米大統領選で、オバマ大統領が再選された。ただ、「チェンジ(変革)」をキーワードに米国民、世界を熱狂の渦に巻き込んだ4年前に比べ、〝冷めた〟選挙戦だった印象が拭えない。経済再建もできず、失業率は悪化し、「公正な社会」の実現はほど遠い。しかも売り物だった「クリーンでスマート」な姿も消えた。オバマ再選は、熱狂から失望へと振れた民意を映し出す鏡となった。3年前に政権に就いたものの、ほぼ成果なく権力の座にしがみつく日本の民主党政権…。オバマ再選で浮かび上がった米国の閉塞感は、日本の置かれた現状にも共通している。
(※ 前略)
ハリケーン「サンディ」が東海岸を襲い、オバマ大統領は被災者に対する思いやりを示すとともに、被害の大きかった地域に政府の資源を配分する機会を得た。オバマ大統領を批判する人物としては他に引けを取らないようなニュージャージー州のクリス・クリスティ知事でさえ、オバマ大統領の行動を称賛した。同氏はロムニー氏を大統領候補として正式に指名する共和党全国大会で基調演説を行った。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースが実施した世論調査によると、国民の約3分の2がハリケーン「サンディ」を受けたオバマ大統領の対応に支持を示した。
勢いを増しつつあり、オバマ大統領のリードに切り込みつつあったロムニー氏にとっては、不運なことにハリケーンでレースが一時中断する格好となった。サンディで国民の関心が大統領選からそれ、ロムニー氏はいくつかの選挙イベントをキャンセルせざるを得なくなるとともに、被災者への同情の言葉とオバマ大統領への批判を微妙に調整することに追われる結果となった。
(※ 攻略)
今回の米大統領選ではオバマ陣営が大きな政府を、ロムニー陣営が小さな政府を掲げた。オバマ氏の勝利でその問題に決着がついたわけではないし、それどころか、激しい選挙戦によって有権者が人種、年代、政党などによって深く分断されたことが明らかになっている。
(※ 中略)
2期目のオバマ大統領は、1期目に実行した医療保険制度改革や金融規制、景気刺激策に匹敵するような大胆で新しい政策に取り組むことは困難になるだろう。ただし、大統領はもう有権者の顔色をうかがう必要がなく、その面では移民法の抜本的な改正など、この世代どころかもっと長く政治に足跡を残せる野心的な課題に取り組むことは可能だ。
(※ 中略)
オバマ大統領は移民法の改革に取り組むと言明している。増加を続けるヒスパニック系住民の支持を確保したい民主党にとって、これは成功に向けた明確な手段になるだろう。共和党がヒスパニック系に対するアピール度を上げる方法を模索しているだけに、なおさらだ。
しかし最大でかつ最も差し迫った課題は、歳出と税をめぐる議会での共和党との対決だ。大統領は選挙戦で、富裕層に対する課税を強化し、その他の層については減税を継続すると表明してきた。大統領は拒否権を発動しても富裕層への増税を共和党に飲ませる意向を示している。
(※ 後略)
<バークレイズ・ウエルス(ニューヨーク)のアーロン・ガーウィッツ最高投資責任者(CIO)>
今回の大統領選挙でウォールストリートは賭けに負けた。選挙戦ではロムニー候補をはじめ共和党に多額の資金が金融業界から流れたが、それは金融サービスの規制緩和を望んでいたからだ。今やロムニー氏は敗れ、業界の宿敵ともいえるエリザベス・ウォーレン氏が民主党の上院議員として当選を果たした。現行法で不動産関連の税務対策を考えている投資家はすぐに着手したほうがいい。
<オムニベスト・グループの共同社長兼最高投資責任者、トム・ソワニック氏>
オバマ大統領の勝利で、バーナンキ氏が引き続き連邦準備理事会(FRB)議長を務めるとみられるため、リスク資産が上昇するだろう。今夜はドルが軟調で、量的緩和が続くとの見方が反映されている。
オバマ大統領の勝利は、FRBが安定し、富の再配分に焦点があてられることを意味する。ドッド・フランク法(金融規制改革法)も維持されるだろう。
オバマ勝利で、銀行に対する規制が強化され、銀行ビジネスと証券ビジネスが分離される可能性があることは誰でも知っている。それは証券会社の追い風となる可能性はあるが、銀行にとってはいいことではない。
<元ウェルズ・ファーゴCEOでロムニー氏の支持者、ディック・コヴァチェビック氏>
彼(オバマ氏)は今後も規制を強化し、ビジネスを悪者扱いしたり、中傷したりするほか、多額の支出を行い、増税を実施したりし続けるだろう。彼はそれが良いと考えており、政府が雇用を生み出し、民間セクターはそうではないなどと考えている。
過去4年間と同じことが続き、過去4年間と同じ結果を生み出すにすぎないのではないか。われわれの経済は回復力があるため、オバマ政権にもかかわらず、経済は過去4年間よりも良くなるだろうが、異なる政策をとれば実現できたであろうと思う結果に比べれば劣るのだろう。
(※ 詳細は記事を)
オバマ続投。それが決まった瞬間、ネバダ州・ラスベガスのホテルの宴会場に集まっていたオバマ陣営のサポーターたちは湧き返った。
「もう、ロムニーが大統領になる悪夢を見て、夜中にうなされて跳び起きることもなくなるんだ……」
レズリー・ニューマンはそう言って胸を押さえた。涙が彼女の目尻に溜まっていた。68歳のレズリーはリーマンショック後、持ち家だけは何とか死守したが、老後の蓄えを全て失った。42歳の息子は職を失い、医療保険もない。
オバマ再選に怒りを隠さないのは、娘が軍隊に入隊しているというラリー・クラークだ。
「イスラエルをないがしろにしているオバマが、イスラム勢に肩入れして、アメリカ市民を危険にさらしている。シリアやリビアなど中東がとんでもないことになっているのに、弱い大統領を選んだこの国をどこが攻撃してくるかわからない」
オバマ再選に涙を流す女性 あまりの怒りで首の神経が痛むと言うラリーは、ポケットから携帯用の鍼を出して、首のツボに刺した。
概ね共和党関係者の口から漏れるのはこれと同じ論調である。前述の専門家のようにハリケーンの効果が1日で収束したと見た者から、モリスのようにハリケーンの影響をまったく考慮しなかった者まで、同様に「ハリケーンにやられた」と口にしている。
たしかにオバマ陣営側がハリケーンを上手に後ろ盾として直前戦略に活かしたのは事実だ。第1に、自然災害では政府の必要性を強調できる。たまたまロムニーはFEMA(連邦緊急事態管理庁)の廃止を訴え、自然災害対応を州レベルに任せるという趣旨の発言をしていた過去があった。オバマ陣営側は、空中戦・地上戦問わず、直前のキャンペーンを通じてロムニーのFEMA廃止論を拡散することで、ロムニーの先見性の無さと連邦政府の必要性を同時に強調できた。
第2に、ロムニーが選挙戦を通じて遠ざけてきた「ブッシュ」という負の記号を選挙直前に呼び覚ましたという、共和党側が主張している点だ。たしかに、ジョージ・W・ブッシュ大統領の不人気は、ハリケーン・カトリーナと共に記憶されている。
(※ 後略)
◆大統領選挙後の「バブル破裂」とは!?
私は、決して米株「オバマ・ショック」は杞憂と言っているわけではありません。「崖」が理由ではない、”別のオバマ・ショック”は、むしろ要注意ではないかと思っています。それについては、10月26日付け「米大統領戦後にバブル破裂が起こる!?」(
http://nikkan-spa.jp/318469)というコラムですでに書いています。
(※ 中略)
私は、「崖」をきっかけとした「オバマ・ショック」より、むしろ「崖」回避の見通しとなってきたときにこそ、”真のオバマ・ショック”が要注意ではないかと思っているのです
(※ 詳細は記事で。)
(※ 前略)
それでは何がオバマ大統領を再選に導いたのでしょうか。
選挙戦の最終版で、ハリケーン被害への対応が評価されたことや、雇用統計が改善したことがプラスに働いたことは確かです。ただ全体としてみれば、経済状況に不満はあるものの現職大統領を追い出すほどではないという有権者の消極的な選択だったと思います。
1期目のオバマ政権が、数々の大きな実績を残したことは、間違いありません。
(※ 中略)
それでは2期目のオバマ政権はどうなるでしょうか。
1期目を振り返ってみますと、オバマ大統領の実績のほとんどは、最初の2年間に集中しています。大統領としては、上下両院ともに与党の民主党が多数を占めている間に、通せる法案は全部通そうという戦略でした。そしてそれは正解だったと思います。実際、中間選挙で共和党が下院の多数を握って、ねじれ現象が起きたとたんに、議会審議は膠着状態に陥り、今年これまでに提出されたおよそ4000本の法案のうち、成立したのはわずか2%です。
(※ 中略)
ブッシュ政権時代から続いている大型減税策の期限が今年いっぱいで切れる上に、来年1月からは財政赤字を減らすための強制的な予算の削減措置が始まります。「実質的な増税」と「急激な財政引き締め」が予定通り行われれば、再び世界を揺るがすようなアメリカ発の経済危機が起こる可能性もあります。
それを回避するために、税制はどう見直すのか、国防予算や社会保障費について野党共和党とどう折り合うのか、オバマ政権の2期目の戦いは、来年1月の就任式を待たずに始まります。 (岡部 徹 解説委員)