生と死 / 病気 / 在宅死 / 人生






■ ごはんを食べられなくなったら、人間は5日くらいで安らかに息を引き取る。そんな“平穏死”を推進する医師や病院も増えている - 「賢人論。」第28回(前編)石蔵文信氏 「BLOGOS:」より
/
石蔵文信氏は1955年生まれで、団塊世代の下の世代にあたる。循環器系の専門医として救急医療の現場に勤務していた経歴の持ち主だ。定年退職をした夫のうつが妻のうつを引き起こす「夫源病」という言葉の生みの親でもある。そんな石蔵氏は、昨今の高齢者救急医療のあり方や死に対する我々の考え方に警鐘を鳴らす。そして、“多くの年金をもらえることが幸せだ”という価値観に疑問を投げかける、氏の真意とは?

取材・文/猪俣ゆみ子(編集部) 撮影/公家勇人

みんなの介護 石蔵先生は医師としてご活躍され、著書もたくさん出されています。現在の介護業界や高齢者医療について、問題と思われることはありますか?

石蔵 今の介護って、何かあればすぐお医者さんに、という傾向があるでしょう。でもそれでは医療費がいくらあっても足りません。超高齢者は、何かあったらそれが天寿と思った方が良いかもしれません。それから、なんでもできる自立した人を施設に入れてしまうというのも、考え直したほうがいいことだと思います。

みんなの介護 “なんでもできる人”というのは、身の回りのことを自分でできる人のことでしょうか?

石蔵 そうです。どうしてそういった人を施設に入れるのかというと、一番多い理由が「心配だから」。介護が必要な程度は人によって違うだろうけれど、多くの施設には“自立”できている高齢者でも入居できる、いわゆる“24時間医師・看護師が対応するから安心”というところがあるでしょう。

私はよく「医者がいるほうがえらい目にあってしまう」と言っています。どうしてかと言うと、救急医療をやってきたから思うことなんですが、80、90歳の人が救急で運び込まれることもあるわけです。そういった高齢の患者さんに心臓マッサージをすると、あばら骨が折れたり、管をたくさん入れて何とか蘇生して病室に運んでも、1週間ほどで亡くなることが多い。

救急車を呼ばれると、救急隊と救急病院は何もしないというわけにはいきません。なぜなら、何もしないと訴えられる可能性があるからです。もちろん、患者の家族はつい「できる限りのことをしてください」と言いますよね。そういわれると、病院は処置をやらないわけにはいかないから「できる限りのことをやります」と答えてしまう。でも、できる限りのことをすれば、ものすごい医療費がかかってしまうのですよ。患者本人は、あばら骨を折られて、管を入れられて点滴を入れられて、数日たつと体中が浮腫(水分過剰)になって亡くなられる…というのが、高齢者の救急の現実です。

みんなの介護 年齢を問わず、誰かが急に倒れたりしたら救急車を呼ぶ、というのは至極もっともな流れだと思うのですが…。

石蔵 そういうときに、救急車を呼ぶというスイッチを押さないで看取りの先生に電話をすれば、自宅に来ていただいて、脈をとってもらい“ご臨終です”というふうになるかもしれません。救急病院で処置されるのと静かに看取られるのでは医療費がかなり違うと思います。救急病院でお金をかけて処置をしたとしても、今説明したように、多くの場合、本人は苦しむ可能性が高い。たくさんのお金がかかっているのに、本人もつらい、医療関係者も大変という問題が生じます。救急隊が呼ばれる回数も増えているという問題もあります。

ある先生が「救急車を呼ぶということは“平穏死”ができないスイッチを押すことだ」と言っておられましたよ。

みんなの介護 平穏死とは、芦花ホームの石飛先生が提唱している、安らかな最期の迎え方のことですよね。

石蔵 石飛先生とはよく交流しています。私らは「生き方死に方を考える社会フォーラム」をやっていますが、私らが今から10年、20年前に診た末期がんの患者さんは、1分1秒でも長く生きてもらうために挿管とか点滴とかをするわけです。それは、はた目から見ていても苦しそうです。次第に水が溜まっていって、仕方がないので胸や腹から水を抜く。でも次の日は、同じように胸や腹に水が溜まります。

看取りをやっている石飛先生にお聞きすると、ごはんを食べられなくなるのは、体が受けつけないわけだから、点滴などをしなければ5日くらいで安らかに息を引き取られるらしいです。そうなると余裕をもって家族で集まることができる。それが平穏死というものです。本人も楽、家族も余裕のある、お金がかからない死に方なんだけれど、唯一の欠点をあげるならば、医療側の収入にならないのです。

最近では、政府は、在宅で看取ったときの医療報酬をある程度高くして在宅での看取りを勧めています。このような財政誘導で“平穏死を推進してくれる”病院や医院が増えてきているようです。

(※mono....以下略、称したはサイト記事で)








.
最終更新:2022年02月18日 09:56