● 核酸医薬 - Wikipedia
核酸医薬(英: oligonucleotide therapeutics)とは天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり、遺伝子発現を介さずに直接生体に作用し、化学合成により製造されることを特徴とする。




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製薬業界に2010年問題という大きな波が押し寄せたことによって業界のあり方は大きく変化しました。2010年問題とは、従来型の低分子医薬品の特許が一斉に切れたたために生じた問題です。というのは欧米では医薬品の特許が切れるとジェネリック医薬品メーカーがジェネリック医薬品を売り出します。日本ではジェネリック医薬品が売り出されてもブランド医薬品との置き換えはなかなか進みませんが、アメリカでは一年後にブランド薬の売り上げは20分の一まで低下します。

ブランド薬というのは巨大製薬企業、メガファーマがかなりの資金を投入して開発した先行する医薬品のことです。最近では一つの医薬品が世に出るまで1400億円などという巨額な研究開発投資が必要だと言われています。せっかく開発した大型商品が売れなくなると製薬企業の経営にとって大きなダメージを与えることになります。主力の大型医薬品の特許が2010年に切れたため、製薬業界は大きな衝撃に襲われたのです。その結果、進んだのがジェネリック医薬品の参入が困難なバイオ医薬品へのシフトです。

バイオ医薬品、biologicsとも呼ばれますが、核酸医薬と抗体医薬の二つが代表的なカテゴリーです。抗体医薬はマウスを免疫して作成し、それをヒトに投与できる形に遺伝子工学的に改変して実用化します。この過程はヒト型化と呼ばれます。マウスの抗体をヒトに接種するとマウスの抗体に対するヒト抗体ができてしまうため、抗体の抗原結合部位以外の部分をヒト抗体と置き換えるわけです。抗体をヒト型化する技術が進んだことと、抗体医薬にもヒット商品が生まれたため、抗体医薬は現在の創薬研究の中心となっています。

このような流れの中で、核酸医薬の実用化は抗体医薬と比べると大きく後れをとってきました。核酸は強いマイナス電荷を帯びているため、脂質から構成される細胞膜を透過することはできません。さらに生体内には核酸を分解する酵素が存在しており、特にRNA分解酵素は体内の至る所に存在しています。核酸医薬が投与後に分解されないようにする一方で核酸医薬を細胞内に導入する技術が求められていました。この問題を部分的な解決したのがDNAやRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に包んで投与する方法です。

核酸をLNPに包んで投与すると核酸は血液中で分解されなくなります。なぜなら脂質に包まれた核酸にRNA分解酵素やDNA分解酵素は接近できなくなり、その結果分解から免れるようになったわけです。これで核酸医薬が患部に届くまでに分解されてしまうという問題は解決しました。となると次なる課題は核酸医薬をどのようにして細胞内に届けるかということです。核酸医薬としては、標的遺伝子の遺伝発現を抑制するアンチセンスDNA, RNA干渉法を利用したsiRNAそして遺伝病の治療においては疾患原因遺伝子そのもののDNA、あるいは、その遺伝子のmRNAを届けることなどが代表的なものです。これらは全て細胞外では機能せず、細胞内に届けられなければ機能しません。LNPは核酸医薬を細胞内に届ける機能を持つことも明らかになり、LNPを構成する成分を検討することによって高い確率でLNPが細胞の膜と融合するようになり、核酸医薬を細胞内に届けることが可能になりました。siRNAといった、バイオ分野の研究者以外の方には耳慣れない言葉がでてきましたので、理解を深めるのに役立つ動画を紹介しておきます。


LNP技術ができたことで核酸医薬を細胞内に効率よく届けることは可能になりましたが、次に障害になってきたことは核酸を細胞内に導入してしまうと自然免疫を活性化してしまい、核酸医薬が導入された細胞が殺傷される反応が誘導されてしまい、せっかく細胞に導入された核酸が機能する前に細胞が排除されてしまうことです。ここで重要な役割を担うのがTLR、トル様受容体です。この前のスレッドでも登場した細胞内に存在する外来のDNAやRNAを検出するセンサーです。

TLRについても説明するとかなり長くなってしまいますので動画を紹介しておきます。TLRに核酸が見つからないようにするために考案されたのが、例えばmRNAであればシュードウリジン化することです。シュードウリジン化されたmRNAはTLRに見つからないようになり、また細胞内での分解もされにくくなり安定に発現するようになります。
トル様受容体 わかりやすく

LNP-mRNAワクチンは全身に拡散し、遺伝子は効率よく細胞に入り、遺伝子細胞が排除されないようになっています。

一方で、DNAワクチンでは遺伝子を細胞内に届けるためには別の手段を使用することが必要です。DNAを用いた核酸医薬の実用化が進んでいない理由としては、DNAをいかにして細胞内に導入するかが解決されていないことがあげられます。質問にあったインドのDNAワクチンですが、DNAワクチンの大きな課題であるDNAを細胞に導入する方法として電気穿孔法を使用しています。この方法をベースにしていろいろ工夫することでヒトに使用できるようにして、局所的な遺伝子導入を可能としています。この方法での遺伝子導入ですが、効率はそこそこ上げることはできるでしょうが、重要なのは遺伝子が導入されるのが局所に限定されることです。

この方法では、局所的に細胞に高電圧をパルス状にかけてやります。そうすると細胞に穴があいてプロモーター付きの遺伝子が細胞に導入されます。mRNAでは細胞質でタンパク質が合成されますが、DNA型ワクチンでは導入されたDNAが核に移行しないとmRNA合成はおきず抗原タンパク質はできません。したがって、ここにも特別な工夫が必要です。

この電気穿孔法、つまり、局所の組織に高電圧をパルス状にかけて遺伝子を導入する方法ですが、細胞に一瞬穴があいて、その瞬間にDNAが細胞内に入ります。条件にもよりますが、この方法では細胞が死んでしまうことも多く、細胞死を減らすためには条件を最適化することが必要です。最適な条件が見つかると一瞬あいた穴はふさがり、DNAは細胞内に導入されます。繰り返しますが、この方法では遺伝子が、細胞が導入されるのは局所的です。この写真は光るタンパク質の遺伝子をマウスの胎児の脳にエレクトロポレーション法で導入したケースです。導入されたンパク質は高電圧パルス処理が行われたエリアに限局して発現しています。

この方法は最近では美容医学の分野でも大いに活用されています。皮膚において高電圧をパルス状にかけることで、様々な物質の皮膚での投下効率を高めようという試みが行われており、専用の機器も開発・実用化されています。下の図はこの論文からの引用です。

Progenitors resume generating neurons after temporary inhibition of neurogenesis by Notch activation in the mammalian cerebral cortex. Development (Cambridge, England), 132(6), 1295-304


一方でLNPを使用したmRNAワクチンはDDS技術(drug delivery system)としては、ある意味、画期的です。というのは、遺伝子導入効率が格段に高く、出会った細胞と速やかに融合し、内部に含まれるmRNAやDNAを高い効率で細胞内に導入することができるからです。筋肉注射した場合、LNPは全身をかけめぐり、血管内皮細胞とか心筋細胞とか、種々のリンパ球とか肝臓、卵巣などの全身の細胞と融合し、それらの細胞にすみやかにmRNAを届けることができます。

全身の細胞に届くということはよさそうに思えますが、これは重大な欠点になることもあります。狙った臓器以外にもmRNAが運ばれてしまうことや、最初に出会う血管内皮細胞などにmRNAが入ってしまうためです。

DNAワクチンと今回のmRNAワクチンの違いは遺伝子の導入効率と遺伝子が届けられるのが全身性か局所的かということに加えてもう一つ違いがあります。DNAワクチンのDNAはメチル化されていないため、遺伝子導入細胞のTLR9受容体が反応し、遺伝子導入細胞を殺傷する一連の反応がスタートします。TLRについては紹介した動画をご覧ください。mRNA型ワクチンも最初は実用化が難しかったのですが、シュードウリジン化することで、このような反応が抑制され、mRNA導入細胞は排除されることなく、抗原タンパク質が生産され、免疫誘導がおきることになりました。この方式が他のしくみでの免疫抑制も招くことは以前紹介済みです。

ここで、LNP-mRNAワクチンに混入しているとDNAとDNAワクチンをいくつかの項目で比較してみます。

(1) 遺伝子導入効率 これはLNP方式の方が格段に高い。したがってmRNAに混入しているDNAは高い効率で細胞内に届けられます。
(2) 遺伝子が届けられる細胞について LNP方式では全身に届けることが可能です。一方でDNAワクチンでは接種された局部に限られます。したがってmRNAワクチンに混入しているDNAは全身に届けられ細胞に効率よく入ります。
(3) 遺伝子導入細胞が免疫システムによって排除されるかどうか。LNP方式では免疫システムによって排除されず、しかもmRNAは長期間持続します。RNAによるタンパク質の合成は長期間続きます。mRNAワクチンでは制御性T細胞が活性化されますので、混入しているDNAがあったとしても、その細胞が免疫システムで排除されるかどうかは不明です。たぶん排除されないのではと考えています。

ここまで読めば、DNAワクチンのDNAと脂質ナノ粒子に包まれたDNAとでは次元の異なる性質を持っていることがわかります。接種部位のごく限られた細胞集団にだけDNAが導入されるDNAワクチンと、全身性で効率よく細胞にRNAと一緒にDNAが届けられるLNPとでは大きな違いがあります。LNPに包まれていなければDNAを注射されたところで大きな問題はありません。なぜならDNAは細胞に入らないからです。また全身の細胞にDNAが届けられることもありません。実際には、DNAをLNPで包んで個体に接種することで個体レベルの遺伝子導入が可能となったと理解してもいいでしょう。さらに、DNAをメチル化してから遺伝子導入すればTLRによる排除も受けなくなるでしょう。今後、この方法を使用したマウスなどの動物実験による研究が進んでいくものと考えられます。

最後に書いておきたいのは、LNPによる遺伝子導入技術はまだ開発されてから日が浅く、どのようなリスクがあるかが不明だということです。また、ここまで読んでいただければわかるように、この技術は核酸医薬を個体レベルで導入するための新技術であり、この方法で開発されたものは核酸医薬として人体への使用の可否を検討すべきものです。

核酸医薬として人体への使用の可否を検討するのであれば、ワクチンとしての検討と比べて格段に医薬品として使用が認可されるためのハードルが高くなります。ほんの一例ですが、生殖毒性はないのか、導入されたDNAがどのような確率でゲノムに取り込まれ、そのことがどのような短期的・長期的な影響があるのかなどが十分検討されることが必須です。

LNPで細胞に遺伝子をを導入する技術は興味深い技術ではありますが、接種後の体内動態を制御できないと実用化は難しいと考えています。

こうして考えると今回のmRNAワクチン薬害はおきるべくしておきたものとも言えます。本来は核酸医薬として薬事承認の審査すべきものを、基準が甘い従来型のワクチンとして審査して承認してしまった。それも核酸医薬の実用か例が少ない状況において承認してしまったわけです。また、このワクチンの情報が当初隠蔽され、科学者に正しい情報が届けられなかったことが、さらに多くの不幸な事態を招きました。このようなことは二度とおこしてはなりません。

確立していない技術を人体に使用した代償は支払わなければなりません。追加接種を続ければ続けるほどその代償は大きくなっていきます。あらゆる追加接種はストップすべきです。
午前6:17 · 2023年7月21日 1.9万件の表示


■ 血液脳関門通過を可能にしたヘテロ核酸医薬の開発―アルツハイマー病などの神経難病の根本治療に大きな進歩― 「国立研究開発法人日本医療研究開発機構」より
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研究グループがこれまでに独自に開発した核酸医薬である「DNA/RNAヘテロ2本鎖核酸(HDO)」を更に発展させ、従来の核酸医薬では効率よく通過できなかった血液脳関門※1の突破を可能にした、革新的な核酸医薬である「血液脳関門(BBB)通過型ヘテロ2本鎖核酸」を開発しました。
脊髄性筋萎縮症に対して核酸医薬が承認され、神経難病の根本治療が可能となりつつありますが、核酸医薬品は侵襲性のある髄腔内への直接投与を一生涯に渡って実施する必要があり、患者にとっては負担の少ない投与法が強く求められています。
開発した血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸は、負担の少ない全身投与法により中枢神経(脳および脊髄)で様々なRNA(メッセンジャーRNA、マイクロRNAなど)などの遺伝子に対して発現を抑制します。皮下注射などの自己注射が可能となって、患者にとって優しい新規の医薬品開発の可能性が出てきました。
アルツハイマー病・筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン病などのこれまで根本的な治療法のなかった中枢神経の難治疾患や、狂牛病を含めた神経感染症への治療にも応用が期待できます。

(※ 以下略)








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最終更新:2023年09月23日 12:46