米大統領選で、オバマ大統領が再選された。ただ、「チェンジ(変革)」をキーワードに米国民、世界を熱狂の渦に巻き込んだ4年前に比べ、〝冷めた〟選挙戦だった印象が拭えない。経済再建もできず、失業率は悪化し、「公正な社会」の実現はほど遠い。しかも売り物だった「クリーンでスマート」な姿も消えた。オバマ再選は、熱狂から失望へと振れた民意を映し出す鏡となった。3年前に政権に就いたものの、ほぼ成果なく権力の座にしがみつく日本の民主党政権…。オバマ再選で浮かび上がった米国の閉塞感は、日本の置かれた現状にも共通している。


市場の正直な反応

 「チェンジ」の熱気はどこにいってしまったのだろう。米大統領選の結果の正直な感想だが、市場はもっと辛辣(しんらつ)だ。

 オバマ再選の結果を受け、7日の米国株式市場は急反落して始まり、ダウ工業株30種平均は一時360ドル超も下落。取引時間中としては約2カ月ぶりに1万3000ドル割れとなった。年明けに大型減税の失効と、歳出の強制削減を迎える、いわゆる「財政の崖」への不透明感が嫌気されたとみられる。

 ただ、それはオバマ政権2期目に対する不安を明確に示したものだ。

 しかもオバマ氏は今回の選挙戦で、ロムニー氏との間で、金にものをいわせた中傷CM合戦を繰り広げたほか、どぶ板選挙に徹したとされる。そこにはクリーンさも、スマートさもない。ただ、権力を手放さないための必死な権力者の姿にも映る。

 「一つの国家として前進するため、協力して何ができるかを話し合いたい」

 「米国にとって最良の時はこれからやってくる」

 「個人の野心や政治的な主張の違いで分裂することなく、ともに歩み続けよう」

 イリノイ州シカゴの集会で、そう勝利宣言したオバマ氏。4年前に一世を風靡した「イエス・ウィー・キャン(われわれはできる)」に比べ、どの言葉も空疎で、心に響くものはなかった。


「ましな候補」を選ばざるを得ない選挙

 今回、4年前の前回と一転し大接戦が予想されていた。

 政治専門サイトによると、3日時点の支持率は民主党のオバマ大統領の47・4%に対し、共和党のロムニー前マサチューセッツ州知事は47・2%と拮抗。勝敗を左右するとみられるフロリダやオハイオなどの州は支持率の差が3ポイント以内の激戦となっていた。

 実際、選挙の仕組みから大統領選挙人の獲得数では、オバマ氏完勝となったものの、CNNによると、全米全体の得票率はオバマ氏50%、ロムニー氏48%で、ほぼ互角だった。

 「接戦」の大きな要因は経済を覆う閉塞感だ。

 金融危機に直面した前回、米国は「変革」を掲げる47歳の指導者に現状打破を託した。オバマ氏は過去最大の財政出動を行ったが経済は好転せず、就任時7・8%だった失業率は一時10%にまで上昇した。10月の雇用統計では7・9%と改善傾向だが、依然、高水準で国民が景気回復を実感しているとは言い難い。

 これに対し、ロムニー氏は減税と規制緩和で政府の関与を少なくしながら、経済の活性化を目指すと主張している。しかし、増税のない財政再建と、民間主導の景気回復がどこまで可能なのかは未知数だ。

 何も変わらなかった「改革」への失望は有権者に徒労感を引き起こした。

 今回の接戦は、現職への不満と挑戦者への不安の間で「ましな候補」を選ばざるを得ないという消極的な選択の色合いが濃くなったことの裏返しといえるだろう。

 では、選挙戦で、「よりましな候補」になるにはどうしたらよいのか|。答えは簡単だ。相手を自分より引きずり落とせばよい。先にふれた中傷CM合戦はまさにその典型だろう。

 ワシントンポストによると、オバマ陣営は10月1日から3週間の間に7700万ドル(約61億円)、ロムニー陣営は8700万ドル(約69億円)を選挙CMに投じたとされる。その9割近くが中傷CMという見方があり、両陣営がいかに相手の悪口を言うのに懸命だったかを浮き彫りにしている。


ベターチョイス

 日本でも3年前の総選挙で政権交代が起きた。だが「日本が変わる」という高揚感が打ち砕かれるのにそれほど時間はかからなかった。奇しくも米国と共通する徒労感が「近いうち」とされる総選挙に与える影響はまだ見えていない。

 次期衆院選では、43歳の橋下徹大阪市長率いる「日本維新の会」の獲得議席数に注目が集まる。今月3、4の両日に実施された産経新聞社・FNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、「いま衆院選が行われた際の比例代表の投票先」との問いに対し、日本維新の会との回答は14・6%。自民党25・6%に次ぐ2位で、民主党13・5%を抜いた。

 これは、歯に衣着せぬ物言いで国民的人気もある橋下氏のキャラクターに負う部分が大きい。既成政党や既得権益を手厳しく批判する姿は、それだけ自分たちの正当性を高める役割を果たしている。

 だが、民意が熱狂から失望に振れるのには、さほど時間はかからない。

 オバマ再選は、米国民の「ベターチョイス(よりましな選択)」でしかない。それは、来るべき日本の総選挙で、有権者が置かれた立場にも共通している。

最終更新:2012年11月11日 18:17