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(英エコノミスト誌 2010年12月11日号)

米国、ユーロ圏、新興諸国は、それぞれがバラバラの方向に進んでいる。
2010年は世界経済にとって、予想外の良い年となった。全世界の国内総生産(GDP)は5%近く拡大した模様で、トレンド成長率を優に上回り、12カ月前の予測よりはるかに急速に回復した。この1年、金融市場が恐れていた危機は、大部分が現実になっていない。中国経済はハードランディングに見舞われなかったし、年央の米国の景気減速も二番底には至らなかった。

 確かに、ユーロ圏周縁国の問題は紛れもない現実になった。それでもユーロ圏全体を見れば、老いゆく大陸にしてはまずまず成長している。ドイツが気を吐き、先進国の中で今年最も急速な成長を遂げたおかげだ。

写真説明です⇒悲観論が強かった株式市場は、活気づいている〔AFPBB News〕

 問題は、2011年も同じパターンが続くかどうかだ。そうなると考えている人は多いようだ。

 世界の大部分で消費者や企業の景況感が改善している。製造業も世界中で加速している。金融市場も活気がある。世界の株式市場の動きを示すMSCI指数は、7月初めから20%上昇した。

 投資家は今、ユーロ圏周縁国の国債利回りの急騰から中国のインフレ加速に至るまで、今年悩まされてきたニュースよりもはるかに不吉な知らせを軽く受け流している。投資家は今年、過剰なほど悲観的だった。ここへ来て、活気を増す投資家の自信は見当違いに見える。

 少々単純化しすぎかもしれないが、2011年の世界経済は、新興大国、ユーロ圏、米国という3つの地域で何が起きるかにかかっていると言える(確かに日本は今も経済大国だが、驚きをもたらす可能性は低い)。

 3つの地域はまるでバラバラの方向に進んでいる。成長見通しも違えば、政策の選択も相反する。このような乖離の一部は、避けられないものだ。素人目に見ても、インドと米国の経済には常にかなりの違いがあった。しかし、新たな裂け目が特に先進国の間で広がりつつあり、それに伴って、摩擦が生じる可能性が高まっている。

台頭、崖っぷち、先延ばし
 まずは、2010年の世界経済の成長に圧倒的に大きな貢献を果たした新興大国を見てみよう。中国の深センからブラジルのサンパウロに至るまで、これらの経済圏は絶好調だった。余剰生産能力は使い尽くされた。それが可能な国には外国資本が流れ込んでいる。

 個々の国の資産バブルに対する懸念は、より広範な過熱の恐怖に取って代わられた。中国はその最たる例だが、決して中国だけではない。店が買い物客でごった返すブラジルでは、インフレ率が5%超まで急上昇し、11月の輸入は前年同月比44%増を記録した。

 多くの場合、低利の資金が問題だ。2009年の経済の落ち込みは遠い昔の記憶だが、いまだ極度の金融緩和が続いている。多くの国で、通貨安を誘導しようとしていることが原因だ(この点でもやはり中国が先頭を走っている)。


写真説明です⇒中国ではインフレ懸念が強まり、既に金融引き締め方向に舵を切り始めた(写真は中国・河南省鄭州のスーパーマーケット)〔AFPBB News〕

 金融緩和と通貨安というこの組み合わせは持続不能だ。ほとんどの新興国は物価の上昇を止めるため、来年には金融引き締めに動かざるを得ないだろう。

 これをやり過ぎれば、成長は急激に鈍化する。逆に足りなければ、インフレが高進し、さらに大規模な金融引き締めが必要になる。いずれにせよ、新興経済圏からマクロ経済的なショックが広がる可能性は急激に高まっている。

 ユーロ圏も、間違いなくストレスの源だ。しかもこちらは、マクロ経済と金融の両方にかかわる。短期的な成長は、政府が歳出を削減するというだけの理由で、確実に減速するだろう。ドイツをはじめとする中核国では、自発的にこうした財政再建を行っている。自虐的と言ってもいいほどだ。

 アイルランドポルトガルギリシャなど、追い詰められた周縁国は、選択肢が少ないうえ、恐ろしい未来が待っている。過去の経験から判断すると、通貨同盟に属する国が、賃金と物価の引き下げですぐに競争力を高められる可能性は低い。しかも、ユーロ圏に属する国の破綻が容認されるようになった場合、それが金融にどのような影響を及ぼすかは、まだ明らかになり始めたばかりだ。

 ユーロ圏諸国の多くの政府が過剰な債務を抱えているだけではない。国境を越えた完全な統合をベースにした欧州の銀行業のモデルそのものも再考する必要があるかもしれない。

 これらの難題は、最も賢明な政策立案者にとってさえ重荷となる。残念ながら、ユーロ圏の政治指導者たちは駄々っ子のようで、多くの人を失望させている。2011年はほぼ確実に、さらに大きな混乱が待ち受けているだろう。

オバマ大統領に求められる柔軟さ

写真説明です⇒バラク・オバマ大統領は減税に同意し、米国経済にステロイド剤をさらに注入することにした〔AFPBB News〕

 米国経済も転換するが、向かう方向が異なる。欧州と異なり、米国のマクロ経済政策は緊縮とは全く逆の方向へ動き始めた。バラク・オバマ大統領と共和党指導部が12月7日に合意した減税措置は、予想をはるかに上回る規模となった。

 ブッシュ政権が実施し、期限切れが迫っていた減税が2年間延長されただけでなく、GDPの2%以上に相当する新たな減税措置が2011年に実施されることになった。

 米連邦準備理事会(FRB)が継続している国債買い取りと合わせると、米国は今、折しも欧州がリハビリ施設に入って禁断症状に耐えているこの時に、刺激策のステロイド剤を新たに注入していることになる。

 その結果、2011年の米国の成長率は4%に達する可能性もある。これはトレンド成長率を十分に上回る数字で、すぐにではないが、失業率を低下させるのに十分だろう。しかし米国の政治家たちはリスクも取っている。周知の通り、長期的な財政見通しが厳しいにもかかわらず、オバマ大統領と共和党は、中期的な財政再建について合意の余地を見いだそうとすらしなかった。

 提案された諸々の赤字削減策は、お蔵入りとなる可能性が高い。世界の主要準備通貨であるドルの発行国に極めて寛大な姿勢を取ってきた国債保有者は、減税が合意に達すると、米国債を売った。

 成長の加速を期待する投資家もいるだろうが、米国の財政に開いた穴の大きさを心配する投資家が増えている。こうした懸念が定着すれば、米国が2011年に債券市場の崩壊に見舞われる可能性さえある。

 こうした方向性の違いは、どの程度の問題になるのだろうか?

 3大勢力の方向の相違は、それぞれの経済圏でのリスクを増大させる。米国の金融緩和政策と、ユーロ圏のソブリン債のデフォルト(債務不履行)に対する懸念は、新興国への資本流入を促す。そうなれば、新興国の中央銀行は金利を引き上げてインフレを抑制することに消極的になるだろう。

 新興国は今後5年間で、全世界の成長の50%以上を担う見込みだ。一方、純公的債務残高の増加に関しては、わずか13%しか占めない。世界経済は近い将来、不均衡是正どころか、借金に苦しむ西と繁栄する東という歪みが一層の拡大を見せるだろう。

 これまで西側が恐慌を回避してこられた理由の1つは、欧州と米国が協力し、同じ経済哲学を共有していたことにある。それが現在は、両者とも内部の問題ばかりを心配し、問題に対処するうえで正反対の戦略を採用している。

 これは国際協調にとって悪い前兆だ。ユーロ圏に属する国が今にも破綻しようとしている時に、欧州連合(EU)の政策立案者たちが新たな貿易交渉に集中できるはずがない。

 さらに、これは金融市場にとって悪い前兆だ。ユーロに絆創膏を貼るような欧州のやり方も、赤字に関して「今日のジャムはある。明日は神のみぞ知る」というような米国の戦術も、どちらも持続可能ではないためだ。

 もちろん、こうなると決まったわけではない。オバマ大統領と議会は、すっかり散財した今、中期的な赤字削減計画の策定に着手するかもしれない。反目し合う欧州の首脳たちは、ユーロとユーロ圏の銀行システムを持続可能なものにすべく、徹底的に話し合うかもしれない。そして新興大国は、自国通貨の上昇を容認するかもしれない。

 しかし、どれも怪しいものだ。世界経済の分裂が深まっていくために、2011年はひどいショックが相次ぐ1年になる恐れがある。

© 2010 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
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最終更新:2010年12月13日 14:06