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(※ この枠内は以前にアップしたものだが、上記ポスト上の画像2枚と同じものの文字起こしです。

H. ピロリ除菌で寿命短縮の可能性


胃がんは減っても、C、ディフィシル感染・肺炎など感染症増加

要旨: プロトンポンプ阻害剤 (PPI) の多用に伴い、クロストリジウム・ディフィシル (C. difficile) 感染症が増加する。ベースに高頻度の C. difficile 健康保菌者があり、PPIが、あらゆる真核細胞にあるV型プロトンポンプ (V-ATPase) を抑制し、 体の各種機能を抑制することが関係しうる。H. pylori 健康保菌者に対する除菌の総合的有用性は、感染症の増加など害とのバランスで判断しなければならない。長期ランダム化比較試験のメタ解析結果では、胃がん罹患率は減少したが、総死亡率は有意の差はないものの、除菌群が対照群よりも多い傾向があった。H. pylori 健康保菌者への除菌はすべきでない。

はじめに

本誌前号 [1]で、メトロニダゾールの必要性が高まった背景として、抗生物質とプロトンポンプ阻害剤(PPI) の多用による C. difficile 感染症の増加 [2] を指摘し、本稿の検討を始めた。しかし、C. difficile 感染は、非常に高頻度の健康保菌者 [3-6] がベースとなっている。また、 PPIは単に胃壁細胞のプロトンポンプ (H+/K+ATPase) 1 だけでなく、もう一つのタイプのATP 依存性プロトンポンプである液胞型 H+ATPase (vacuolar H+ATPase、以下V 型プロトンポンプ)をも阻害する [7]。V型プロトンポンプは、あらゆる細胞に普遍的に存在し、正常な細胞機能の維持に重要な役割を担っているため[7、8]、PPIによりそれらが阻害されると、免疫や炎症、骨代謝、感覚機能、 神経機能などへの影響がありうる [7]。

このため、C. difficile 感染など各種感染症の増加、各種疾患が増加する可能性があり、胃がんが減ればよいわけではない。そこで、ヘリコバクター・ピロリ除菌の寿命を含めた長期の影響を検討した。

C. difficile の健康保菌者は高頻度

日本の健康新生児 (40人) および保育所入所児(98 人)におけるC. difficile 健康保菌者の調査 [3] では、出生直後1週間に陽性児は1人 (2.5%)だけであった。この児の母親は、健康保菌者であった母親2人のうちの1 人であった。98人を1歳毎に集計した調査では、0歳児 100%(12人全員)をピークに、1歳、2歳、3歳、4 歳、5歳でそれぞれ、75、46、24、39、24%と年齢とともに健康保菌者の割合が低下していた(註1)。健康児 10人を新生児期から毎月検査し、1年間追跡調査したフランスの調査では、1か月目3人、3か月1人、4か月 4人、5か月と6か月に1人ずつ、つまり全員が生後6 か月までに一度保菌者となり、生後12か月で半数に減っていた[4]。また、保育所入所児85人のある1時点の調査 [4] では、0歳62% (26/42)、1歳41% (11/27)であったが、2歳は成人並みの6% (1/16) に減少していた。

これらのデータを用いて比較すると、日本の乳幼児の (95% CI:2.5,19.9、p=0.0002) と有意に高かった。乳児期に全員が保菌者になるが、日本では、その後の保菌者減少が、フランスと著しく異なるといえよう。

C. difficile 保菌者割合はフランスに対してオッズ比 7.1

Kato の調査 [5] によれば、健常成人でも平均7.6%が保菌者であった(各種集団で4.2%から15.3%まで分布、医療従事者は4.3%)。海外の調査では、医療従事者でも0%から13%と大きなばらつきがある [5]。入院患者の入院時の検査では、これまで入院歴のない場合には 3~7%、入院歴のある場合には7~17%、入院中には 20%台になるとレビューされている [6]。

註1: 成長とともに C. difficile は排除され保菌者が減少す

る(図1および、p.39 図2参照)。

図1: 乳幼児の C. difficile 保菌割合: 成長に伴う変化

(日本とフランスの比較)


PPI 療法で、C. difficile 性下痢が2~7倍に

年に、抗生物質の使用のほか、胃酸の抑制をC. difficile 性下痢のリスク因子として指摘する症例対照研究が報告された [9]が、これはPPIやH2ブロッカー、スクラルファートを区別していなかった。抗生物質の使用

など交絡因子が調整され、PPIが単独でC. difficile 性下痢のリスク因子であることが、2003年 [10] に症例対照研究、2004年[11] に症例対照研究とコホートにより報告され、その後多数の同様の報告がなされ、2008年よりメタ解析結果が発表されるようになった [12-15]。

C. difficile 性下痢に対するPPIの危険度につきコホート研究と症例対照研究を別々に集計し、最も信頼性が高い Deshpande らのメタ解析結果 [14] では、コホート研究を用いた場合、併合オッズ比(OR) が 1.78 (95%信頼区間:1.41,2.25、p<0.0001)、症例対照研究を用いるとORは2.22 (1.82,2.70、p<0.0001)であった。

PPIの使用期間別に、ハザード比 (HR) が示された Dialらの調査 [12] によれば、全期間のHRは3.1、うち PPI使用が6か月以上例ではHR6.9であった。また、非使用者に対するPPI使用による再発の危険度を Dial らのデータ [12] を用いて解析すると、OR=16.8であった(表1)。

PPIや抗生物質、抗癌剤はそれぞれが単独でリスク因子である [11]。PPIと抗生物質の組合わせの危険度は、 OR=5.4、3要素があるとOR=43.2であった [11](表1)。


調査間の異質性のため、両者の関連に疑問を呈する報告がある [16]。しかし、PPIと制酸剤を区別していない調査もPPIとして集計している。それらを除くと、ORポイント推定値が1以上の調査結果が90%超を占める [14]。 また、ORポイント推定値が1未満でも有意なものはない。 異質性は、調査方法の違い (病院か地域か、記録情報かインタビュー情報か等)を反映しただけかも知れない。

H2ブロッカーについても、C. difficile 性下痢の危険因子であることが、メタ解析の結果示されている [17]。併合ORは1.44 (1.22-1.70) であった。

長期使用で死亡率が14%増加の可能性

H. pylori 除菌の長期RCT (胃癌罹患や総死亡)のシステマティックレビュー [18]では、4年~約15年間追跡した長期ランダム化比較試験6件(胃癌死亡4件、総死亡5件)のメタ解析の結果、胃癌罹患率は減少した (相対危険 RRO.66 (0.46,0.95)。しかし、胃癌死亡率 (RR:0.67)は RR0.67 (0.40、1.11)と有意差なく、総死亡率は OR1.10 (0.89,1.37)と有意の差はないものの、 どちらかといえば除菌群がプラセボまたは無処置群よりも多い傾向にあった。約15年間(最長)追跡した調査 [19] では、調整胃癌罹患HRは0.61 (0.38、0.96)だが、死亡調整 HR は、胃癌死亡 0.67 (0.36、1.28)と有意でなく、 全癌死亡は 0.97 (0.68、1.39)と全く違わず、総死亡は1.14 (0.90、1.46、p=0.28)と有意ではないが多い傾向があった。つまり、胃癌に罹患することは多少防止できても、胃癌以外の死因が多くなる結果、死亡が全体として増える傾向がある、ということを示唆している。

プロトンポンプは多くの細胞の正常機能維持に必須

エンドソームやリソゾーム、ゴルジ体、シナプス小胞などは細胞内部の構造物で細胞内膜と呼ばれる。シナプス小胞は別として、これらはあらゆる細胞にあり、ウイルスや毒素、分子を、形質膜を陥入させることにより取り込み・処理し(エンドソーム) 消化し(リソゾーム)、 細胞内で合成されたタンパク質や脂質の最終処理をして完成し梱包し宛名をつけて送り出し(ゴルジ体)、神経伝達物質など小分子を結合して細胞外に分泌する役割を持っている。原形質膜外にH+イオンを放出させることで、 その細胞特有の機能を発揮している細胞もある [8]。

V型プロトンポンプ (V-ATPase)は、ATP依存性のプロトンポンプの一つ [8] であり、体のすべての細胞に普遍的に存在する細胞内膜を適切なPH (多くは酸性)に保ち正常な機能維持を担っている [8]。

また、このV-ATPaseは、腎細胞や破骨細胞、好中球やマクロファージ、精巣細胞あるいは、ある種の腫瘍細胞の形質膜に存在し、それぞれ、尿の酸性化や骨吸収、 免疫系細胞内の適正pH保持、精子成熟、あるいは腫瘍細胞の浸潤に重要な役割をしている [8]。

PPIは、胃壁細胞のプロトンポンプ (H+/K+ATPase) だけでなく、このV型プロトンポンプをも阻害する [7]。 その結果、PPIは、免疫反応や炎症反応を抑制し、免疫抑制、抗炎症作用を有する[7、8]とともに、骨代謝や神経機能、腎機能、生殖機能にも影響しうる。

PPI によって H. pylori を除菌することで、胃癌罹患率が減少する一方、全癌死亡率が対照群と全く差がなかった。総死亡が14%増加する可能性は、体のあらゆる細胞に存在してその細胞固有の作用の発揮に重要な役割を持っているV型プロトンポンプをPPIが阻害することで、 説明しうる。

以上の検討結果から得た C. difficile 感染の自然経過に対する医療介入の影響に関する仮説を図2に示す。


226.769人の市中肺炎が含まれていた。外来PPI療法の併合リスク(オッズ比やリスク比、ハザード比の混合)は1.49 (95% CI: 1.16-1.92)であった。

15件で統計学的に有意の肺炎リスクの増加が報告された(図)。有意でない報告(オッズ比1.02)でも、使用開始から7日までに限ると、オッズ比 3.79 (95% CI: 2.66-5.42) と有意であった報告もある。

市中肺炎のリスクは、PPIの使用開始後1か月目までの危険度が特に大きかった(オッズ比2.10:95% CI: 1.39-3.16)(表)。PPI療法はまた、市中肺炎の入院リスクを増加させた(オッズ比 1.61:95% CI: 1.12-231)。

著者らは、これらの結果から、代替療法がある場合や、PPI 使用による利点が不確かな場合には、このリスクを認識したうえで、PPIの処方を見直す必要がある、としている。適切な結論と考える。

PPIによる感染症誘発の機序について

PPI 使用が肺炎を誘発する機序として、PPI使用によって胃酸が抑制されて細菌が増殖するだけでなく、V型プロトンポンプ (V-ATPase) をも阻害する点が重要だ。このV型プロトンポンプは、体のすべての細胞に普遍的に存在し、腎細胞や破骨細胞、好中球やマクロファージ、 精果細胞、ある種の腫瘍細胞の形質膜に存在し、それぞれ、尿の酸性化や骨吸収、免疫系細胞内の適正pH保持、 精子成熟、腫痛細胞の浸潤に重要な役割をしている [3-5]。

したがって、V型プロトンポンプを阻害することで尿の酸性化などが阻害されれば、肺炎だけでなく、腎盂腎炎や膀胱炎など尿路感染症も増加しうること、骨代謝が障害されれば骨折につながることが、容易に推察可能である。いずれにしても感染症は増える。

実地診療では

システマティックレビューの結果、PPI使用開始1か月以内に特に肺炎になる危険度が高い。PPIの処方は、 胃潰瘍に対しては8週間、十二指腸潰瘍に対しては6週間に使用期間が制限されている。

医師は、処方する前に、肺炎の害を十分に考慮に入れて判断をすべきである。処方後は肺炎の害について患者に説明が必要である。無意味な長期使用は避けなければならない。




(※ここは上記ポストの下二つの画像の文字起こし)

プロトンポンプ阻害剤(PPI)による肺炎
開始後1か月以内が特に危険        浜六郎

まとめ

胃酸の酸の元である水素イオン (H+) をプロトンといいます。胃粘膜にあり、酸(プロトン)を胃内に汲み出す装置が「プロトンポンプ」、その作用を抑える薬剤がプロトンポンプ阻害剤(PPI)です。

PPI を使うと細菌性肺炎(市中肺炎)に罹りやすくなることが、2003年以降、疫学調査で多数報告されるようになり、26件を総合解析 (メタ解析)した結果、PPIを使用すると肺炎に罹る危険度が1.5倍(統計学的に有意)と報告されました。PPI使用開始から1か月未満では特に危険度が高く2.1倍でした。

PPIは胃酸の分泌を邪魔するだけでなく、各臓器の水素イオン濃度 (pH) を調整しているV型プロトンポンプ (V-ATPase) の働きをも阻害します。このことは、さまざまな害につながり、肺炎もその一つと考えられます。

肺炎に罹りやすくなることを重大な害ととらえ、安易な処方は控えなければなりません。
キーワード:プロトンポンプ、PPL、肺炎、胃酸抑制、メタ解析、胃清痛、十二指淡、V型プロトンポンプ、感染症

はじめに
プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、強力な胃酸抑制作用があるが、その割には、さしあたっての害反応が少なく、 ピロリ菌除菌や逆流性食道炎、少量アスピリンによる胃潰痛防止、重症患者のストレス漬痛防止などの目的で用いられることが多く、高齢者にもしばしば用いられ、過剰使用の様相を呈している。

2014年のPPI 使用者数は胃潰瘍用の8週間コースを 2360万人以上が受けたことに相当する、と推計される(註 1)ことから、過剰使用が裏付けられる。

クロストリジウム・ディフィシル (C. difficile) 感染症誘発の害は、添付文書 [2]にも記載され、注意が喚起されている(註2)。

PPIは、胃壁細胞のプロトンポンプだけでなく、身体の他の細胞に普遍的に存在し、各臓器の最適 pH 維持を担っているV型プロトンポンプ (V-ATPase) をも阻害する[3-5]。そのため、害反応の発症機序や因果関係の考察には、身体の各臓器の機能低下を理解する必要がある。

日本の添付文書には、PPIが細菌性肺炎(市中肺炎)を誘発する害についての記載はまだないが、海外での研究は日本でも紹介され[6,7]、米国消化器病学会(ACG)のガイドライン [8]に盛り込まれたことも紹介されている [6]。

本稿では、最新のシステマティックレビューの結果 [9] を紹介し、考察を加える。なお、最近これらの結果と異なり、PPIと肺炎は無関係とする論文が掲載された [10] ので、その疫学的手法の問題点については次号で考察を加える。

註1:PPI ブランド品(ネキシウム、タケプロン、パリエット、 オメプラール、オメプラゾン)の2014年の出荷額 [1] と胃漬痛の標準治療期間8週間分の薬価 (2014年) から推計した。ジェネリック薬剤の使用者数を考慮すると、さらに多くなると考えられる。

註2: たとえば、エスメプラゾール(ネキシウム)の添付文書の、使用上の注意、その他の注意の第5項と第6項には以下の記載がある。

5. 海外における複数の観察研究で、プロトンポンプインヒビターによる治療において骨粗鬆症に伴う股関節骨折、手関節骨折、脊椎骨折のリスク増加が報告されている。特に、 高用量及び長期間(1年以上)の治療を受けた患者で、骨折のリスクが増加した。

6. 海外における主に入院患者を対象とした複数の観察研究で、プロトンポンプインヒビターを投与した患者においてクロストリジウム・ディフィシルによる胃腸感染のリスク増加が報告されている。

最新のシステマティックレビューの結果

Lambert 5 [9] (2015年) のシステマティックレビューの概要を紹介する。PPI使用者で市中肺炎のリスクが増えるとの報告が散見される。そこで、外来治療における成人の市中肺炎リスクとPPIとの関連を検討するため、 システマティックレビューとメタ解析を実施した。

18歳以上の外来患者でのPPI使用と市中肺炎との関連を報告している症例・対照研究やコホート研究、ランダム化比較試験をシステマティックレビューし、PPI療法と市中肺炎罹患との関連を検討した。

その結果、33研究が検出され、そのうち重複を除く 26件(すべて2003年以降)をメタ解析の対象とした (図)。これら26研究では6,351,656人が調査対象となり、(ここまで)


PPI による感染症誘発の機序について

PPI 使用が肺炎を誘発する機序として、PPI 使用によって胃酸が抑制されて細菌が増殖するだけでなく、V型プロトンポンプ(V-ATPase)をも阻害する点が重要だ。このV型プロトンポンプは、体のすべての細胞に普遍的に存在し、腎細胞や破骨細胞、好中球やマクロファージ、 精巣細胞、ある種の腫瘍細胞の形質膜に存在し、それぞれ、尿の酸性化や骨吸収、免疫系細胞内の適正 pH 保持、 精子成熟、腫瘍細胞の浸潤に重要な役割をしている [3-5]。

したがって、V型プロトンポンプを阻害することで尿の酸性化などが阻害されれば、肺炎だけでなく、腎盂腎炎や膀胱炎など尿路感染症も増加しうること、骨代謝が障害されれば骨折につながることが、容易に推察可能である。いずれにしても感染症は増える。









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最終更新:2025年04月26日 14:56