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【田原総一朗】金総書記は事件の真実を語ったのではないか【BPnet】

田原総一朗の政財界「ここだけの話」

金総書記が中国に語った韓国艦沈没の真実

金総書記は事件の真実を語ったのではないか

2010年5月27日

 朝鮮半島の西側、黄海の南北軍事境界線の付近を航行していた韓国軍の哨戒艦「天安」が3月26日、艦体が真っ二つに割れて沈没した。国際軍民合同調査団は5月20日、最終報告書で「北朝鮮製の魚雷による水中爆発」によるものと断定した。

朝鮮半島が緊迫、南北関係が断絶へ
 今、この事件が大問題となっている。朝鮮半島の緊張が高まり、その影響が東京株式市場にまで及んでいる。25日の日経平均株価は半年ぶりの9500円台を付け、今年の最安値となった。南欧の財政危機に端を発した世界景気への懸念が主な材料だが、朝鮮半島の不安定化も株価下落の要因になっていると市場関係者は見ている。

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は24日、北朝鮮の責任を激しく追及する談話を発表し、独自の経済制裁を宣言した。また「今後、わが領海、領空、領土を武力侵犯すれば、ただちに自衛権を発動する」と述べた。

 これに対し北朝鮮は反発し、李明博政権とのすべての関係を断絶すると25日に発表。それ以前の20日の時点で、韓国が制裁措置に踏みきれば、「全面戦争を含む強硬措置をとる」との声明を出している。

 北朝鮮の声明は一種のパフォーマンスともとらえられるが、いずれにせよ、朝鮮半島をめぐる危機感は相当強まっているのは確かだ。

金総書記が訪中したのは事件後のことだった
 今回の韓国艦沈没事件について、日本の新聞やテレビ、政府の安全保障関係者は、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記がどのような思惑でこの事件を起こしたのか、をいろいろと推測している。

 だが、果たして「金正日総書記の思惑」なのだろうか。私はそうではなく、事件の背景には別の事情があると思っている。

 金総書記は5月3日から中国を訪問し、胡錦濤国家主席に会った。訪中の最大の目的は、三男ジョンウン氏の跡目相続、つまり最高権力者の後継問題について話すためだと言われていた。確かに、それもあっただろう。

 しかし、私は金総書記の訪中と韓国艦沈没事件の時期に注目したい。金総書記の訪中が5月で、その前の3月に韓国艦沈没事件が起きている。調査団は5月15日に現場海域付近から魚雷の部品を回収し、それが北朝鮮製であることを明らかにしたが、魚雷で攻撃すれば、その破片が海底に散り、証拠が残るのは明白なはずだ。

 なのに、金総書記は事件後に中国へ行った。いったい何をしに行ったのか。

 中国はこの事件に関して非常に慎重な姿勢を示している。日米韓が国連安全保障理事会で協議を呼びかけようとしているが、それに対しても非常に消極的だ。

金総書記は事件の真実を語ったのではないか
 金総書記が訪中の際、韓国艦沈没は「北朝鮮の仕業ではない」と言っていれば、その後事実がわかり、中国をだましたことになる。中国は当然、非常に怒るだろう。

 だが、中国は怒りもしないで、慎重かつ消極的な姿勢でいるのはどういうことか。

 私は、金総書記は「韓国艦の沈没は北朝鮮がやった」と言うために中国へ行ったのだと考える。中国はそれを聞いているから、いささかも慌てず、慎重な態度を見せているのではないか。

 では、金総書記はなぜ、わざわざそんなことを言いに行ったのか。私の見方はこうだ。金総書記は「軍が手に負えなくなった。何とかしてほしい」と中国に頼みに行った……。

 前述したように三男の跡目相続の話、デノミ失敗による経済の行き詰まりに対する支援依頼もあっただろう。だが、それらは主要な問題ではない。「軍が手に負えなくなった。何とかしてほしい」と頼めるのは中国しかない。金総書は困りきって、病身をおして中国へ行ったのではないだろうか。

危ういところで独裁を保っている状態
 私はこれまでに北朝鮮へ2度取材に行ったことがある。最初の訪朝で、私は日朝国交正常化交渉担当大使と6時間以上話をした。以下はその時の一部分である。

 「北朝鮮に対する日本人の国民感情は非常に悪い。もし、日本と北朝鮮との国交正常化、両国の関係改善を本当に望むなら、拉致問題で誠意ある対応が必要だ。そのためには金正日総書記自らが、軍部に命じて真相を明らかにすべきである」

 私がそう担当大使に言うと、「カメラを止めて」と彼は言い、次のように語った。

 「実は独裁者というのは意外に脆い。暗殺されたら終わり。独裁者は独りである。独裁者として君臨するには、軍と秘密工作機関を完全に掌握していなくてはならない。もし彼らの反感を買ったら、安泰ではいられない」

 私はこの話を聞いて、金総書記は完全な独裁者ではなく、相当きわどいところ、危ういところで独裁を保っていると感じた。そして、このときの体験が今回の事件を判断する私のより所となっている。

軍の暴走なら危険極まりない
 韓国艦沈没事件について北朝鮮による報復説も出ている。2009年11月、黄海で北方限界線を越えて侵入してきた北朝鮮の警備艇を韓国軍が警戒射撃を行い、警備艇は大破された。それに対する報復ではないかというのだ。

 だが、報復措置として韓国艦を撃沈して、金総書記に何のメリットがあるのか。そこがさっぱりわからない。メリットがあるとは思えないのである。

 北朝鮮は2006年10月に続いて2009年5月にも核実験を行い、世界から大きな批判を浴びた。だが、これらの核実験は北朝鮮に明確な狙いがあった。北朝鮮にしてみれば、米朝会談を行いたい。なのに、米国は北朝鮮を相手にしない。「米国よ、こちらを向いてくれ」というメッセージをこめたのであり、現に核実験後に米国は北朝鮮のほうを向いた。乱暴極まりない方法だが、北朝鮮の狙いは一応、成功したことになる。

 韓国艦沈没事件は金総書記の謀略ではなく、軍の暴走であったとすれば非常に危険な事態にあると言える。金総書記は権謀術数でいろいろなことをするが、北朝鮮が損になることはしない。メリットを考えてやる。だが、軍の暴走であるのなら、欲求不満や苛立(いらだ)ちが噴き出したことになる。これは危険極まりない。

 おそらく、韓国政府もこのことはわかっているだろう。だから、李明博大統領は口調はとても厳しいが、行動は非常に慎重である。米国も怒ってはいるが、行動はとても慎重だ。

国連の制裁決議は成立するか
 私は、一般の報道とは違って、今回の事件は軍の暴走と考えたほうがわかりやすいと思う。何人かの外務省防衛省の高官に私の考えを話してみた。誰も否定しなかった。肯定もしなかった。ただ「そういうことも、考えられますね」と言うばかりだった。

 日米韓が考えているのは「北朝鮮への国連制裁決議」であろう。国連事務総長を務める韓国の潘基文(バン・キムン)氏は24日、「韓国が安保理に提起すれば適切な措置を取る」とコメントしている。だが、常任理事国である中国とロシアが反対し、制裁決議は成立しないだろう。

 ある外務省筋に取材したところ、「せいぜい『大変遺憾である』という国連議長声明が出される程度ではないか」と述べている。

 今後、朝鮮半島情勢がどう展開していくか、注視する必要がある。
最終更新:2010年06月03日 15:52