの大流行(パンデミック)が、世界を一変させようとしている。ヒト、モノ、カネが自由に国境を越えて行き交うグローバリズムは後退を余儀なくされ、非常事態を大義に国家の介入が強まる。「コロナ後」の世界においては、中国の「新しい社会主義」が米国などと対峙(たいじ)する「新冷戦」が激化するのは必至だ。

 「終わった」はずの歴史が、再び動き始めようとしているのか。1989年、東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊。1991年のソ連(現ロシア)消滅をもって、世界が資本主義(=西側)と社会主義(=東側)の両陣営に分かれて争う冷戦時代に終止符が打たれた。米国の政治学者フランシス・フクヤマ氏は1992年に出版した著書で、それを「歴史の終わり」と表現。民主主義と自由主義を特徴とする西側世界が最終的に勝利を収め、イデオロギー対立は過去のものになったと主張した。

 それから30年―。退場したかに見えた社会主義が、ジワリと存在感を増している。2020年11月の米大統領選に向けた民主党の候補指名争いでは、前回旋風を巻き起こした「民主社会主義者」のバーニー・サンダース氏が再び名乗りを上げた。公立大学の無償化や学生ローンの帳消しなどを掲げる彼の支持層には、政治団体「米国の民主社会主義者たち」に所属する若者が多い。冷戦時代を知らない世代が、格差を是正する手段として社会主義に希望を見出し始めているのだ。

 もう一つの台風の目は中国であり、習近平国家主席が「新しい社会主義」の実現を掲げる。監視カメラ網やネット検閲システムの整備によって国民を統制。行動履歴などのビッグデータを基に、個人・企業に対する格付制度の導入も進める。英国の作家ジョージ・オーウェルが小説「1984年」で描いた監視社会そのものだが、一定の自由は確保され、国民生活の改善も続く。経済成長率は先進国と比べて高く、市場原理主義に疲れた一部の若者の目には一種の「成功モデル」と映るようだ。

 社会主義に追い風が吹く背景には、資本主義の行き詰まりがある。例えば、米国ではローレンス・サマーズ元財務長官が「長期停滞論」を唱えるなど、先進国が高い経済成長率を維持するのは困難になったとの見方が広がる。グローバル化がもたらしてきた所得格差の拡大や、産業のデジタル化が加速させる雇用の減少などにより、多くの人々が自由競争を原則とする資本主義の未来に懐疑的になっている面は否めない。

 かつて「歴史の終わり」を指摘したフクヤマ氏はどう考えているのか。彼は日本経済新聞(2019年11月9日付朝刊)のインタビューで、「市場経済と連携した民主主義を上回る社会制度は見つからない」と従来の主張を繰り返した。その一方で、「それがすべてを満たすものではない」と持論の限界も認めた。ただし中国については、「ビッグデータや機械学習で個々人の動きを逐一監視し、全体主義を構築しようとしている」と警鐘を鳴らしている。

 こうした資本主義に関する悲観論と並んで「社会主義の復権」に現実味を与えているのが、情報技術(IT)の進歩である。人工知能(AI)はその代表格。例えば、経済活動に関するビッグデータを収集しAIで分析すれば、経済政策の実効精度を大幅に高められる。中国では実際、顔認証などと組み合わせて国民や企業の活動を統制することも可能である。ソ連が崩壊したのは、経済が複雑になり過ぎて国家による統制が効かなくなったからだ。しかし、技術の進化により、その限界が克服されるのではないかという期待と恐れが台頭しているのだ。

 近い将来に実用化が見込まれる技術にも、統制的な国家運営に利用できそうなものが多い。中国政府が導入を目指す「デジタル通貨」もその一つだ。実現すれば、理論上は国家がすべての取引をリアルタイムで把握できる。紙幣などの現金は取引の匿名性を保証してきたが、デジタルに置き換わればどうなるのか。取引内容の把握や徴税を通じ、国家が今までにないレベルで国民を監視・統制するだろう。

 本格的な普及は10年以上先とみられるが、量子コンピューターも国家の経済運営を劇的に変えるかもしれない。この新型コンピューターは、現在のスーパーコンピューターが苦手とする「組み合わせ最適化計算」が得意。膨大な種類の商品の価格設定や最適な経済政策の決定など、今は処理しきれない問題を瞬時に解決できる可能性を秘める。

 例えば、政府がデジタル通貨でマネーの流れをリアルタイムで把握しながら、AIを搭載した量子コンピューターで分析すれば、ソ連をはじめ東側陣営がかつて失敗した「計画経済」さえ実現できるかもしれない。

 経済学者の森嶋通夫は、ソ連崩壊後の1994年に出版した「思想としての経済学」の中で、ソ連が軍事ではなくコンピューター開発に力を入れていれば体制維持は可能だったのではないかと述べていた。つまり、社会主義が失敗したのは単に技術力が不足していただけだという見方だ。

 実際はどうなのか。ヒントになるのが、ソ連成立直後の1920年代から経済学者の間で戦わされていた「社会主義計算論争」である。この論争では、「国家は市場メカニズムを利用せずに、適切な経済計画を立てられるか」が争点になった。当時は近代経済学の基礎が整い始めた時期。需要と供給のバランスから価格が決まり、それに基づいて資源が効率的に分配される仕組みを数学モデルで表現する研究が急速に進んでいた。こうした手法を用いてシミュレーションを行えば、市場を通すよりも効率的にモノやサービスの生産・消費を実現できると主張する学者が出てきたのだ。

 この主張に対しては、「現実には計算できない」と反論する声が上がった。例えばイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートは「人間が100人いて商品数が700の場合、考慮すべき条件の数は7万699になる」と指摘した。現実の世界ではそれをはるかに超える条件を付けて数式を解く必要があるため、技術的に無理だというのだ。オーストリアの経済学者フリードリヒ・ハイエクも第二次大戦後、「10万本の連立方程式の解を求めることはコンピューター技術者にとって未達成の野望であり続けている」と主張している。

 ハイエクはより本質的な指摘も行っている。「そもそも機械的に適正価格を計算できるのか」という問題だ。彼の考えによれば、市場取引を通じて実現する「価格」は、データ化できないあらゆる種類の「暗黙知」を反映する。それがあまりに多ければ、仮にコンピューターの計算能力が向上したとしても、最適解を導き出せないというのだ。今、ハイエクがビッグデータを活用したAI技術を知ったとしても、その信念は揺るがないだろうと思う。

 結局、この論争はソ連崩壊で決着したかにみえた。社会主義国は軒並み慢性的なモノ不足に見舞われ、自壊するか、資本主義の仕組みを取り入れて生き延びたからだ。ただし、最新のITを駆使すれば、ソ連よりはマシな社会主義経済システムをつくることはできそうだ。市場原理を柱とする資本主義も完璧ではなく、環境破壊のように「市場の失敗」がしばしば起きている。1世紀を経て、社会主義計算論争は形を変えてよみがえりつつある。

 では、技術的に「新しい社会主義」が実現可能になり、それは資本主義よりも高い経済成長をもたらすのだろうか。カギを握るのは、統制型社会の中でイノベーション(技術革新)が続くかどうかだ。これまでの中国の発展は、欧米など資本主義の下で生まれた技術をキャッチアップすることで実現した。だが今や技術水準が先進国に追い付き、今度はそれを超えられるかどうかが問われる。

 ところで、西側社会でイノベーションをもたらしてきたのは、電子コンピューターの基礎を築いた英国の数学者アラン・チューリング、米アップルを創業したスティーブ・ジョブズ、内部告発を伝えるウェブサイト「ウィキリークス」を創設したオーストラリアのジュリアン・アサンジ氏、そして仮想通貨「ビットコイン」を発明した謎のサトシ・ナカモト氏...。社会の枠に収まらない伝説的な「変人」が目立つ。

 ITの周辺には常に、過激な自由主義者や無政府主義者があふれている。最先端技術が既成秩序の外に「解放区」をつくり出すからこそ、こうした人々はイノベーションに取り組めるのだ。新しい社会主義が資本主義の先を走るためには、こうした変人に自由を与えなければならない。だが、それは自由の制限によって成り立つ社会主義の仕組みとは根本的に矛盾する。混乱が続く香港デモへの対応を見る限り、中国が新しい社会主義で資本主義国を凌駕するのは難しいのではないかと思う。


■ 全米の若者が熱狂する「新しい社会主義」の衝撃=斎藤幸平(経済思想史学者) 「エコノミスト:コロナ危機の経済学(2020年5月25日)」より
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 アメリカでの大統領選に向けた候補者選びで、民主党の指名獲得はジョー・バイデンで決まった。序盤で優勢だった「社会主義者」バーニー・サンダースは、今回も敗れ去った。

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(※mono....中略)
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旧社会主義の正体

 とはいえ、アメリカの若者たちが旧ソ連や旧東ドイツのような「社会主義」に住みたいと思っているわけがない。とすれば、ここで言われている「社会主義」とは何なのか? そして、そのような21世紀の新しい「社会主義」に照らして、そもそも20世紀の社会主義はほんとうに「社会主義」だったと言えるだろうか?

 私の答えは、「ノー」である。政治家と官僚が絶大な権力を握っていた、国家主導の計画経済による近代化の試みは、その内実をみれば、資本の論理にとらわれていた。資本主義的世界システムのもとで、一国社会主義のソ連は、アメリカに負けない経済成長の論理にからめ捕られていたのである。事実、ソ連や東ドイツには、「商品」「貨幣」「賃労働」も普通に存在していた。ただし、官僚による統制に依拠した計画経済は、資本家たちによる自発的な生産力上昇の競争を制約した結果、フォーディズム(ヘンリー・フォードが自動車工場で採用した大量生産を可能にする手法)への移行ができず、西側との競争に敗北することになる。

 ソ連が「国家資本主義」であったという事実は、マルクスの「社会主義」の再評価への道を開く。事実、マルクスをソ連とは切り離して再評価し、資本主義が行き詰まっている時代に、21世紀の新しい社会主義論を展開しようとする試みが世界中で出てきている。若い世代の急進化に触発され、環境問題やジェンダー(性別)、AI(人工知能)など多岐にわたるテーマで議論が進められるようになっているのだ。

(※mono....中略、詳細はサイト記事で)
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新しい社会主義は福祉国家の拡充を求めるだけの運動ではないし、単なるユートピアや夢物語でもない。深刻な経済格差と気候変動を前に、現在のような生活を続けて、将来的にも現在と同じような生活を送れると考えることの方が、いまや非現実的である。新しい資本主義へのオルタナティブを21世紀に切り開く必要性がかつてないほどに高まっているのである。サンダースは選挙に負けたが、若者たちの未来のための運動は続く。

(本誌初出 社会主義 脱資本主義と新たな公共性へ 本当の社会主義を考える=斎藤幸平 6/2)

(斎藤幸平・経済思想史学者)















最終更新:2020年11月26日 21:47